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幕間

ExtraSide三人称視点 聖騎士団本部、渡り廊下

 ――アルとメディが招待状を受け取ったその日の夜

 聖騎士団本部の建物は、荘厳な雰囲気を出す為に、大理石が多く用いられている。そのおかげ、ただ建物と建物を繋ぐ渡り廊下を歩くだけでも、靴と床の間で、カツン、カツンという、リズム刻む高音が響く。

 高貴さすら覚える硬質の奏で、だけどそれが、不意に止まった。


「――ドロウマナコか」


 足音の主は、〔剣聖ソーディアンナ〕であり、そして目の前に居るのは、渡り廊下で待っていた、ベレー帽を被った〔絵師は見る人ドロウマナコ〕、

 だけど、呼吸するように絵を描く彼女が、今は、筆も握らずスケッチブックも開かずに、アンナをみつめて、

 こう言った。


「――ゴッドフット君の責任を、押し付けられた事を抗議すべき」


 マナコの言葉にアンナは、穏やかに笑う。


「そうはいかないよ、私は、聖騎士団の団長だからね」

「その団長トップが、あいつらの言う事を聞く必要があるべき?」

「あいつらって言っちゃ駄目だよ、偉大なる先達OBだよ」


 聖騎士団の組織構成は、いびつである。

 表向きこそ学園の生徒をリーダーにおいているものの、それは対外的なパフォーマンスが強く、実際は、学園の卒業生はもちろん、実戦経験の無い貴族ですら、組織を構成する要職に付いている。

 名ばかりのトップ、操られる傀儡、

 ――その立場を十分に、ソーディアンナは理解していた

 そう、自分のような者なんて、


「ともかく、私は責務を果たす」


 幾らでも替えがきくんだと。


「――スライム退治の務めをね」


 ……抗ってきたつもりではあった、からっぽな心でも、世界平和、その願いだけは真実だと、その為に聖騎士団長の理想を貫いてきたつもりだった。

 けれど、結果は、


「解ってるべき、あいつらは、アンナに死にに行けって言ってるのに気づいてるべき」

「まぁ、そうだね、仲間を連れていく事も許さず、一人で討伐を成し遂げろって言ってるから」

「ならどうして!」


 叫ぶマナコの前で、アンナは、

 ――からっぽの笑顔を浮かべた

 それを見て、胸がぎゅっと締め付けられるマナコ。


「――アンナ」

「……どうか信じてくれたまえよ、私の、〔剣聖ソーディアンナ〕の強さを」

「でも、相手は、スライム最強

「どうにかなるさ、ただ、私が敗れてしまった時は、後を頼めるかな」

「そんな約束はしちゃいけないべき!」

「――そう言わないでくれよ」


 そして再び、


「この事は内密に――特にフィアにはうまく誤魔化しておいてくれ」


 カツンと、靴音は響きだした。

 笑顔からっぽを浮かべる彼女に、それ以上言葉もかけられず、そして自分のスキル千里眼で追いかける事も出来ず、

 マナコからどんどん遠ざかりながらアンナは、

 ――アルテナッシの顔を思い浮かべてた


「何も無し、か」


 その、本来、空虚であるはずの二つ名に、


「私も彼みたいに、もっと自由に、生きられたかな」


 憧れを抱いてるような言葉を呟いて、


「自分の心に嘘を吐かず、生きられたかな、ねぇ」


 そして彼女は死地に向かう、

 倒すべきスライム最強

 そのネームド名付きは、

 ――{ロストフューチャー描けぬ理想


「――お父様」


 彼女の戦果をアルテナッシ達が知るのは、これより一か月後の事である。

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