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6-3 メイドが水着に着替えたら

 ――泳ぐ楽園タートルリゾート、沢山の水着客で溢れるビーチ

 青い空、青い海、白い砂浜、輝く波、どこをどう見ても、パラダイスとしか言い様がない南国ビーチ。

 そんな場所で俺と言えば、赤と白のパラソルの下、ビーチチェアの上でサーフパンツを履いた足を伸ばしながら、


「はぁ……」


 全く気分があがらないテンションサゲサゲままに、重いため息を吐いていた。

 そんな俺の目の前に、


「こちらをどうぞ」


 ずいっと、グラスに満ちた、爽やかな緑の色合いをしたカクテルが差し出された。


「ハーブ入りのノンアルコールカクテルです、健胃効果もあります」

「あ、ありがとうございます」


 【収納】スキル持ちの美青年メイド――〔収納上手なヨジゲンカバン〕さんが、どこからともなく取り出したそれを受け取り、ストローでチューッと吸う。味覚はまだまだうっすらだけど、喉から胃がスッキリしていく感覚は、素直に嬉しい。

 尚、今のカバンさんの格好は、"メイド水着言葉面まんま"、……遠くから見たら女性としか思えないだろうけど、ここまで近くだと、肩幅の広さや喉仏など、男性の特徴がハッキリしてて。けれどそれが不思議な魅力色気になってる気もなんかして。

 そんなことを考えながらみつめてると、


「このたびは、エルフリダ様のワガママ暴君に付き合わせてしまい、申し訳ありません」


 と、言った。


「い、いやそれは」


 正直、否定しにくい、だからといって肯定もしにくいこの言葉。だけどカバンさんはそんな俺の気持ちを察するかのように、一人で話を続ける。


「元と言えば私の所為なのです、エルフリダ様の専属メイドワンオペでありながら、最近は十全に仕事をこなす事が難しく、四国会談の欠席も、私の休養を優先したゆえで」

「――そうだったんですか」


 その言葉を聞く限り、優しい人なのかな、エルフリダ様。

 ……いや、それでもやっぱり国際会議をすっぽかすのはどうなんだろう、前世での常識じゃ計っちゃいけないのかな。


「……こんな形で、メイドの里の後輩に、迷惑をかける事になるとは」


 ――あれ?

 今、メイドの里って言った?


「メイドの里、カバンさんって、メディと同じ所の出身なんですか?」

「ええ――彼女とは面識はありませんが、追放された、という噂はメイドの情報網で」

「会った事はないんですか?」

「私がエルフリダ様を主人として、里を出たのは15年前の16歳の時ですので」


 ああ、それなら会ってないのも当然か。

 ……。

 え、カバンさんって31歳なの!? この若さ見た目で!?


「ともかくも、私の為にメイドを増やす必要があるとおっしゃりまして、エルフ種は長命200~300歳、齢50を超えているエルフリダ様に、後進の育成をする必要も確かにありますので」

「それで、メディに目がつけられた」

「ええ――失礼を承知で、敢えて噂のままに話すのであれば」


 そしてカバンさんは、こう言った。


「Fクラスの問題児に、メイドの里のメイドの人生が狂わされている、と」


 ――それは

 ……そう言われて俺は、黙ってしまった。


「……何故、否定されないのでしょうか?」

「い、いや、それは」

「彼女の主人である、自信がないと?」


 図星を突かれて、俺はまた黙る――その気持ちは常につきまとう。

 もちろん、メディは俺の従者で、友達だ。かけがえのない存在で、彼女に相応しいご主人様になりたいって考えている。

 だけど同時に、本当に俺でいいんだろうか、っていう気持ちは、常にずっと付きまとう。

 この"二つ"は、けっして無くならない。

 前向きな気持ちの中に、全力でうずくまりたいネガティブな気持ちがあって、そんな自分が嫌になって、それで、

 ああそんな風にまた、"自己嫌悪による自家中毒バッド"へ、

 陥りそうになった時、


「――メイド長から教わりました」


 その声は、

 カバンさんのものでは無く、


「己の価値を、けっして、過去だけで定めてはいけないと」

「――メディ」


 左斜め後ろから聞こえた声に、俺は振り返ろうとしたけど、


「振り返らないでください」


 そう言われて、ビタリと止まる。

 ――それは、"私を見るな"という意味なのか

 "過去に囚われるな"の意味なのか、わからないまま従った。

 ……俺の背中へと、メディの言葉は続く。


「ご主人様のその思いを、"そんな事は無い"、と否定する事に意味が無いのは知っています、ご主人様の心はご主人様だけの物、他者と理解しあうなんて、望んではいけない唯一無二の物」


 ――それでも、と言って

 そして、見えないけど、きっと笑って、


「だけど、心と心は一つになれないからこそ、触れあう事が出来ると、教わりました」


 そう言った。


「もし、身も心も一つになれば、互いの距離は無くなって、"間"が無ければ手も握れない、話も出来ない、ご主人様の辛さを聞く事も出来ないと」

「――メディ」

「"今"はどうかお悩みください、メイドがその傍にいます」


 メディは、


「あの日約束したとおり、明日も――未来も、ずっと私が傍にいますから」


 ――それは初めて出会った日の言葉


「……明日未来の俺が良くなるなんて解らないのに?」

明日未来のご主人様が悪くなんて解りません」


 確かに未来は不確定だけど、正直、不安の方が大きい。

 だけどメディは――そんな俺の未来に、価値を見いだしてくれてるみたいで、それが、

 とても、嬉しくて、


「――ありがとうメディ」


 俺は思わず"振り返って"メディに声をかけて、


「あっ」

「あっ」


 見てしまった。

 ――メディの、水着姿を


「あ、あぁっ!?」


 ――そう叫びながら、顔を真っ赤にするメディの水着姿は

 自分の髪色薄紫と白をデザインにしたビキニスタイル、元々のプロモーションの良さを、しっかりと包み込み際立たせながらも、所々についたフリルが、元のメイド姿を思わせて、かわいらしくて、とってもキレイで、美しくて、

 カバンさんから提供されて、更衣室で着替えてきたその水着姿に、

 ――からっぽなはずの俺の心はうずいて


「――かわいい」


 と、ポツリと呟いていた。


~~~~っ声にならない声!?」


 あ、メ、メディが悶えている、こんな恥ずかしがるメディ見た事無い。


「も、申し訳ありません、お褒めの言葉は大変嬉しいのですが、こ、このような姿を晒すのは」

「ご、ごめん! あんまりジロジロ見ないようにするから!」

「い、いえ……ご主人様には見られても構いませんが、ああでも、やっぱり恥ずかしい……」


 とかなんかそんなもだもだとしたやりとりをしているのを見て、カバンさんが、


「やはり純愛ラブラブはいいですね、略奪愛NTRは何が良いのか解りません」


 と、いきなり言った。


「何を言ってるんですか!?」

「本当に何を!?」


 と、思わず突っ込む俺達に、


「いえ、メイドが増えるのは全く構わないのですが、その為に他の主従を引き裂くとかどういう趣味性癖なんだと思う所がありまして、まぁ実際にアルテナッシ様がどうしようもないろくでなしであったのならば、五分の理はともかく一分の理はあったかもしれませんが、こんな初々しく甘酸っぱい主従カップルを割くなぞ言語道断としか」


 と、淡々とまくしたてるカバンさんに、


「ちょっと落ち着いて――」


 くださいと、ビーチェアから立ち上がりながら言った、その時、

 ――バコォォォォォン! と


「え!?」


 何かが叩かれる音がした後に、俺とメディの足下に、ビーチボールがたたき付けられた。ボールは、砂浜を抉ってシュルシュルと回転しつづけている。


「なるほど! 俺様に、王の命に背くか、面白い!」


 そしておそらくは、このビーチボールを叩きつけたであろう相手が、

 ――〔狭間に立つエルフリダ〕様が、

 今は男の姿に戻った状態で、海側の方に立っていて、


「ならば勝負よ! どちらが真にそのメイドに相応しいか」


 ――そのいでたちは


「エルフ塾名物、美威血破麗ビーチバレーで決めようでは無いか!」

変態だ~金ビキニ!?」


 金色のビキニ姿のままの王様に、俺は思わず不敬を働いてツッコんでしまうのだった。

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