エルフ塾名物"
森王エルフリダによって作られた、エルフの森の教育施設にて、2vs2の決闘で用いられる儀式である。
元々は温厚な性格の多いエルフ達であるが、その能力の高さゆえに、
ちなみに、命のやりとりをする事を、俗に
――エルフ書房刊 『森王エルフリダ、その偉大な功績』より
……なんていう、嘘か本当か解らない――いや、多分絶対嘘な説明をしながら、ヨジゲンカバンさんは【収納】スキルを使って、タートルリゾートの砂浜に、ビーチバレーの準備を整えた。
そしてコートの周りには、すっかりギャラリーが集まっていて、
「森王エルフリダ様が、円卓帝国の学園生徒と、ビーチバレーで対決だとよ!」
「メイドを賭けた一戦らしいわ!」
「ていうかなんだあの金ビキニ!?」
男の姿だろうが構わぬとばかり、エルフリダ様は金ぴか水着で、ネットの向こう側にいる訳で。
そう、俺とメディも既にコートイン、なのだけど、
「――エルフリダ様はお一人ですか?」
メディがそう尋ねれば、エルフリダ様、うなずくのでなく首をぐいっと上げた。どうやら王様となると、肯定すらも逆にしなきゃならないみたい。
カバンさんがペアになるかと思いきや、どうやらエルフリダ様は、俺達相手に一人で戦うみたいだ。
「
エルフリダ様は、
「俺様は王、王は常に頂点、天上天下唯我独尊、こと戦いにおいて従者なぞ枷にしかならぬ、それをしかと心得よ!」
そうハッキリ、威厳たっぷりに言うのだけれど、
(股間のもっこりが気になるなぁ……)
メディも目のやり場に困ってるみたい。これも戦略? ただの趣味?
「ルールは10点先取、スキルの使用を許可、尚、一人でコートに立つエルフリダ様は、連続でボールを打つ権利があります」
エルフリダ様は一人でブロック、トス、アタック、をするって事か。普通に考えたら、たった一人でフィールドをカバーするなんて人間業じゃないけれど、ここは異世界、ましてや相手はエルフの王様。
――そして何より今の俺のスキルは
【お餅】スキル Dランク
スキル解説[言い方がちょっとかわいい]
鮫と対決してから変化していない――いつもなら、Eランク以外のスキルを使ったら、直ぐにお題が切り替わるのに。
("一日一回使ってね♪"ってセイカ様のお願いが、"一日一スキルしか使えない"っていう風になってる可能性?)
ただただ餅を食べるだけじゃ考えられなかった事態、だけど、
「――ご主人様」
「……大丈夫、メディ」
俺の【○○】スキルの強さは、心の強さ。
「これからも、メディに隣に居てほしいから、絶対負けない」
俺はその決意を、ネット越しの王様と、すぐ隣のメディに伝えるように言葉にした。
するとエルフリダ様は、
「よくぞ抜かした! 賞賛に値する無礼である!」
そう言って、
「褒美に
エルフリダ様の言葉に、カバンさんは何も言わないまま、王様の頭上にビーチボールを出現させた。
カバンさんの【収納】スキルは、半径5mの物質を収納出来る。ただし生き物に関しては、俺をプールサイドで助けてくれた時みたいに、入れ出ししか出来ないらしい。また、カバンさん自身の体は収納出来ない。
(それが出来たら、5メートル先の相手を殴れるもんな)
ビーチバレーでも無双しそう――って、いやいや、敵はあくまでエルフリダ様! 集中しないと!
「――それでは始めます」
そしてカバンさんが、ホイッスル咥えて、
ピーッ! っと笛の音を、
「ふんっ!」
っというかけ声と共に、
「くっ!」
なんとかそれを飛びつきレシーブするメディ、コート前へとやってきたボールを、俺は、太陽を背にする位置に立った状態で、なるべく高さを意識してトスであげる。
ボールが上昇している間にメディは立ち上がり、落ちてきはじめた瞬間、砂浜を駆けて、ネット前でジャンプして、
――アタックするのはコート角ではなく
「はぁっ!」
エルフリダ様本人! 相手は一人、わざと体にあててボールを外へと弾かせる手段!
――だけどその瞬間エルフリダ様は
一瞬でその体を、男から女へと変えて見せた。
「「えっ!?」」
っと俺達が驚いた時には――メディの渾身のスパイクの威力を、
「ふんっ!」
その豊満な肉体で全て吸収するかのように、両手を握った状態で
そして再びエルフリダ様は、男の体に戻れば、砂浜を駆けだし、ボールへ向かってジャンプして、
「
腕を振り上げ、
「御前であるぞっ!」
ボールを叩く! コート中央へ落ちたボールに、俺達は慌てて飛びついたが、その手が間に合う前にボールは落ちてしまった。
「ははは! なんと他愛の無い事か!」
エルフリダ王に言われたとおり、頭を下げる形になってしまった俺達二人、そして、
「男から女へ、女から男へ!?」
「いやいやどんなスキルだよ!?」
「
周囲から湧き上がる歓声、それに気分を良くしたかのように、エルフリダ様はまた女の姿になってみせる。
「今の一撃も拾えぬか、実に退屈な試合になりそうであるな」
「ま、まだ1点取られただけです!」
「戯け、吠えるな、貴様が俺様にすべき事は」
そしてエルフリダ様がコートの端に戻れば――コート中央にあったボールが、【収納】スキルでエルフリダ様の元へと届けられた。そして、立ち上がった俺達に、
「
再び
今度は俺がレシーブして、メディにトスをしてもらう、高く、高く飛んだボールへ俺は、
「【お餅】スキル――」
コート端へアタックすると同時に、
「
コート中にあつあつできたての餅をたっぷりばら撒く! 踏めば文字通り足を取られる!
なのだけど、
「食べ物を粗末にしおって!」
エルフリダ様は、餅の隙間を踏み分けてボールの落下地点へ、女性の体になってやわらかくレシーブ、そして再び男になり、ネット前まで走れば、トスもあげずにそのままに、
「この、罰当たりめがぁっ!」
そのまま、俺の顔面にアタックした!
「ぶへぇっ!?」
「ご主人様!?」
メディがやろうとした事をそのままやり返された俺は、仰向けに倒れた。同時に、エルフリダ様側のコートにばらまかれたお餅が消え失せる。
「むっ?
仰向けになった俺と、それを抱き起こそうとするメディに、そう声をかけてくるエルフリダ様。
「しかしそれが貴様のスキルか、聞き及んだものとはいささか違うようだが、まぁ良い」
そしてエルフリダ様は、王は、俺を見下ろしながら、
「せいぜい足掻くがいい、何一つ持たざる者よ」
――その言葉は
太陽の降り注ぐビーチですら、俺の背筋をゾクリと冷やすのだった。