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5-12 YO-KAI Disco

 ――八百万やおよろず信仰

 前世の世界、日本での概念、神様は唯一じゃなくて、ありとあらゆる物に宿っているという考え方アニミズム。妖怪もその思想に影響されているみたいで、唐傘お化けとか提灯お化けとか、物が転じて妖と成す。

 そんな百鬼ひゃっきを引き連れながら、


「すごい、すごいすごぉい!?」


 俺は、いや俺達は走っていた。

 密林地帯、だだっぴろい道、今は色彩豊かな火の玉で"虹の川"をアニマルバイクで走る中で、後ろニケツのセイカ様がはしゃいでいる。


「まるでお祭り、パレードみたい、ほんにいろんな妖怪がおる!」


 あれ、聖女様、なんでこれがモンスターじゃなくて妖怪って知って――あ、そっか、先輩に言った時に聞いたのか。

 ともかく、俺がやる事、

 妖怪達の力を借りて、


「先輩をスライムから助け出す!」


 そう宣言して、1kmの距離を走る俺に、


「や、やめろ、穢れし者達が! 私に――神に盾突くなぁ!」


 先輩はそう言って、闇雲にビームを打ってきた、そのうちの一つが俺達にあたろうとするが、

 ――塗り壁が前に出てきて

 防いでくれるインターセプト! そして入れ替わり、火の車輪の妖怪、輪入道が、ぐるぐると回りながら火を飛ばし、かまいたちが風の刃を放つ!


「ぐううううう!?」


 火が燃え、風が裂く――攻撃を受けた女神の体は、怯みながら小さくなっていく!


「ダメージ通ってるんよ!」


 セイカ様の言う通り、宙で態勢を崩す女神スライム、だが先輩は、


「舐ぁめるなぁ!」


 そう叫んで、一気に空へと上昇していく!


「神はカミ! 手の届かぬ場所から、裁きを下すまでの事ぉ!」


 そう言って、俺達から逃れるように、遥か上へとあがった女神を、

 ――雷の一撃が貫いた


「ぎゃあああああああああ!?」


 "雷神"の起こした雷撃が、上昇をストップさせる、また小さくなった女神スライムへ、俺は、


「【百鬼夜行】スキル!」


 とっておきを呼び出す――


「〈ビッグセンチピードロ七半巻きの百足道ード!〉」


 俺の言葉と供に、俺達の足元に超巨大な大ムカデが出現した、ムカデはゆっくりと体を起こし、そのまま頭を女神スライムに向けて、俺達を導く道となる!

 ――ムカデの背を駆け上がる虹光の族達に


「く、来るな、来るな来るな来るな来るなぁっ!」


 再びビームが向かってくるが、妖怪達とセイカ様の奇跡が守ってくれた、そして俺達は、ムカデの頭という終着点まで迫った。


「セイカ様、俺はこのまま妖怪を引き連れて突っ込特攻っこみますから、下で受け止めらてもらえますか!」

「それくらいの奇跡、朝飯前よ!」


 その言葉を残してセイカ様はテレポートした、一人乗りになったアニマルバイクは増々速度を増して、そして俺は、

 ――ムカデの頭の際ギリギリでブレーキをかけた

 慣性の法則に従って、バイクから飛び出す体、


「来るなぁぁぁぁぁ!」


 俺を狙い撃ちした先輩のビームが向かってくる、だけど、

 ――背中に、風を受ける

 天狗の羽団扇の風が、俺を加速させる! 女神の頭上へたどり着く、

 女神の体の中にいる先輩を見下ろしながら、俺は、刀の柄を掴んで、


「――【百鬼夜行】スキル」


 そのままに、流星群のように妖怪達を引き連れて、

 スライム女神に向かって、

 抜刀する。

 ――黄金たった一つを打倒する虹彩いっぱい


「〈エイトミリオンシューティングレ流れ虹、夜を駆けてインボウ!〉」


 天狗の風、牛頭馬頭の連携、雪女のつらら、小豆洗いの小豆、

 そんなありとあらゆる攻撃と供に放たれた俺の刀の一撃は、スライムを打ち破り、そして、

 ――そのスライムを

 俺と、解放されたゴッドフット先輩の間で、女神の小像へと変化させた。

 ――その瞬間

 時が止まる、

 世界がモノクロームになる、

 俺と先輩のトラウマが走り出す再生される


≪貴方は完璧じゃないと許されないのよ!≫


 ……自分に嘘を吐くしかなかった俺と、


≪全ては、神の名の下に許される≫


 嘘に縋る事を強いられた先輩。

 ……世界には、優しい嘘がある事だって解っている、だけど、

 俺と先輩に必要なのは、嘘とは正反対の物、

 そう思った時、

 女神の小像の前に、【○○】が浮かぶ、

 からっぽな俺の心と、

 先輩を満たす言葉は、

 とてもシンプルだけど、とても難しい、

 ――自分に嘘を吐かない生き方


「【真実】」


 その言葉を、当てはめた瞬間、

 俺と先輩のトラウマは消え失せて、

 ――時が流れ出すと供に

 女神の像は輝きと供に、何か、二つ折りの紙に変化した。

 ……ああ、これは、

 成績表だ。

 オール5って、修正される嘘を吐く前の。

 それを俺が手に掴んだ途端、妖怪達が消えていった。空には、俺と先輩だけになった。

 ……俺達は今、

 ゆっくりと下降している、

 それは地上で、アニマルバイクと供に待っている、セイカ様の【奇跡】、

 ゆるりゆるりと落ちていくその途中で、

 先輩が呟いた。


「神様、どうして」


 子供のように泣きそうな声のその言葉は、


「何故」


 先輩の心が、救われていない事を意味していた。

 ……そりゃそうだ、スライムの所為とはいえ、自分のしていた事がただの自作自演だったのだから。


(かける言葉が見つからない)


 そうだ、トラウマは別に、消えた訳じゃない、忘れられるものじゃないのだから

 克服は難しくて、付き合い方を変えるくらいしか方法が無くて、

 ――無言のままに俺達は

 セイカ様が待っている地上へと。俺は立って降りたけど、先輩は、その高い背を屈ませながら、尻もちをついて、地面を見下ろしている。

 ……そんな先輩に、

 セイカ様が近寄る。


「もっとはように、大人が君の事を救えたはずなんよ」


 セイカ様は、左目を閉じたまま、右目だけを細めて、


「うちが疑問を持つ前に、聖都の偉い人達が気づくべきやったんよ、痕跡がこんな連続で見つかるのはおかしい、何かあるって、疑えるはずやった」

「――疑う」


 その言葉に、


「……それは私も同じ事です、女神の痕跡を見つけた時の歓喜に溺れ、これが真実だと疑わなかった」

「結果を出せって、追い詰められてたんちゃう?」

「だとしても私は――」


 先輩はそのまま、


「許されない事をしました」


 無表情で言葉を零す。

 ――ああ、まるでからっぽだ

 メディと出会う前の、俺みたいだ。

 ……そんな先輩に、


「――それならうちが、聖都の女王であるうちが罰を下す」

「……はい」

「〔神探しのゴッドフット〕」


 セイカ様は言った。


「君はここに残って、遺跡の再建をするまで、オーガニ族と暮らし」

「……え?」

「女神様のおらへん暮らしを、ここで実際に体験しぃ言うてるの」

「し、しかしそんな、村の者達が私を受け入れる事は」

「そこも含めて罰なんよ、まぁ、うちも口添えはするけど、他の土地の女神の偽痕跡も処理しとく後始末よってに」

「――聖女様」


 そこでセイカ様は、にこっと笑った。


「女神様を信じる事が悪いんちゃうんよ、大切なのは、色んな生き方、考え方があるのを知る事、沢山の事を知って、その上で、自分の信じる神様を信じなさい」


 ――セイカ様の言葉を聞いて


「疑う事は悪くないんよ、それは、真実に辿り着く為の手段なんやから」

「……真実」

「大丈夫、ゴッドフット君の信仰は、きっとそこへ辿り着ける」

「――あぁ」


 先輩は、


「神様はきっと見てくれてるよ」


 泣き始めた。


「あぁぁぁぁぁぁっ!」


 声をあげて、空を仰ぎながら、子供のように泣き叫ぶゴッドフット先輩。

 ……この日のために用意されていたかのような、スキルの穴埋めの問題。

 セイントセイカ様に出会う為に用意した物かと思ってたけど、もしかしたら、


「女神様、聖女様、……セイカ様、ああ、あぁ」


 ――先輩を救う為の物だったのかな

 ……わかんないけど、とりあえず、


(――良かった)


 急な安心感が湧き上がってきて、そしてそれは、

 疲労感と、激しい睡魔を、セットで呼び起こしてきて、


「――あっ」


 スイッチが切れたように倒れる体を、


「おっと」


 支えてくれたのは――セイカ様で、


「また後で、アル君」


 俺を労わる声を聞いた俺は、嘘を吐いていない、本当の成績表を掴んだまま、

 そのまま、セイカ様の腕の中で、意識を失った。

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