大海を優雅に泳ぐ、超巨大な
そこで繰り広げられる、俺とメディVSエルフリダ様の戦いは、
「きゃあっ!」
「うわっ!?」
ボールを受け止めきれず弾き飛ばされたメディを支えようとしたけど、二人もろとも転んでしまい、ボールが落ちた瞬間に、
「9-0、セットポイントです」
そう審判役のカバンさんの口から告げられた事で解るように、あまりにも一方的だった。
この現状に、ギャラリーの声が飛ぶ。
「いやいや強い、強すぎる!」
「あの少年のモチってスキルも、メイドの電気っぽいスキルも凄いけど」
「エルフの王様、男と女のいったりきたりで、完全に圧倒している!」
ボールを受け止める時は女性、攻撃を仕掛ける時は男性、
かと思えば、女性の時に攻撃して来たり、男性でボールを受け止めたりと、フェイントまでかけてきて。
「ここまで蹂躙され、ようやっと理解したか?」
エルフリダ様は、勝ち誇るかのように、
「俺様と貴様の歴然の差を」
そう、俺に凶悪な笑みを浮かべながら告げた。
……だ、だめだ、エルフリダ様の言うとおり、俺はすっかり"
――エルフそのものが人や獣人より高スペックなのは知ってる
その上で、
勝てる要素が見つからない。
「ご、ご主人様」
メディが心配そうに俺の顔をみつめてくる、だけど、俺は何も言えない。
このままじゃメディが、エルフリダ様のメイドになってしまうのに――そう、からっぽの心に満ちてはいけないもの、焦りがあふれ出しそうになった時、
「その女を奪われたくなければ、土下座せよ」
――唐突に
エルフリダ様は、言った。
「――え?」
「最早、格付けは済んだも同然、これ以上戦う必要も無い。それでもその従者と離れたくなければ、この満座の前で頭を下げよ」
――それは
「それが賢明なのは、貴様が一番解っておろう?」
……これは、もしかして、
試されている?
「え、いや、土下座って」
「どれだけえげつねぇ事考えるんだエルフリダ様?」
「名君にして暴君かぁ、引くなぁ」
周囲がざわつくし、メディも、より心配そうな顔をする中で、俺は考える。
自分のプライドを優先して、一番大切な物をなくすよりも、それがどれだけの侮辱だとしても、受け入れて、頭を下げる。
……いや単純に、俺をバカにしたいだけなのかもしれない、恥をかかせたいだけなのかもしれない。
それでも、俺が取るべき行動は、土下座だ。
――それが最悪の中の最善
……ああ、なのに、
――それなのに
「メディ、ごめん」
俺は、
「土下座する事が正しいのに、そうする事が賢いのに」
俺のからっぽだったはずの心は、
「――嫌だ」
その気持ちで、満たされてしまっていた。
するとメディは、
「――本当に、バカだと思います、ご主人様」
そう言って、俺に向かって笑った。
「そして、私も」
……その言葉が意味するは、王様の提案の拒否、俺達はうなずきあって立ち上がった。ギャラリーが俺達の選択に、またざわつく中で、
「虚勢、強がり、ただの勢い、敗北するのを知って尚、その事から目を背ける愚か者」
そしてそこでエルフリダ様は――何故か女性の体に変化して、
「だが、それこそが
そう、豊満な体を揺らしながら言った。
「そうよ、"己の弱さを知って"だの、"分不相応を弁えて"だの、自身の弱さを踏まえての行動なぞ笑止千万! 俺様が見たいのは、思考を放棄し恐れを誤魔化し巨大な相手へと立ち向かう愚者の突撃!」
そしてふっと笑い、再びボールを、カバンさんのスキルで渡してもらいながら、
こう言った。
「どうせ心もからっぽなのだ」
「――えっ」
「たまには、頭もからっぽにしてバカになるが良かろうよ」
――なんで
なんで俺の心が、そうである事を知ってるって、そう思ったら、
「エルフリダ様、それは聖女様と言わない約束をしたのでは?」
「ああそうであったか、またもやうっかり早とちり」
聖女――セイカ様が。
もしかして、俺の事を話した。
――なんで
「来し方を見定め、行く末を助言せよ、と、頼まれたのでな」
俺の思考を読み取るかのように、王様は言った。
「会談に
「本当にどうかと思いますよその
「戯け、あの女、あの男に、
――あの男?
えっと、多分、話の流れ的にはエンペリオ様の事かな。
……聖国の王女様と、帝国の皇帝様に、そしてエルフの王様に目をかけられているって恐れ多くてプレッシャー。
ど、どちらにしろ、俺が最悪の選択をしたのは変わりない!
「ここからどう勝つか、全力で考えなきゃ!」
そう言った俺に、
「いえ、負けていいです」
「へ?」
メディの発言に、俺はあっけにとられたけど、
「負けたなら、逃げましょう」
「ええ!?」
そうあっさりとメディは言った。
「それで学園を止める事になっても、知った事ではありません、大切なのは私がご主人様と一緒にいる事なので」
「い、いやそうかもしれないけど」
そんな約束を反故にして逃げても、エルフリダ様に捕まっちゃうんじゃ――と、思ったら、
「メイド長に教わりました、主人の愚行を、諫めるのも従者の務めと、つまり」
メディは、審判役のカバンさんに顔を向ける。
「ご助力いただけますでしょうか? ヨジゲンカバン様」
「里の後輩の頼みです、受け入れましょう」
そうカバンさんが答えれば――周りのギャラリーのざわつきが、一斉に歓声に変わった。
「そうだそうだ
「そういうのは
「王様だからってなんでも許されると思うなー!」
って感じで周りも味方な雰囲気に、でもそんな状況でもエルフリダ様は腕組みして仁王立ちで、
「うむ、俺様
言葉とは裏腹に楽しそう、
「だがこの
そう言ってサーブをしようとボールをあげる、俺達は、慌てて身構える。
逃げるとは言ったけど、戦いを放棄するつもりは無い、最後の最後まで勝利を目指す!
――言葉を交わして無くても、メディも同じ気持ちなのを感じて
「決着の一発をくれてやる!」
まさに今、ボールがその手で叩かれようとした時、
「え、ちょっと!?」
「なんだあれ!?」
いきなり、ギャラリーの声が聞こえて、
「へ?」
「え?」
「うむ?」
俺もメディも、そしてエルフリダ様もボールを打つのをやめて、海の方へ振り向けば、
――そこには
「竜巻!?」
「なんで急に!?」
「い、いや、ちょっとまって」
そこ、には、
え、いや、
嘘だろ!?
「サ、サメが――」
タートルリゾートに訪れた時に、俺を丸かじりしようとしたあのサメが、
「でっかい
竜巻の中をくるくる泳ぐのでなく、竜巻を着ぐるみのように着て空を飛んでくる姿は、
あまりにも現実感がない、