――タートリリゾートのパブリックビーチにて
「た、竜巻とサメの合体モンスター!?」
「あんなの、見た事ありません!?」
自分のヒレをまるで翼のように広げた
「ほう? リゾート周りの
そしてサメは、俺達を覆うように真上に来た途端――
「当然、名付きよなぁ!」
竜巻は移動の為の魔法だったのか――その
{
その名を俺達に翳しながら、大きな口でエルフリダ様を丸呑みにしようとする! が、
「〈スル
カバンさんのスキルで、飲み込まれる直前に【収納】されて、そのままカバンさんの隣へと運ばれた。ネットの向こう側、相手側のコートをそのまま埋め尽くす巨体は、砂浜の上で激しく暴れ始めた。
「あ、い、今のうちに!」
まな板の上の鯉ならぬ砂浜の上の鮫、不用意に近づくのは危険だけど、今なら仕留められるかもしれないと、思った次の瞬間、
鮫が、
「え?」
そしてそのまま、こっちへ向かって泳ぎだした!?
「ええええ!? ち、地上を泳ぐ鮫ぇ!?」
「ご、ご主人様!」
叫ぶ俺の背中に飛び乗ったメディは、
「【紫電】スキル――〈オ
俺の身体能力を向上させるスキルを使ってくれた――そのタイミングで、砂から飛び出してきたサメの突撃を、メディをおんぶした状態で紙一重でかわす。
「アルテナッシ様、これを!」
そしてカバンさんは、預かってくれていた刀を俺の前に取り出してくれた。それを受け取り、刀を抜いて鞘をメディに預けて、鮫の方へ向いたが、
「さ、鮫の頭が」
「二つになってる!?」
いつのまに増えたのか――二つの頭で、それぞれで俺達を食おうとしてるように飛びかかってきた相手、俺は思わず、二つの頭の間に刀を振り落とし、切ろうとした、だが、
ガキィィィィン!っと、
「わ、わ、わぁっ!?」
だ、ダメだ、切れない!? 俺達の技量が足りないのか、鮫の肌が固いのか!
さ、鮫の奴、空中に浮いたまま、尾っぽをバタバタさせて俺へ向かってくる! このまま押し切られたらヤバい! って思っていると、
二つの鮫の頭の間から、
もう一つ、鮫の頭が生えてきた。
「
その新しく出来た頭のその牙が、俺の刀をかじろうとする。そうこうしている内に、頭は四つに、五つに、最後には六つに!? 増えればいいってもんじゃないのに!?
「ご、ご主人様ぁ、このままではぁ……」
「や、やばい、もたない……」
竜巻でやってきて、地面から飛び出し、空中を泳ぐ、六つ頭の巨大な鮫を、刀一本で防いでいるという無茶、それに限界が近づいていく中で、
「――矢張り海は魔境よ」
エルフリダ様が――俺達のすぐ傍にやって来た。
「これほどの魔物が潜んでいるのだからな、深淵の狂気は
「エ、エルフリダ様、近づくと危ないです!」
「ほう? この状況で俺様の心配とは。敬意や信念というより、染みついた習性か」
そしてエルフリダ様は、六つの鮫にニヤリと笑った。
――その態度が気に食わなかったのか
鮫は、俺達から引いて――そして今度はエルフリダ様へ向かって、
突撃する。
「エ、エルフリダ様、危ない!」
背中のメディがそう叫ぶ中で、
エルフリダ様は、
「【支配】スキル――」
言った。
「〈
誰もいなくなった砂浜に、王の言葉が響いた瞬間、
鮫の魔物は、その六つの頭を、まるで土下座するように思いっきり砂浜へと突っ込ませた。
「――えっ」
「えっ」
俺とメディは、
「「えええええ!?」」
二人して、驚きの声をハモらせた。
「ま、待ってください、【支配】スキル!?」
「エルフリダ様のスキルって、男と女、両方になれる奴じゃ!?」
そう驚く俺達にエルフリダ様は、男から女へと姿を変えながら、
「いつ俺様がそのような事を言った?
「せ、せいたい?」
ポカーンとする俺に、エルフリダ様は続ける。
「エルフの子とて人と等しく、男女の営みによって生まれる。だが王となる者は別でな。天上天下唯我独尊、たった一人の王として、300年に一人、花が咲くように生を受ける――それがこの俺様だ」
そ、そういうパターンもあるんだ。男女転換が
その上で、この【支配】スキル、
「相手を言いなりにするスキルとは、なんて凄まじい」
メディの言葉に全く同意する、ビーチバレーの時、このスキルを使われたらより確実に負けていた。
本当にさっきまでの試合は、王にとっては遊びでしかなかったんだと思ってたら、
「なぁに、俺様のスキルとて万能ではない、どれだけ相手を支配出来るかは、俺様への忠誠度によって変わる」
「え?」
忠誠度? つまり、それって、
「ほら、実際に見てみよ」
六つの頭だった鮫のモンスターは、怒りでぷるぷる震えている様子をみせて、
その六つの頭を一つにまとめながら――更に頭を、いや、体全体を巨大化させていって!?
「俺のスキルの戒めを、
「「ええええ!?」」
ほ、本当だ!
「エ、エルフリダ様!」
この状況をどうすれば、思わず、俺は意見を求めたけど、
「後は任せる」
と、あっさりと言った。
「ええ!?」
エルフリダ様は、豊満な体を揺らしながらカバンさんの元へ――プールサイドの時みたく、用意された玉座に座った。
「ま、任せると申されましても!」
「お、俺達の手に余るというか!」
そう率直に言うのだけど、エルフの王様はニヤリと笑い、
「先ほどの
「え?」
「餅による足を奪う行為、ボールに餅をひっつけての軌道修正、手に餅を付けてのブロック、よくもまぁあれほどに応用したものよ」
そ、それは、今までの経験から。
どんなスキルにも使い道がある、絶望しない、発想を柔らかくするのが大事って、餅だけに。
「それゆえに、貴様に――いや貴様達に問いかける」
エルフリダ様は、俺と――メディに、こう言った。
「食は幸せだけを生むものか?」
その言葉は、
一瞬、俺達の頭の中を、からっぽにさせたが、
「「あっ」」
二人で同時に、その意味がわかった、
その瞬間、
――【支配】スキルの力が解けたか
シャアアアアアアアアク! っと、余りにまんまに叫んだ巨大鮫は、一度砂浜に潜った後、思いっきり上空へ飛び出して、
そして斜め上の位置から、一気に、俺とメディを丸呑みしようと急降下してくる!
だけど俺達は逃げず、動じず、
「行くよ、メディ!」
「はい、ご主人様!」
俺は両手を広げて、
「【お餅】スキル――」
その手に餅を出現させて、
鮫の巨大な口へ目がけて、
「だぁぁっ!」
思いっきり投げつける! 一個だけじゃなく、二個三個四個五個幾らでも何度でも連続で!
シャアアアアア!? っと、空中で体を静止する鮫、だけどそこで手を緩めず、ともかく餅を口の中へ放り込み続ける。そうすると、最初は圧されていた鮫も、唸りながらもこっちへと躙り寄ってくる。
「う、腕がもげそぉ!」
「ご主人様、がんばってくださぁい!」
メディが汗をかきながら、〈オ
それでも、
「お、お餅は、美味しいけど」
ここでやらなきゃ意味が無い、そうだ俺は知っている、
餅がくれる幸せと、
「食べ過ぎと!」
表裏一体の――その恐怖を!
「喉詰まりに注意!」
――三日前、下宿で【焼き餅】スキルを使った時
自分もうっかり餅を喉に詰まらせかけて、メディに助けられた事を思い出しながら、
最後の力を振り絞って、とびっきりでかい餅を両手でもって、
投げつける!
「〈
――その最後の一
大きな鮫の、今まで口に詰め込んだ分の餅も含めて、喉まで一気に圧し込んで、
呼吸困難になった鮫は、その体をよたよたと揺らしながら、鮫なのに溺れたかのよう、
――爆発した。
ドッカーーーーン! っと、砕け散る鮫の体――魔力の塊だったのか、砂浜にその身を雪のように落としながらも、餅と一緒に消えていく。呆然とそれを見上げる俺とメディに、
「大義!」
エルフリダ様のねぎらいの言葉と、快活なが笑い声が聞こえてきたけど、失礼ながらにそれに反応する事が出来ず。
ただただに俺は、メディを背負った状態で、この光景を見上げながら思うのだった。
(鮫って、爆発するんだなぁ)
そりゃ竜巻も泳ぐし地上も潜るし頭も増えるし巨大にもなるかぁ、と。
――もしかしたら