目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

2-end 上を向いて、そして踏みしめて

「合格、おめでとうございます!」


 入学式を終えた俺とメディは、帝国学園の制服三着分が入った紙袋や、入学証明書等が入った袋を手に下げて、帝国の街の通路を、宿を探しながら闊歩していた。

 この帝国は、完璧な円形。

 真ん中の、皇帝陛下が住む城を中心に、学園を含めた国家運営に関わる場所があり、更にそこから生活圏が拡がる構造。

 ひとまず、今日の宿を探しながら、俺とメディはその道を歩いている。


「これから忙しくなりますね、3日後には学園生活が始まりますし」

「ぜ、全然余裕がないけど、準備って大丈夫そう?」

「はい! まずはご主人様の新生活に、ピッタリの下宿を探さなければ」


 入学試験の後に入学式があってその三日後から学園生活。

 なんというか、スピード感が前の世界と違って段違いだな。これがいいか悪いかは人によるだろうけど。


「そういえば、今更だけど学費とかってどうなるんだろ?」

「全部、学園がもってくれます、生活費や教材費、武器の購入費も補助が出ます」


 そ、そこまで至れり尽くせりなんだ。そりゃみんな、憧れるよな。


「――とはいえ、あくまで最低限の資金、生活の質QOLを高める為には、お金は稼いだ方がいいですね」

「なんだろう、バイトとか?」

「いえ、ダンジョン探索や魔物退治とかですね」

「そうなの?」

「ええ、寧ろ学園ではその二つを、積極的に授業として取り入れています、何せ空飛ぶ帝国ですから」

「あ、そっか、校外学習みたいに、世界中に都市ごと冒険ができるのか」


 改めて凄いなこの帝国――ていうか、皇帝エンペリラ様のスキル。

 14歳、俺より二つ年下なのに、亡き父の遺志を継いで、この国と大陸中の国の人達の幸せの為に、心を砕いて。

 ……逆にちょっと心配にもなるけど。


「ただ、やはりというかなんというか、クラス分けが1-Fでしたね」

「え、それが何か?」

「……一学年あたりのクラスはAからF、それから飛んでSの合計7つです」

「Fと、S?」

「はい、Sに関しては、その名の通りSランクスキルの方や、貴族の方が中心にされた特別なクラスです、ただ、Fに関しては……」


 そこで少しだけ間を置いてから、メディ、


「その多くが、最底辺の試験の合格者、また、”問題があると判断された”生徒達が、集められたクラスと言われています、ただ、学園側はこれを否定してますが」

「そ、そんな差をつけてるの? そういうのってエンペリラ様が嫌いそうだけど」

「……皇帝の思いが、全てに伝わってはいないのでしょう」

「ああ、そっか……」


 どれだけ理想を唱えても、それは共通の理想じゃない。

 当たり前だけど、皇帝陛下も人間なんだ。しかも、俺と同じ年齢くらいの。

 自分の願いが、全て通る訳じゃないんだろう。

 Eよりも下の、Fか。

 ……でも、俺には関係無いか。


「大丈夫だよメディ、だって俺は、〔何も無しのアルテナッシ〕だから」

「――ご主人様」


 そう、ランクとかどうとか、俺には関係無い。

 言葉遊びだけど、それでも、俺の二つ名に、皇帝陛下は前向きな意味をくれた。

 あの人の理想に応えるような、学園生活を送りたい。

 俺の為にも。


「そういえばご主人様、スキルが”レベルアップ”したとか」

「ああ、そうなんだ」


 俺は、メディには見えない、俺にだけ見えるスキルメニューを開く。


 【○○】スキル -ランク レベル2

 スキル解説[     ]

 レベルアップ特典1[一度使ったスキルの再使用(Eランクまで]

 レベルアップ特典2[お題を一回だけパス出来る]

 レベルアップ特典3[漢字にひらがなとカタカナまぜまぜ禁止]


 ……特典3に関してはご褒美じゃなくて縛りになっているけれど。まぁ、漢字とひらがなカタカナの組み合わせなんて、俺には後、東京バナなんとかくらいしか思い浮かばないけど。

 特典1は論外だけど、特典2はいいかもしれない。【ぬ○ぽ】みたいなお題が戦ってる時に出たら、流石にパスするしかしょうがない。

 寧ろ、今一番俺が嬉しいのは、特典そのものなんかよりも、


 【○○】


 次のお題が空白二文字、つまり、二字熟語の漢字を使えるという点だ。

 無敵でもいいし、達人でもいい。それこそ、炎聖に対抗して水聖とか。

 ただ、ありがたいと思う同時に、宝の持ち腐れになりそうなのも困る。


(三日後に学園生活が始まるのに、もったいぶってスキルを使わなかったら、成績不良で退学、とかありえそうだし)


 なんて事を思いつつ、俺はメディに気になってた事を尋ねる。


「スキルがレベルアップするって、珍しいよね」

「はい、珍しいですが、前例がなかった訳じゃありません」

「……にしたって、俺のレベルアップの切っ掛けってなんだろ、強いモンスターを倒した訳じゃないのに」

「――それはおそらく」


 メディは、笑って言った。


「心が、強くなったからじゃないでしょうか」

「心が」

「……なんというか、ご主人様のスキルは、心に関わる気がして、……い、いえ、私の想像ですが」


 ……ああ、凄いな、メディって。

 俺がまだ彼女に言ってない秘密を当ててくる。

 本当に、俺の心に寄り添ってくれる。

 ……そうだ。


「メディ、これ」


 俺は、ポケットの中に残ってた、萩の星を取り出した。


「これは、例のお菓子」

「よかったら、食べて」

「え、そ、そんな滅相も! 皇帝陛下に献上したものと同じ物を、メイドがだなんて」

「……そっか、それじゃ」


 メディの言う事も少し解る、だから俺は、

 ――個包装の袋を剥がした後、萩の星を二つに割って

 その半分を、メディに差し出した。


「一緒に食べよう」

「……ご主人様」


 これなら、食べてくれるかなって。

 メディは、ちょっとだけ躊躇したあと、俺から半分こにされた菓子を受け取る。俺はそれを見届けてから、彼女と同じタイミングでかぶりつく。


「――美味しい」

「本当? よかった」


 ふわふわの生地、とろりと甘いカスタードクリーム、単純だけどその甘さが、口に広がる。

 ……お菓子とか、余り食べさせてもらった事がないから、感想はなんとも言えないけど、

 味なんかより、メディが喜ぶものを、一緒に食べられた事が嬉しい。


「ありがとうございますご主人様」


 メディは笑う。


「皇帝陛下も食した菓子を、主人から頂いた、メイドとして、これ以上の誉れはありません」


 ……その笑顔を見て俺は、


「そっか、幸せって、分け合うものなんだな」


 思った事を思わず呟く。

 メディは俺の言葉に一瞬目を見開いたが、またすぐに笑ってくれた。


「明日から三日間、色々と準備がありますので、ご主人様のお世話はおろそかになると思います、どうかご容赦ください」

「ああ、メディ」

「なんでしょうか」

「改めてありがとう、」

「こちらこそ、ありがとうございます」


 メディが俺の、初めての友達になってくれて良かった。

 そんな風に思った時、

 ――テロピロリン♪

 あれ?

 システム音だ、

 なんだ、また何かスキルに何かあったのか?

 不思議に思いながら、俺はスキルのメニュー欄を開く。


 【○。。】スキル -ランク 

 スキル解説[丸いお菓子を二つに分けたので、○も。。になりました]


「小文字二つぅ!」

「ご主人様!?」


 理不尽過ぎるスキルの俺への仕打ちに、俺は往来でありながら、四つん這orzいに崩れるしか無かった。






 【○。。】スキル -ランク Lv2

 スキル解説[     ]

 アルズハート

 [【笑顔】【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】]


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?