――泳ぐ楽園タートルリゾート、沢山の水着客で溢れるビーチ
青い空、青い海、白い砂浜、輝く波、どこをどう見ても、パラダイスとしか言い様がない南国ビーチ。
そんな場所で俺と言えば、赤と白のパラソルの下、ビーチチェアの上でサーフパンツを履いた足を伸ばしながら、
「はぁ……」
全く
そんな俺の目の前に、
「こちらをどうぞ」
ずいっと、グラスに満ちた、爽やかな緑の色合いをしたカクテルが差し出された。
「ハーブ入りのノンアルコールカクテルです、健胃効果もあります」
「あ、ありがとうございます」
【収納】スキル持ちの美青年メイド――〔収納上手なヨジゲンカバン〕さんが、どこからともなく取り出したそれを受け取り、ストローでチューッと吸う。味覚はまだまだうっすらだけど、喉から胃がスッキリしていく感覚は、素直に嬉しい。
尚、今のカバンさんの格好は、"
そんなことを考えながらみつめてると、
「このたびは、エルフリダ様の
と、言った。
「い、いやそれは」
正直、否定しにくい、だからといって肯定もしにくいこの言葉。だけどカバンさんはそんな俺の気持ちを察するかのように、一人で話を続ける。
「元と言えば私の所為なのです、エルフリダ様の
「――そうだったんですか」
その言葉を聞く限り、優しい人なのかな、エルフリダ様。
……いや、それでもやっぱり国際会議をすっぽかすのはどうなんだろう、前世での常識じゃ計っちゃいけないのかな。
「……こんな形で、メイドの里の後輩に、迷惑をかける事になるとは」
――あれ?
今、メイドの里って言った?
「メイドの里、カバンさんって、メディと同じ所の出身なんですか?」
「ええ――彼女とは面識はありませんが、追放された、という噂はメイドの情報網で」
「会った事はないんですか?」
「私がエルフリダ様を主人として、里を出たのは15年前の16歳の時ですので」
ああ、それなら会ってないのも当然か。
……。
え、カバンさんって31歳なの!? この
「ともかくも、私の為にメイドを増やす必要があるとおっしゃりまして、エルフ種は
「それで、メディに目がつけられた」
「ええ――失礼を承知で、敢えて噂のままに話すのであれば」
そしてカバンさんは、こう言った。
「Fクラスの問題児に、メイドの里のメイドの人生が狂わされている、と」
――それは
……そう言われて俺は、黙ってしまった。
「……何故、否定されないのでしょうか?」
「い、いや、それは」
「彼女の主人である、自信がないと?」
図星を突かれて、俺はまた黙る――その気持ちは常につきまとう。
もちろん、メディは俺の従者で、友達だ。かけがえのない存在で、彼女に相応しいご主人様になりたいって考えている。
だけど同時に、本当に俺でいいんだろうか、っていう気持ちは、常にずっと付きまとう。
この"二つ"は、けっして無くならない。
前向きな気持ちの中に、全力でうずくまりたいネガティブな気持ちがあって、そんな自分が嫌になって、それで、
ああそんな風にまた、"
陥りそうになった時、
「――メイド長から教わりました」
その声は、
カバンさんのものでは無く、
「己の価値を、けっして、過去だけで定めてはいけないと」
「――メディ」
左斜め後ろから聞こえた声に、俺は振り返ろうとしたけど、
「振り返らないでください」
そう言われて、ビタリと止まる。
――それは、"私を見るな"という意味なのか
"過去に囚われるな"の意味なのか、わからないまま従った。
……俺の背中へと、メディの言葉は続く。
「ご主人様のその思いを、"そんな事は無い"、と否定する事に意味が無いのは知っています、ご主人様の心はご主人様だけの物、他者と理解しあうなんて、望んではいけない唯一無二の物」
――それでも、と言って
そして、見えないけど、きっと笑って、
「だけど、心と心は一つになれないからこそ、触れあう事が出来ると、教わりました」
そう言った。
「もし、身も心も一つになれば、互いの距離は無くなって、"間"が無ければ手も握れない、話も出来ない、ご主人様の辛さを聞く事も出来ないと」
「――メディ」
「"今"はどうかお悩みください、
メディは、
「あの日約束したとおり、明日も――未来も、ずっと私が傍にいますから」
――それは初めて出会った日の言葉
「……
「
確かに未来は不確定だけど、正直、不安の方が大きい。
だけどメディは――そんな俺の未来に、価値を見いだしてくれてるみたいで、それが、
とても、嬉しくて、
「――ありがとうメディ」
俺は思わず"振り返って"メディに声をかけて、
「あっ」
「あっ」
見てしまった。
――メディの、水着姿を
「あ、あぁっ!?」
――そう叫びながら、顔を真っ赤にするメディの水着姿は
自分の
カバンさんから提供されて、更衣室で着替えてきたその水着姿に、
――からっぽなはずの俺の心はうずいて
「――かわいい」
と、ポツリと呟いていた。
「
あ、メ、メディが悶えている、こんな恥ずかしがるメディ見た事無い。
「も、申し訳ありません、お褒めの言葉は大変嬉しいのですが、こ、このような姿を晒すのは」
「ご、ごめん! あんまりジロジロ見ないようにするから!」
「い、いえ……ご主人様には見られても構いませんが、ああでも、やっぱり恥ずかしい……」
とかなんかそんなもだもだとしたやりとりをしているのを見て、カバンさんが、
「やはり
と、いきなり言った。
「何を言ってるんですか!?」
「本当に何を!?」
と、思わず突っ込む俺達に、
「いえ、メイドが増えるのは全く構わないのですが、その為に他の主従を引き裂くとかどういう
と、淡々とまくしたてるカバンさんに、
「ちょっと落ち着いて――」
くださいと、ビーチェアから立ち上がりながら言った、その時、
――バコォォォォォン! と
「え!?」
何かが叩かれる音がした後に、俺とメディの足下に、ビーチボールがたたき付けられた。ボールは、砂浜を抉ってシュルシュルと回転しつづけている。
「なるほど! 俺様に、王の命に背くか、面白い!」
そしておそらくは、このビーチボールを叩きつけたであろう相手が、
――〔狭間に立つエルフリダ〕様が、
今は男の姿に戻った状態で、海側の方に立っていて、
「ならば勝負よ! どちらが真にそのメイドに相応しいか」
――そのいでたちは
「エルフ塾名物、
「
金色のビキニ姿のままの王様に、俺は思わず