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6-4 2 VS 1+1

 エルフ塾名物"れい"。

 森王エルフリダによって作られた、エルフの森の教育施設にて、2vs2の決闘で用いられる儀式である。

 元々は温厚な性格の多いエルフ達であるが、その能力の高さゆえに、一度ひとたび戦う事となれば、死エルフが出る危険性は高く、それならばと間にネットという仕切りをおいて互いを分断させ、先の尖った矢を撃ち合うのでなく、丸い球形のボールを打ち合わせるようにした。また、2vs2にしたのは、片方が暴走した時にそれを抑え込む為である。

 ちなみに、命のやりとりをする事を、俗にタマを取り合うというが、その由来はこの美威血破麗からという説もある。

 ――エルフ書房刊 『森王エルフリダ、その偉大な功績』より

 ……なんていう、嘘か本当か解らない――いや、多分絶対嘘な説明をしながら、ヨジゲンカバンさんは【収納】スキルを使って、タートルリゾートの砂浜に、ビーチバレーの準備を整えた。

 そしてコートの周りには、すっかりギャラリーが集まっていて、


「森王エルフリダ様が、円卓帝国の学園生徒と、ビーチバレーで対決だとよ!」

「メイドを賭けた一戦らしいわ!」

「ていうかなんだあの金ビキニ!?」


 男の姿だろうが構わぬとばかり、エルフリダ様は金ぴか水着で、ネットの向こう側にいる訳で。

 そう、俺とメディも既にコートイン、なのだけど、


「――エルフリダ様はお一人ですか?」


 メディがそう尋ねれば、エルフリダ様、うなずくのでなく首をぐいっと上げた。どうやら王様となると、肯定すらも逆にしなきゃならないみたい。

 カバンさんがペアになるかと思いきや、どうやらエルフリダ様は、俺達相手に一人で戦うみたいだ。


手加減舐めプと考えているのなら、見当違いだ〔何も無しのアルテナッシ〕」


 エルフリダ様は、


「俺様は王、王は常に頂点、天上天下唯我独尊、こと戦いにおいて従者なぞ枷にしかならぬ、それをしかと心得よ!」


 そうハッキリ、威厳たっぷりに言うのだけれど、


(股間のもっこりが気になるなぁ……)


 メディも目のやり場に困ってるみたい。これも戦略? ただの趣味?


「ルールは10点先取、スキルの使用を許可、尚、一人でコートに立つエルフリダ様は、連続でボールを打つ権利があります」


 エルフリダ様は一人でブロック、トス、アタック、をするって事か。普通に考えたら、たった一人でフィールドをカバーするなんて人間業じゃないけれど、ここは異世界、ましてや相手はエルフの王様。

 ――そして何より今の俺のスキルは


 【お餅】スキル Dランク

 スキル解説[言い方がちょっとかわいい]


 鮫と対決してから変化していない――いつもなら、Eランク以外のスキルを使ったら、直ぐにお題が切り替わるのに。


("一日一回使ってね♪"ってセイカ様のお願いが、"一日一スキルしか使えない"っていう風になってる可能性?)


 ただただ餅を食べるだけじゃ考えられなかった事態、だけど、


「――ご主人様」

「……大丈夫、メディ」


 俺の【○○】スキルの強さは、心の強さ。


「これからも、メディに隣に居てほしいから、絶対負けない」


 俺はその決意を、ネット越しの王様と、すぐ隣のメディに伝えるように言葉にした。

 するとエルフリダ様は、


「よくぞ抜かした! 賞賛に値する無礼である!」


 そう言って、


「褒美にレシーブ有利はくれてやる、カバンよ!」


 エルフリダ様の言葉に、カバンさんは何も言わないまま、王様の頭上にビーチボールを出現させた。

 カバンさんの【収納】スキルは、半径5mの物質を収納出来る。ただし生き物に関しては、俺をプールサイドで助けてくれた時みたいに、入れ出ししか出来ないらしい。また、カバンさん自身の体は収納出来ない。


(それが出来たら、5メートル先の相手を殴れるもんな)


 ビーチバレーでも無双しそう――って、いやいや、敵はあくまでエルフリダ様! 集中しないと!


「――それでは始めます」


 そしてカバンさんが、ホイッスル咥えて、

 ピーッ! っと笛の音を、甲羅のノコノコビーチに響かせた瞬間、


「ふんっ!」


 っというかけ声と共に、ドライブ前回転がかかったビーチボールが、まるで硬式のボールの速度で、ピンポイントでコートの角へと、鷹が襲うように落ちていく!


「くっ!」


 なんとかそれを飛びつきレシーブするメディ、コート前へとやってきたボールを、俺は、太陽を背にする位置に立った状態で、なるべく高さを意識してトスであげる。

 ボールが上昇している間にメディは立ち上がり、落ちてきはじめた瞬間、砂浜を駆けて、ネット前でジャンプして、

 ――アタックするのはコート角ではなく


「はぁっ!」


 エルフリダ様本人! 相手は一人、わざと体にあててボールを外へと弾かせる手段!

 ――だけどその瞬間エルフリダ様は

 一瞬でその体を、男から女へと変えて見せた。


「「えっ!?」」


 っと俺達が驚いた時には――メディの渾身のスパイクの威力を、


「ふんっ!」


 その豊満な肉体で全て吸収するかのように、両手を握った状態でレシーブディグしてみせた。稲妻のようなスパイクは、エルフリダ様の肉体恵体によって完全に威力を殺され、高く前方へ打ち上がる。

 そして再びエルフリダ様は、男の体に戻れば、砂浜を駆けだし、ボールへ向かってジャンプして、


こうべを垂れよ」


 腕を振り上げ、


「御前であるぞっ!」


 ボールを叩く! コート中央へ落ちたボールに、俺達は慌てて飛びついたが、その手が間に合う前にボールは落ちてしまった。


「ははは! なんと他愛の無い事か!」


 エルフリダ王に言われたとおり、頭を下げる形になってしまった俺達二人、そして、


「男から女へ、女から男へ!?」

「いやいやどんなスキルだよ!?」

変態金ビキニなのにかっこよく見えてきた!」


 周囲から湧き上がる歓声、それに気分を良くしたかのように、エルフリダ様はまた女の姿になってみせる。


「今の一撃も拾えぬか、実に退屈な試合になりそうであるな」

「ま、まだ1点取られただけです!」

「戯け、吠えるな、貴様が俺様にすべき事は」


 そしてエルフリダ様がコートの端に戻れば――コート中央にあったボールが、【収納】スキルでエルフリダ様の元へと届けられた。そして、立ち上がった俺達に、


スキルを示す事よなぁ!」


 再び不利サーブを放ってきた! 相変わらず鋭いけれど、女性の体の所為かさっきよりは勢いが緩い。

 今度は俺がレシーブして、メディにトスをしてもらう、高く、高く飛んだボールへ俺は、


「【お餅】スキル――」


 コート端へアタックすると同時に、


ハッピーシェアーシャワー神の餅まき!」


 コート中にあつあつできたての餅をたっぷりばら撒く! 踏めば文字通り足を取られる!

 なのだけど、


「食べ物を粗末にしおって!」


 エルフリダ様は、餅の隙間を踏み分けてボールの落下地点へ、女性の体になってやわらかくレシーブ、そして再び男になり、ネット前まで走れば、トスもあげずにそのままに、


「この、罰当たりめがぁっ!」


 そのまま、俺の顔面にアタックした!


「ぶへぇっ!?」

「ご主人様!?」


 メディがやろうとした事をそのままやり返された俺は、仰向けに倒れた。同時に、エルフリダ様側のコートにばらまかれたお餅が消え失せる。


「むっ? 処理されるスタッフが美味しくものだった頂きましたか。これは俺様のうっかり早とちり、許すが良い」


 仰向けになった俺と、それを抱き起こそうとするメディに、そう声をかけてくるエルフリダ様。


「しかしそれが貴様のスキルか、聞き及んだものとはいささか違うようだが、まぁ良い」


 そしてエルフリダ様は、王は、俺を見下ろしながら、


「せいぜい足掻くがいい、何一つ持たざる者よ」


 ――その言葉は

 太陽の降り注ぐビーチですら、俺の背筋をゾクリと冷やすのだった。

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