学園の巨大な門、その前に立ちはだかったブリキのオモチャめいた
その四角張った頭の上に、
「ご主人様、ロボってなんですか?」
「あ、いや、その」
俺は自分の失言に気付く――そうだ、この異世界、大分、元の世界のものが
「きゃっはっは! ロボットが何かっていいますとぉ!」
あ、なんか説明してくれる。
「この天才、〔暴れる知聖のアシモチャン〕が、女神様から10歳の時に授かったスキル、【知聖】と一緒に頭の中に授かった
……説明してるようでしていない気が。あ、でも、もしかしてメートル法とかも、こんな感じでスキル経由で伝わったのか。
あれ、待てよ?
「――10歳?」
スキルが覚醒するのは、12歳から16歳だ、けどアシモチャンは10歳って言った。矛盾してないか?
「ふふ~ん、気になる気になる? それはですね~」
「世界には稀に、12歳以前にスキルの神託を受ける者もいます」
「あ、こらぁ!?」
「早ければ早い程、そのスキルは
「お、お姉ちゃん、ずるいぃ! アシモチャンが説明したかったのぉ!」
……頭は天才みたいだけど、中身は子供のまんまみたいだ。
「もう、怒った!」
「え?」
「私のロボット、アイザックくんで!」
あ、四角ばった巨大ロボットが、動き出して、
「けっちょんけちょんのギッタンギタンにしてあげるんだからぁ!」
「うわ!?」
「きゃぁ!?」
攻撃しはじめてきた!?
蛇腹の腕で、クレーンゲームのアームみたいな手を、鞭みたいに振り落としてくる!
す、凄く乱暴な動きだけど、早い! 石畳が抉れてく!
「きゃはは! どうだ見たかぁ!
そう言って、どんどん俺達を攻撃してくるアシモチャン。
「筋肉じゃ解決できない事でも、機械で全て解決できるぅ!」
まずい、攻撃の隙を突いて、門を潜り抜ける事も出来ない。どうにかして動きを止めないと――でもどうすれば、
「ああ、頭のいいアシモチャンは、庶民と庶メイドにも知恵をさずけま~す」
「え?」
「一回、逃げたらいいんですよー」
――それは
「お兄ちゃん達の失敗は、
……確かに、この入学試験がハードモードなのは、俺達が勝手に飛び込んだから。
それは、認める、
だけど、
「……ご主人様」
どっちが正しい?
言われた通り逃げるか、意地を張って戦うか、
正しいのは、
……いや、
違う、
正しいとか間違いとかじゃないんだ、
俺のからっぽの心を埋めるのは、きっと、
「メディ」
「はい」
「俺は、逃げたくない」
「――私もです」
この、ドキドキする気持ちだから、
笑顔を浮かべて、心は一つになった、そんな俺達に、
「〈ア
「うわっ!?」
ロ、ロボットの目からビーム!? 近接だけじゃなくて、中距離攻撃まで!
「ああもう、やっぱりパパとママの言うとおり、庶民はバカばっか! 折角教えてあげたのに!」
砕けた地面に足を取られないようにしながら、光線を避けていく俺達、
「ご主人様、こうなったら【○○ター】を使うしか」
それはここ
「メディは、【ハンター】のスキルを使う俺と、心を一つに出来る?」
「――それは」
今、俺が心を動かせているのは、メディが刀を使った事があるからだ。俺が【ハンター】を使ったらどうなるか?
いよいよとなったらしょうがない、
でも、まだ何かがあるんじゃないかって、
(考えろ、Sランクとかなんだとか、強そうなスキルに囚われるな――
ただ強いだけじゃなくて、このロボット相手への
機械を、ロボットを、倒せるスキル、
「――あっ」
い、いや、思いついたけど、いけるのか?
そんな、俺の思い描いたとおりの、スキルになるのか?
いや、
やるしかない!
「行くよ、メディ!」
俺がそう心を決めたなら、
「はい!」
メディは何も聞かずに、心を合わせてくれる。
背中から感じる信頼を覚えながら俺は、
――ロボットのビームを潜り抜け
そして、その腕の一撃も紙一重で躱して、
「懐に飛び込んだところで!」
アシモチャンが、
「鉄の体に斬り掛かっても、その
そう言って、再びビームを放とうとした時、
【○○ター】
を、目の前に浮かばせて、そして、
叫んだ。
「【セーター】!」
――その瞬間
「え?」
アイザックくんの巨大な機体に、ハートマークが描かれたセーターが着せられる。
「あ、ちょっと!? 機械の間接に毛糸が絡んで!?」
【セーター】スキル Dランク
スキル解説[望む相手に手編みのセーターを着せる]
セーターは、人間相手にはあったかくても、機械相手には縛りになる、
鉄の間に絡む毛糸は、歯車の動きを
動きが鈍くなったロボットのセーターに、俺は、
刀の峰をぴったりとひっつけた。次の瞬間、
――メディは体中の雷を
本来なら、人を癒やす程度の電気を、
刀を通じてセーターに伝えた。
――機械の天敵、静電気
「〈ウィンタ
「ぴきゃああああああ!?」
ロボットのダメージを代わりに叫ぶように、アシモチャンの悲鳴が聞こえる。
「しび、しび、しびれますぅぅぅぅぅ!?」
バチバチバチィっと、セーターによって増幅した静電気は、確実にロボットとアシモチャンにダメージを与えていくけど、
「しびびびびびび!?」
「ご主人様!?」
当たり前だけど、俺にも
「メメメディだいじょぶぶぶ!?」
「わ、私は元々耐性はありますが、ご主人様は!」
そう、メディが心配する通り、相当キツい!
だけどロボットが動かなくなるまでの我慢比べ!
――そう思ってたけど
「こ、このぉ!」
アシモチャンの声が聞こえて、
「やめなさぁい!」
「うあっ!?」
「きゃっ!?」
ロボットはセーターが絡んだ腕で、無理矢理俺達を突き飛ばした。距離があく中で、俺はなんとか踏みとどまるが、ぷすぷすと煙をたててるロボットの頭の上で、必死になんか色々と操作しているアシモチャン、
「わ、私のアイザックくんを、よくもポンコツに~!」
ロボットの目に、力が集まって、
「やっつけてやるぅ!」
全エネルギーをビームにして、俺達に放とうとしている。
――俺はその時
刀を納めて柄を握り、
構えた。
「行きます!」
「ああ!」
ビームが俺達に離れた瞬間、
その光速よりも早く、俺達は、
刀を抜いた。
――鋭く光る厳めしき刃
「「〈セレ
音速を越え、光速にすら達するような、前へ駆けながらの居合切りは、
傷みを追ったロボットの機体に、とどめの一撃を与えると同時に、
「――ご」
俺達二人を、
「ごっ」
門の向こうへと、運んだ。
「合格ですぅぅぅ!?」
アシモチャンと、あと、ロボットの爆発音と一緒に。
「……や、やった?」
「や、やりました、よね?」
試験の合格条件は、学園の門を潜る事。
それが本当だったら、俺の入学は決まった。
だけど、実感が全然無い、
「た、立てますか、ご主人様?」
「ちょ、ちょっと無理そう、メディは?」
「私も……少し休憩を……」
喜びよりも前に、互いを労る俺達、
そこに、
「――凄かったです!」
男の子の、声が聞こえた。した方を向けばそこには、
「試験合格、おめでとうございます!」
……小柄を足元までスッポリ包む、見るだけで上質な素材を使ってるのが解る、鮮やかにしつらえられたローブ姿。身なりよく、どことなく気品さを感じる男の子が、そう言って俺に声をかけてくれた。……うん、多分男の子。女の子みたいだけど、男の子。
生徒にしては、制服じゃないし、先生にしては、子供だし、
なんて、俺が迷っていると、
「ま、ま、まさか」
メディが震えてる? どうしてだ?
「ああ、ごめんなさい、自己紹介をしなきゃですね」
そう言って目の前の男の子は、ブラウン色のミディアムヘアーを弾ませながら、
――二つ名を翳した
「僕の名前は、〔皇帝であれエンペリラ〕」
え?
「円卓帝国第七代皇帝、エンペリラです」
「えええええ!?」
目の前の存在の衝撃は、俺の心に、合格の喜びを沸き上がらせる暇もなかった。