円卓帝国――住民がいない状態で、生徒達が溢れるこの街で。
迂闊にも一番乗りしてしまった所為で、絶体絶命の危機だった俺達を救ったのは、
――刀の一閃
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
「はひ!?」
「ぶるあぁぁぁ!?」
鞘から抜いた刀は、ただその一撃で、四人もの先輩達を吹き飛ばしていた。
「え、ええ!?」
それを行った俺がまず驚く、だけどその驚きは、
「で、出来た……」
メディも一緒みたいだった。
「メディ、これって」
背中に彼女をおんぶした状態なのに、全く体に重みを感じなく、寧ろ軽い。そして扱えないはずの刀を、使いこなせた事について問い質そうとしたら、
「こぉのぉ!」
あ、ぶるあぁぁって言ってた人――スキンヘッドの斧持った人が起き上がってまた飛びかかってきて!
「【戦斧】スキル! 〈ギー
ひたすら真っ直ぐに、斧を振り落としてくる!
――左
(あっ)
それは声じゃなくて、直接、
無防備な脇腹に、刀を叩き込んだ。
「ぶるあぁぁぁぁ!?」
と、大声をあげて、スキンヘッドの人は倒れた。……と、とりあえず、本当に血は出ていない。殺しあいを安心安全の訓練に出来る皇帝のスキル凄すぎない?
「ああ、〔戦斧豪傑のアックスマックス〕がやられた!」
「奴は私達四天王の中でも最強……!」
「じゃあ俺達じゃあいつ倒せないじゃん!?」
な、なんか、仲間だったぽい三人も叫んでる、……他の人達も、手出しをしてこなくなった。明らかに俺を、いや、俺達を警戒している。
「――【紫電】スキル〈オ
俺の背にしがみついてる、メディが言った。
「いわば、超接近型バフです、回復と能力向上をかけると同時に、体と刀の動かし方を
そう、そんな気がする、俺とメディで、この体を動かしてる、操られてるというより共同作業というか、
――一心同体
「……メイド長に教わりました、力に心を支配されるなと、心の下に力を置けと」
メディは、
「私の能力は本来、人を傷つけるばかりで、私がそれがとても嫌で、力を使わなかった、だけどそれを優しい力に変える方法を、メイド長は教えてくれました」
そう言ってまた、彼女は体の中の電流を、本来なら身を焼き尽くす筈の稲妻を、暖かさにして優しく俺に伝える。
――電気信号で俺の体を動くようにしてくれる
「この技は、心を一つにしなければなりません、支配ではなく、協力しあう為に」
「心を一つに」
「ご主人様」
メディは、言った。
「1番になりましょう」
学園の門を見定めて、一変した俺達の様子に、慎重さを隠さなくなった先輩達にも臆する事無く、
俺のメイドは、
「1番で試験を合格しましょう!」
そう、促す。
――1番なんて前世ではけして、目指そうともしなかった
ただ、学校に入れればいい、それだけでいいと思ってた。
だけどそれは、
一人だったから。
「――わかった」
今は違う、
「俺とメディの為に!」
「私とご主人様の為に!」
今は、それを目指す理由が、こんなにも近くにある!
笑顔の彼女が、俺といる!
「うわぁ、動き始めた!」
「いやこんなの絶対、俺達の負けフラグじゃん!」
「単位目当て、試験官なんか志願するんじゃなかったぁ!」
そんな弱音を吐きながらも、
((気を抜けばやられる!))
それが俺達の共通見解、だから、下手に立ち向かったりせず、逃げる事を考えて――ここぞという時だけ刀を振るう!
そうして学園の門まで進んでいく内に、だんだんと、……疲れてくる。
「はぁ、はぁ……」
そうか、メディの【紫電】スキル、体の中の電流は無尽蔵じゃない。きっと彼女はそれを振り絞って、俺に与えてくれている。
メディの
(――学園の門まで辿りつかなきゃ)
そう思った次の瞬間、
「【炎聖】スキルぅぅぅ!」
「え?」
「あっ」
屋根の上から、燃えるハンマーを振り上げて!
「〈
俺とメディを叩きつぶしてきた!?
「うわぁっ!?」
紙一重で俺達はそれをかわす、だけど、叩いた箇所から巻き上がった炎に吹き飛ばされる!
「わ、った、ったぁ!?」
こけかけたけどどうにか踏みとどまる、目の前には――ハンマーだけじゃなく髪までぼぉぼぉと燃やすフィアが居た。
「うおっ!? 聖騎士団今年唯一の
「下手に手を出すな、巻き込まれるぞ!?」
「やってくださいSランク様ぁ!」
周囲にどよめき、そして歓声が起こる中で、フィアは静かに俺達をみつめる。
そ、そうか、フィアはもう入学確定で最早学園の生徒、俺達の妨害に出てもおかしくないのか。
「……アルテナッシ」
「な、何?」
フィアはじーっと俺をみつめる。
……いや、俺をというか、俺が背負ってるメディを見てる?
――なんでまた
「――そんなに」
「へ?」
「そんなにおっきい方がいいのかしらぁ!」
「なんの話!?」
急に訳が解らない事を言い出した!?
「あ、あの、フィア様!」
あれ、顔を赤くしてどうしたの、メディ?
「まだフィア様には、成長期があります!」
えっと、おっきいとかちっちゃいとかって、身長の話?
まぁ施設でも、小さい事は気にしてたみたいだけど。
「うるさい! いいからとっととアルから離れなさいよ!」
「いえその、もうご主人様とは離れられないといいますか」
「ふぅざぁけぇるぅなぁ!」
どうしよう、なんでフィアがここまで怒ってるのか、さっぱりわかんない。
そんでもって、
「もういい――あんたのその無駄にでかいもんごと!」
フィアが爆発する程燃えあがって、
「あんたもアルも叩きつぶしてやるわよぉ!」
俺達に殴りかかってくるの、本当にわかんない!?
「わぁぁ!?」
ただの攻撃じゃなく、俺とあと多分メディの心を掻き乱してからの一撃は、それに対する反応を遅らせて、
燃えあがるハンマーに、叩きつぶされたと思った、
その瞬間、
――狼が
「え?」
――黒い毛並みに緑を混じらせた巨大な狼が
「ええ?」
――横から思いっきりフィアに、突撃した
「ぎゃっ!?」
「え」
「ええ!?」
緑毛混じりの黒い狼、全身2メートルを越えるそいつは、ハンマーごとフィアを抑え付けた。
「フィ、フィア!?」
「フィア様!?」
二人揃ってフィアの心配をした後、
「どうして街にモンスターが!」
先輩達のどよめきの中、俺もメディも、魔物に向けて刀を抜く、だが、
「落ち、着け」
「……え?」
「俺は、魔物じゃ、ない」
そう言って狼は――フィアから離れると、そのまま立ち上がるようにしてその途中で、
「お前と、同じ」
人の姿に変えていく。
「入学、希望者だ」
「――貴方は」
集合場所の草原にいた、狼の耳を生やした獣人だ。
想定外の種族の登場に、俺以外も全員がざわつき始める。
だがそんな中で、フィアだけが
「ちょ、ちょっと、あんた、いきなり何を突撃かましてきてんのよ!?」
「お前の
「いや無視すんな、ちょっと!?」
フィアのそんな声も無視して、その獣人は、
「行け」
と、言った。
「……なんで、いいのか?」
「み、見た限り、狼になって私達に追いついたみたいですが、それは私達より先に合格する為では?」
「俺は、
そして獣人は、こう言った。
「お前の、匂いだ」
……へ?
俺の匂い?
「は、はぁぁぁぁ!?」
あ、フィアが俺の代わりになるように驚いてる、……なんか顔が赤いぞ。
「な、なによそれ、あんた変態なの!? ア、アルの匂いって」
「嫉妬、するな」
「へ、嫉妬!? 何を言ってんのよ!?」
「感情は、匂いで、解る」
「か、嗅ぐなぁ!?」
なんか叫んでフィアがハンマーで獣人に殴りかかる――獣人は瞬時で狼になり、その攻撃をいなす。
「――行け」
そしてまた、同じように促した。
「……わかった、なんだか解らないけどありがとう!」
「感謝します!」
「あ、ちょっと待ちなさいよ」
俺を追おうとするフィアの前に、獣人はすっと立ちふさがる。
「な、なんなのよあんた!?」
「――〔嗅ぎ分けるスメィウルフ〕」
後ろで繰り広げられるやりとりを、
「スメルフと、呼べばいい」
「誰が呼ぶかぁぁぁっ!」
後にして、俺達は門へと走った。
――そしてそれから15分後
「はぁ、よ、ようやく」
「辿り、尽きました……!」
俺達の目の前には、学園の門がある、そこまであと10メートル!
「やった、これで」
「1番の成績で――」
お互い摩耗した心と体に、喜びを溢れさせようとしたその時、
――ズガァァァァァァァン!
「うわ!?」
「きゃっ!?」
な、何
え?
「きゃっはっは! そう簡単には通さないよぉ!」
声の持ち主は、ぐるぐるメガネを付けて三つ編みでそんでもって白衣をつけている、小柄な女性、そして、
――彼女が”乗って”いるそれは
「【知聖】スキル!」
あのスライムと同じくらいの大きさをした、
「〈アウ
ブリキのオモチャめいた、
「特にお兄ちゃん達みたいな、庶民と庶メイドはねぇぇぇ!」
「ロボだこれ~!?」
鉄の巨大な人形が、最後の壁として立ちはだかった。