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6-6 黒銀の翼 -Wings of Terror-

 ――タートリリゾートのパブリックビーチにて


「た、竜巻とサメの合体モンスター!?」

「あんなの、見た事ありません!?」


 自分のヒレをまるで翼のように広げたサメタツマキ魔物は、ワカメやらタコやらを巻き上げながら、ビーチへ上陸しようとする。すっかりパニックになったギャラリーが逃げていく中で、


「ほう? リゾート周りのバリア魔法を食い破る程のモンスターか、それならば」


 そしてサメは、俺達を覆うように真上に来た途端――


「当然、名付きよなぁ!」


 竜巻は移動の為の魔法だったのか――その旋風つむじかぜをスイッチオフのように消しながら、

 {ビィトゥゼットB級からZ級}という、

 その名を俺達に翳しながら、大きな口でエルフリダ様を丸呑みにしようとする! が、


「〈スルーフォーディメンション入り口は出口ョン〉!」


 カバンさんのスキルで、飲み込まれる直前に【収納】されて、そのままカバンさんの隣へと運ばれた。ネットの向こう側、相手側のコートをそのまま埋め尽くす巨体は、砂浜の上で激しく暴れ始めた。


「あ、い、今のうちに!」


 まな板の上の鯉ならぬ砂浜の上の鮫、不用意に近づくのは危険だけど、今なら仕留められるかもしれないと、思った次の瞬間、

 鮫が、地面砂浜を潜った。


「え?」


 そしてそのまま、こっちへ向かって泳ぎだした!?


「ええええ!? ち、地上を泳ぐ鮫ぇ!?」

「ご、ご主人様!」


 叫ぶ俺の背中に飛び乗ったメディは、


「【紫電】スキル――〈オールレンジテレグラ以心電信フ〉!」


 俺の身体能力を向上させるスキルを使ってくれた――そのタイミングで、砂から飛び出してきたサメの突撃を、メディをおんぶした状態で紙一重でかわす。


「アルテナッシ様、これを!」


 そしてカバンさんは、預かってくれていた刀を俺の前に取り出してくれた。それを受け取り、刀を抜いて鞘をメディに預けて、鮫の方へ向いたが、


「さ、鮫の頭が」

「二つになってる!?」


 いつのまに増えたのか――二つの頭で、それぞれで俺達を食おうとしてるように飛びかかってきた相手、俺は思わず、二つの頭の間に刀を振り落とし、切ろうとした、だが、

 ガキィィィィン!っと、


「わ、わ、わぁっ!?」


 だ、ダメだ、切れない!? 俺達の技量が足りないのか、鮫の肌が固いのか!

 さ、鮫の奴、空中に浮いたまま、尾っぽをバタバタさせて俺へ向かってくる! このまま押し切られたらヤバい! って思っていると、

 二つの鮫の頭の間から、

 もう一つ、鮫の頭が生えてきた。


トリプルヘッド三つ頭ォ!?」


 その新しく出来た頭のその牙が、俺の刀をかじろうとする。そうこうしている内に、頭は四つに、五つに、最後には六つに!? 増えればいいってもんじゃないのに!?


「ご、ご主人様ぁ、このままではぁ……」

「や、やばい、もたない……」


 竜巻でやってきて、地面から飛び出し、空中を泳ぐ、六つ頭の巨大な鮫を、刀一本で防いでいるという無茶、それに限界が近づいていく中で、


「――矢張り海は魔境よ」


 エルフリダ様が――俺達のすぐ傍にやって来た。


「これほどの魔物が潜んでいるのだからな、深淵の狂気は水底みなそこよりやって来る」

「エ、エルフリダ様、近づくと危ないです!」

「ほう? この状況で俺様の心配とは。敬意や信念というより、染みついた習性か」


 そしてエルフリダ様は、六つの鮫にニヤリと笑った。

 ――その態度が気に食わなかったのか

 鮫は、俺達から引いて――そして今度はエルフリダ様へ向かって、

 突撃する。


「エ、エルフリダ様、危ない!」


 背中のメディがそう叫ぶ中で、

 エルフリダ様は、


「【支配】スキル――」


 言った。


「〈キングズオーダーひれ伏せ〉」


 誰もいなくなった砂浜に、王の言葉が響いた瞬間、

 鮫の魔物は、その六つの頭を、まるで土下座するように思いっきり砂浜へと突っ込ませた。


「――えっ」

「えっ」


 俺とメディは、スキル以心電心関係なく、


「「えええええ!?」」


 二人して、驚きの声をハモらせた。


「ま、待ってください、【支配】スキル!?」

「エルフリダ様のスキルって、男と女、両方になれる奴じゃ!?」


 そう驚く俺達にエルフリダ様は、男から女へと姿を変えながら、


「いつ俺様がそのような事を言った? これTSはただの、俺様の"生態"だ」

「せ、せいたい?」


 ポカーンとする俺に、エルフリダ様は続ける。


「エルフの子とて人と等しく、男女の営みによって生まれる。だが王となる者は別でな。天上天下唯我独尊、たった一人の王として、300年に一人、花が咲くように生を受ける――それがこの俺様だ」


 そ、そういうパターンもあるんだ。男女転換がスキルじゃないだなんて。

 その上で、この【支配】スキル、


「相手を言いなりにするスキルとは、なんて凄まじい」


 メディの言葉に全く同意する、ビーチバレーの時、このスキルを使われたらより確実に負けていた。

 本当にさっきまでの試合は、王にとっては遊びでしかなかったんだと思ってたら、


「なぁに、俺様のスキルとて万能ではない、どれだけ相手を支配出来るかは、俺様への忠誠度によって変わる」

「え?」


 忠誠度? つまり、それって、


「ほら、実際に見てみよ」


 六つの頭だった鮫のモンスターは、怒りでぷるぷる震えている様子をみせて、

 その六つの頭を一つにまとめながら――更に頭を、いや、体全体を巨大化させていって!?


「俺のスキルの戒めを、覆すほどの激昂状態激おこぷんぷん丸よ!」

「「ええええ!?」」


 ほ、本当だ! 更に巨大化メガトロンしていって、エルフリダ様と、そして俺達を睨んでくる!


「エ、エルフリダ様!」


 この状況をどうすれば、思わず、俺は意見を求めたけど、


「後は任せる」


 と、あっさりと言った。


「ええ!?」


 エルフリダ様は、豊満な体を揺らしながらカバンさんの元へ――プールサイドの時みたく、用意された玉座に座った。


「ま、任せると申されましても!」

「お、俺達の手に余るというか!」


 そう率直に言うのだけど、エルフの王様はニヤリと笑い、


「先ほどのれい、勝負自体は俺様が圧倒したが、お前のスキルの使い方もなかなかに楽しかったぞ?」

「え?」

「餅による足を奪う行為、ボールに餅をひっつけての軌道修正、手に餅を付けてのブロック、よくもまぁあれほどに応用したものよ」


 そ、それは、今までの経験から。

 どんなスキルにも使い道がある、絶望しない、発想を柔らかくするのが大事って、餅だけに。


「それゆえに、貴様に――いや貴様達に問いかける」


 エルフリダ様は、俺と――メディに、こう言った。


「食は幸せだけを生むものか?」


 その言葉は、

 一瞬、俺達の頭の中を、からっぽにさせたが、


「「あっ」」


 二人で同時に、その意味がわかった、

 その瞬間、

 ――【支配】スキルの力が解けたか

 シャアアアアアアアアク! っと、余りにまんまに叫んだ巨大鮫は、一度砂浜に潜った後、思いっきり上空へ飛び出して、

 そして斜め上の位置から、一気に、俺とメディを丸呑みしようと急降下してくる!

 だけど俺達は逃げず、動じず、


「行くよ、メディ!」

「はい、ご主人様!」


 俺は両手を広げて、


「【お餅】スキル――」


 その手に餅を出現させて、

 鮫の巨大な口へ目がけて、


「だぁぁっ!」


 思いっきり投げつける! 一個だけじゃなく、二個三個四個五個幾らでも何度でも連続で!

 シャアアアアア!? っと、空中で体を静止する鮫、だけどそこで手を緩めず、ともかく餅を口の中へ放り込み続ける。そうすると、最初は圧されていた鮫も、唸りながらもこっちへと躙り寄ってくる。


「う、腕がもげそぉ!」

「ご主人様、がんばってくださぁい!」


 メディが汗をかきながら、〈オールレンジテレグラ以心電信フ〉と〈エレクトリカルサー電気治療ビス〉の合わせ技で俺をサポートしてくれるけど、正直、今にもへこたれそう!

 それでも、


「お、お餅は、美味しいけど」


 ここでやらなきゃ意味が無い、そうだ俺は知っている、

 餅がくれる幸せと、


「食べ過ぎと!」


 表裏一体の――その恐怖を!


「喉詰まりに注意!」


 ――三日前、下宿で【焼き餅】スキルを使った時

 自分もうっかり餅を喉に詰まらせかけて、メディに助けられた事を思い出しながら、

 最後の力を振り絞って、とびっきりでかい餅を両手でもって、

 投げつける!


「〈ライスケーキラー正月の餅〉!」


 ――その最後の一

 大きな鮫の、今まで口に詰め込んだ分の餅も含めて、喉まで一気に圧し込んで、

 呼吸困難になった鮫は、その体をよたよたと揺らしながら、鮫なのに溺れたかのよう、上空へ上昇アップアップしていき、そして、

 ――爆発した。

 ドッカーーーーン! っと、砕け散る鮫の体――魔力の塊だったのか、砂浜にその身を雪のように落としながらも、餅と一緒に消えていく。呆然とそれを見上げる俺とメディに、


「大義!」


 エルフリダ様のねぎらいの言葉と、快活なが笑い声が聞こえてきたけど、失礼ながらにそれに反応する事が出来ず。

 ただただに俺は、メディを背負った状態で、この光景を見上げながら思うのだった。


(鮫って、爆発するんだなぁ)


 そりゃ竜巻も泳ぐし地上も潜るし頭も増えるし巨大にもなるかぁ、と。

 ――もしかしたらメカにもなるんじゃアシモチャン大喜びなかろうか

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