海を泳ぐ楽園タートルリゾート――その甲羅の上にあるプールサイドの一つで、俺がご尊尻を前に圧倒的にひれ伏していた時、
「ご主人様、大丈夫ですか!」
と――多分、ドラゴンタクシーで追っかけてきてくれたメディがやってきて、
「ええええ!?」
と、驚きの声をあげた。うん、当然の
「やれやれ、主人も礼儀知らずなら、従者もそうか? ここは俺様の
そう言って、この人は、俺にケツを向けたまま歩いて行く。
「まぁ良い、呼び立てたのは俺様ゆえにな」
「――え、ま、まさか」
「うむ」
そしてある程度歩いた場所で止まった瞬間――一見女性に見えるけれど、よくよく見れば美しい青年だという事が解る青年が、
「俺様が、
この時初めて俺は、エルフリダ様のご尊尻じゃなくご尊顔をハッキリと見た。
プラチナグリーンの髪は首元まで広がり、そこからエルフ特有の長いとんがり耳が突き出してる。肌は全て透き通るように白く、鼻筋もスッキリしてて、まさに童話の世界の住人のよう。
だけど、目や口といった"意思"を表現する部分は、燃え上がるようにキツリとしてて、その瞳にみつめられているだけで、心臓に冷や汗をかいてしまう。
完全な美の肉体から、あふれ出して隠しきれない王の
(エンペリラ様とは違うタイプのカリスマ)
俺が、びしょ濡れのままにそう思っている内に、俺の隣にメディがやってきて、そして俺と同じように跪いた。
「お初にお目にかかります、森王エルフリダ様。私、アルテナッシの従者、〔癒やし手のメディクメディ〕でございます」
そう、二つ名も翳しながら挨拶する。俺も慌ててメディと同じように、
「ア、アルテナッシ、〔何も無しのアルテナッシ〕です」
と、急いで挨拶をした。俺の二つ名を見て、エルフリダ様はほうっと唸った。
「なんとまぁ、聞いたとおりの無様で退屈な二つ名よ。一体どういう生き様をすればその名が付く」
「そ、それは」
「まぁ良い、それは後回しだ、それよりメディ」
そこでエルフリダ様は、
「何故こちらを見ぬ? 俺の美しさに目でも潰れたか?」
と、問いかけた。
……言われてみればメディ、頭を下げるばかりで、エルフリダ様の方を見てはいない。
けどその理由は――メディの顔が少し赤らんでいる事で解った。
そしてその事を、
「エルフリダ様、人の常識は――」
「――ああ、そうだったな」
俺でもなくメディでもなく、隣の【収納】スキルを持った美青年のメイドさんが進言した。言われたエルフリダ様は、
「幾ら俺様が王であろうと、美しくあろうと、異性に裸体を晒すのは余りに暴力――そんな"
そう素直に反省した――メディは目を伏せたまま、「い、いえ」と、答える。
……なんか思ったよりも話のわかる感じ、名君であり暴君、逆もまた然り、なのかな。
とか考えていれば、
「つまり、こうすれば良い訳だな」
「え?」
そう言ってエルフリダ様は、指
――その瞬間
ずずずっと、エルフリダ様の髪が伸びて、
「え、え?」
ずももっと、胸が膨らんで、
「え、え、え?」
身長はそのままだけど、体がやわらかくふくよかになって、細身のシルエットに厚みが増して、
――変化しながら玉座から立ち上がったエルフリダ様は
「これでよかろう! 改めて、俺様の名を聞け!」
その体を、
「我が名は森王エルフリダ――」
女性になったその体を、あざとさ上等に揺らしながら、
言い放つ。
「〔狭間に立つエルフリダ〕である、刮目せよ!」
「ええええ!?」
――目の前に立ちはだかる
想定外のエルフリダ様に、俺は顔を真っ赤にしてしまい、そして、
「ご主人様、ダメぇ!?」
その俺の視界を、慌ててメディが両手で隠した――や、やばい、こうしてくれなかったら、網膜にあの姿が目に焼き付く所だった。
……心がからっぽな俺だけど、こういう、初々しい反応をしてしまう。そしてその事にちょっと戸惑う。
そりゃもちろん、男の子なのにこういうのに反応しない方が不自然かもしれないけれど、元々俺は心がからっぽの男。
(それなのに、え、えっちなので心が動くって、喜んでいいのか悪いのか)
とかそんな事を考えている中で、暗闇にエルフリダ様の声が聞こえる。
「どうした? 女同士であれば裸は問題なし、男は裸を見て滾るものだろう?」
と、不思議そうな様子だけど、それに対して、
「破廉恥です」
淡々と、青年メイドさんは指摘した。
「破廉恥か」
「変態です」
「変態か」
あ、目を閉じてても、青年メイドさんが冷たい目でエルフリダ様をみつめているのが解る。そして、
「――とにかくもこちらをお召しに」
「ふむ、水着か、よし、着せよ!」
「失礼致します」
とか言った後、何やら着替えさせられている感じ? ……十秒くらい経った後、メディの目隠しが外れると、そこには、白磁肌のグラマラスな肉体を、華美に飾るような黄金色のビキニ姿のエルフリダ様がいた。……美しいけど、ちょっとセンスが下品かもしれない。
それにしても、男から女になるって。いやここはファンタジー世界、
「これで良いか
改めて堂々と――女性になっても貫禄のある声で、仁王立ちになって言い放つエルフリダ様。
「は、はい、ありがとうございます」
「しかし、お前達の
と、言ったその時、
「恐れ多くもエルフリダ様」
メディが、発言する。
「王の情けを賜る前に、お聞きしたい事がございます?」
「ほう、述べよ」
「――何故、アルテナッシ様をお呼びになったのですか?」
――そうだ、気になっていた事だ
本当なら俺が聞かなきゃいけなかった事を、メディが代わりに答えてくれた。
そしてその質問に、
「俺様が用があったのは、この何も無しでは無い」
「え?」
そう言って、エルフリダ様はメディに近づき、
「癒やし手のメディクメディ」
しゃがみ込み、その女性になっても凜々しい美形で、メディを笑みで貫くようにしながら、
こう言った。
「この男より、俺様のメイドになるがよい」
「――へ?」
――唐突なその
その事を告げられた俺は、絶句して固まるメディの隣で、