「合格、おめでとうございます!」
入学式を終えた俺とメディは、帝国学園の制服三着分が入った紙袋や、入学証明書等が入った袋を手に下げて、帝国の街の通路を、宿を探しながら闊歩していた。
この帝国は、完璧な円形。
真ん中の、皇帝陛下が住む城を中心に、学園を含めた国家運営に関わる場所があり、更にそこから生活圏が拡がる構造。
ひとまず、今日の宿を探しながら、俺とメディはその道を歩いている。
「これから忙しくなりますね、3日後には学園生活が始まりますし」
「ぜ、全然余裕がないけど、準備って大丈夫そう?」
「はい! まずはご主人様の新生活に、ピッタリの下宿を探さなければ」
入学試験の後に入学式があってその三日後から学園生活。
なんというか、スピード感が前の世界と違って段違いだな。これがいいか悪いかは人によるだろうけど。
「そういえば、今更だけど学費とかってどうなるんだろ?」
「全部、学園がもってくれます、生活費や教材費、武器の購入費も補助が出ます」
そ、そこまで至れり尽くせりなんだ。そりゃみんな、憧れるよな。
「――とはいえ、あくまで最低限の資金、
「なんだろう、バイトとか?」
「いえ、ダンジョン探索や魔物退治とかですね」
「そうなの?」
「ええ、寧ろ学園ではその二つを、積極的に授業として取り入れています、何せ空飛ぶ帝国ですから」
「あ、そっか、校外学習みたいに、世界中に都市ごと冒険ができるのか」
改めて凄いなこの帝国――ていうか、皇帝エンペリラ様のスキル。
14歳、俺より二つ年下なのに、亡き父の遺志を継いで、この国と大陸中の国の人達の幸せの為に、心を砕いて。
……逆にちょっと心配にもなるけど。
「ただ、やはりというかなんというか、クラス分けが1-Fでしたね」
「え、それが何か?」
「……一学年あたりのクラスはAからF、それから飛んでSの合計7つです」
「Fと、S?」
「はい、Sに関しては、その名の通りSランクスキルの方や、貴族の方が中心にされた特別なクラスです、ただ、Fに関しては……」
そこで少しだけ間を置いてから、メディ、
「その多くが、最底辺の試験の合格者、また、”問題があると判断された”生徒達が、集められたクラスと言われています、ただ、学園側はこれを否定してますが」
「そ、そんな差をつけてるの? そういうのってエンペリラ様が嫌いそうだけど」
「……皇帝の思いが、全てに伝わってはいないのでしょう」
「ああ、そっか……」
どれだけ理想を唱えても、それは共通の理想じゃない。
当たり前だけど、皇帝陛下も人間なんだ。しかも、俺と同じ年齢くらいの。
自分の願いが、全て通る訳じゃないんだろう。
Eよりも下の、Fか。
……でも、俺には関係無いか。
「大丈夫だよメディ、だって俺は、〔何も無しのアルテナッシ〕だから」
「――ご主人様」
そう、ランクとかどうとか、俺には関係無い。
言葉遊びだけど、それでも、俺の二つ名に、皇帝陛下は前向きな意味をくれた。
あの人の理想に応えるような、学園生活を送りたい。
俺の為にも。
「そういえばご主人様、スキルが”レベルアップ”したとか」
「ああ、そうなんだ」
俺は、メディには見えない、俺にだけ見えるスキルメニューを開く。
【○○】スキル -ランク レベル2
スキル解説[ ]
レベルアップ特典1[一度使ったスキルの再使用(Eランクまで]
レベルアップ特典2[お題を一回だけパス出来る]
レベルアップ特典3[漢字にひらがなとカタカナまぜまぜ禁止]
……特典3に関してはご褒美じゃなくて縛りになっているけれど。まぁ、漢字とひらがなカタカナの組み合わせなんて、俺には後、東京バナなんとかくらいしか思い浮かばないけど。
特典1は論外だけど、特典2はいいかもしれない。【ぬ○ぽ】みたいなお題が戦ってる時に出たら、流石にパスするしかしょうがない。
寧ろ、今一番俺が嬉しいのは、特典そのものなんかよりも、
【○○】
次のお題が空白二文字、つまり、二字熟語の漢字を使えるという点だ。
無敵でもいいし、達人でもいい。それこそ、炎聖に対抗して水聖とか。
ただ、ありがたいと思う同時に、宝の持ち腐れになりそうなのも困る。
(三日後に学園生活が始まるのに、もったいぶってスキルを使わなかったら、成績不良で退学、とかありえそうだし)
なんて事を思いつつ、俺はメディに気になってた事を尋ねる。
「スキルがレベルアップするって、珍しいよね」
「はい、珍しいですが、前例がなかった訳じゃありません」
「……にしたって、俺のレベルアップの切っ掛けってなんだろ、強いモンスターを倒した訳じゃないのに」
「――それはおそらく」
メディは、笑って言った。
「心が、強くなったからじゃないでしょうか」
「心が」
「……なんというか、ご主人様のスキルは、心に関わる気がして、……い、いえ、私の想像ですが」
……ああ、凄いな、メディって。
俺がまだ彼女に言ってない秘密を当ててくる。
本当に、俺の心に寄り添ってくれる。
……そうだ。
「メディ、これ」
俺は、ポケットの中に残ってた、萩の星を取り出した。
「これは、例のお菓子」
「よかったら、食べて」
「え、そ、そんな滅相も! 皇帝陛下に献上したものと同じ物を、メイドがだなんて」
「……そっか、それじゃ」
メディの言う事も少し解る、だから俺は、
――個包装の袋を剥がした後、萩の星を二つに割って
その半分を、メディに差し出した。
「一緒に食べよう」
「……ご主人様」
これなら、食べてくれるかなって。
メディは、ちょっとだけ躊躇したあと、俺から半分こにされた菓子を受け取る。俺はそれを見届けてから、彼女と同じタイミングでかぶりつく。
「――美味しい」
「本当? よかった」
ふわふわの生地、とろりと甘いカスタードクリーム、単純だけどその甘さが、口に広がる。
……お菓子とか、余り食べさせてもらった事がないから、感想はなんとも言えないけど、
味なんかより、メディが喜ぶものを、一緒に食べられた事が嬉しい。
「ありがとうございますご主人様」
メディは笑う。
「皇帝陛下も食した菓子を、主人から頂いた、メイドとして、これ以上の誉れはありません」
……その笑顔を見て俺は、
「そっか、幸せって、分け合うものなんだな」
思った事を思わず呟く。
メディは俺の言葉に一瞬目を見開いたが、またすぐに笑ってくれた。
「明日から三日間、色々と準備がありますので、ご主人様のお世話はおろそかになると思います、どうかご容赦ください」
「ああ、メディ」
「なんでしょうか」
「改めてありがとう、」
「こちらこそ、ありがとうございます」
メディが俺の、初めての友達になってくれて良かった。
そんな風に思った時、
――テロピロリン♪
あれ?
システム音だ、
なんだ、また何かスキルに何かあったのか?
不思議に思いながら、俺はスキルのメニュー欄を開く。
【○。。】スキル -ランク
スキル解説[丸いお菓子を二つに分けたので、○も。。になりました]
「小文字二つぅ!」
「ご主人様!?」
理不尽過ぎるスキルの俺への仕打ちに、俺は往来でありながら、四
【○。。】スキル -ランク Lv2
スキル解説[ ]
アルズハート
[【笑顔】【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】]