――あれから2週間の時が経った週末
俺とメディは、再びタートルリゾートへと訪れていた。ただし今度は、
「――取った、ぞ」
「うっわ、はっやっ! すっげ!」「人形態でもその速度を出せるのですか、獣人は!」
Fクラスの皆と一緒である――今、俺の前では、スメルフが、双子の兄アニィツインと双子の弟オトォツインと一緒に、ビーチフラッグで対決していた。得意げに笑うスメルフに、もういっちょ! っと再戦を申し込むアニィ、それを止めようとするオトォ。
そんなやりとりを眺めながら、メディが用意してくれたノンアルコールドリンクを飲んでいると、
「けど
「ビーチ付きホテルに
水着姿のチスタロカミラとクラァヤミィが話しかけてきた。俺は慌てて釈明する。
「よ、弱みとかじゃないよ、鮫を倒した事と、楽しませてくれた事へのご褒美をくれるっていうから、それで言ってみただけで」
と、事の経緯を説明すれば、ギャンブライジがこう言ってきた。
「そこでFクラス32人+
「その大将っていうのやめてってば、俺はリーダーの柄じゃないって」
そう言ったけどライジは、「Fクラス1の問題児だろうが!」って、背中をバンバン叩いてきた。うう、こういう役回りは、もっと適任が居ると思うんだけど。
まぁ、とりあえず、皆が楽しんでいてくれるようで何より、貸し切りのビーチ、皆、泳いだり、日光浴したり、バーベキューしたりと楽しんでいる、と、そこで、
海からざばぁっと――右手に提げた網かごに、沢山の魚や貝を詰め込んだボンバリーがあがってきた。
「大漁」
これだけの獲物を、モリ無しで素手で採ってきたていうんだから本当凄い。ボンバリーはそれを、ちょうどバーベキューの下拵えをしていたメディへ持って行く。
「ありがとうございます! 早速、調理させていただきますね!」
……うん、普段は俺の従者のメディだけど、今日は皆のメイドさん。それにただ働くだけじゃなくて、遊んだり泳いだりのびのび過ごしている。それがなんだか、とっても嬉しい。
(というか、皆が楽しいと、俺は嬉しい)
……自分自身が嬉しくなる事が、まだまだ慣れていない俺にとって、この時間、この空間は、とても大切だと感じる。感情も真似事から始まるって言うし、こうやって過ごしていれば、その内、自分自身で心からの喜びを、感じる日が来るかもしれない。
そんな事を思いながら、ぼーっとメディの事をみつめていると、
(……あれ?)
なんか、
「はぁ~……」
って、ため息吐いて、なんなんだろう? と、思った時、
「解るのじゃ~!」
「うわぁ!?」
あ、フィアを後ろから〔狐火見たりノジャイナリィ〕が抱きついた。同じくらいの背丈だから、なんかジャストフィットみたいな感じ。
「ちょ、ちょっといきなり何、ていうかどこまさぐって!?」
「うんうんうんうん解るのじゃ、かつて儂もお主と同じ悩みをもったものよ」
「な、何よ、なんの話よ!?」
「隠さなくていいのじゃ、じゃがのう、祖母も言っておったが、儂らのようなサイズもまた
「だから何の話って言ってんのよ!」
……本当に何の話だろう。でもなんか、深く聞いたらいけない気はする。
とりあえず、これ以上フィアを見ていると、なんか怒られそうだから視線を別にやって、
(ん?)
あそこで、ポツンと立っているのは〔夢見る令嬢ロマンシア〕? どうしたんだろ?
――えっ
え、ちょ、ちょっと、いきなりポロポロ、泣き始めた!?
「え、あ、ロマンシア様?」
あ、メディが駆け寄っていって――他の生徒達も何人かに集まっていく。
「どうされました? 何か、不調が」
「も、申し訳ありませんわ、その、胸がいっぱいになりまして」
「――胸が」
メディの心配に、ロマンシアが、
「このような、クラスの皆様と海で過ごすなんていう、夢見てたような事が叶うなんて、思いもしなくて」
そう、言った。
「――夢見た事」
「……その、
――え
い、命、からがら!?
それって、殺されかけたって事?
突然の彼女の発言に、どよめきはじめる俺達。
「
ちょ、ちょっとそれは、エグ過ぎるな。
貴族の生活ってきらびやかに見えて、そういう闇の部分もあるのか。
「それでほとほと私も参ってしまって、唯一の心の慰みは
「書き始めたって小説を!?☆ ジャンルは!?☆」
「そ、その
「マジで!?☆ エモッ!☆」
そこでちょっと笑ったロマンシア、
「ええ、おかげさまで、沢山の方々にお読みいただいて――様々な物語を書かせていただきましたわ。男女の物語は勿論、女同士、男同士、い、
もの凄い
クラスの何人かは――俺も含めて、ある可能性に気づく。
その事を、
「――それが、命を落としかけた原因ね」
水着姿の
「は? どーゆーこと?」「……もしかして、まさか」
解ってないアニィ、解ってしまったオトォ、
――ロマンシアが命を落としかけた原因は
「私の書く小説は、国の風紀を乱し堕落させるものだと、それゆえに極刑に処すると」
恋愛小説を、書いた事。
「はぁ!? 小説を書いただけで殺されるだぁ!?」
「絶句」
ギャンブライジとボンバリーが、信じられないといった顔になった。
……前の世でも、ただ小説を、現実には存在しない物語を書いただけで、殺される事はある。それはけして大昔の話じゃなくて、今でも起きている事。
それがこの異世界でも変わらないのを知って、俺は言葉を失った。
「
聞くだけで、キツい。誰も彼も、さっきの陽気な様子をすっかり無くして、黙り込んでいる。
――だけど
「だけど」
そこでロマンシアは、笑みを浮かべた。
「私は、皆様に巡り会えましたわ」
涙ぐみながら、感謝を述べるように。
「そ、その、まだ学園に入って日が浅いですけれど、本当に夢のようで、心が踊る日々で、だから、その」
そこでチラッとロマンシアは視線を――スメルフの方にやった。
スメルフはそれに気づいたかのように、笑みを返す。
ロマンシアはちょっと顔を赤らめた後、全員をまた見回して、
「こ、これからも、どうかよしなに!」
と、頭を下げた。
その瞬間――
「あったりまえじゃない!」
フィアの元気な声と同時に、クラスの女子達が一気にロマンシアに飛びかかった。
「儂達はこれからもズッ友じゃ!」
「てかあーしも小説書いて欲しーし☆」
「ふへっ……異形の神に身を捧げる経典を希望……」
とかそんな感じで、クラスメイトの女子十数人に囲まれて、はわわ~ってなってるロマンシア。あ、小説のリクエスト受けてる、おねショタ書ける? って言われてる。それを眺めてうんうんとうなずく
(ああ、良かったなぁ)
と、そう思っている俺に、
「貴族は貴族で色々あるんだよ」
ハクバオージェが――後ろに、彼の従者、ウマーガァルを引き連れた状態で話しかけた。
「だからやめたんだけどね、貴族」
「……確か、ウマーガァルに乗るのを咎められて、でしたっけ?」
俺が前に聞いた事を思い出しながら言えば、
「その通りひひん!」
って、ウマーガァルが興奮気味に肯定した。
「私は子供の頃から、オージ様の馬になりたかったひひん! だけど、女に乗るなんてはしたないだとか、貴族にあるまじき行為とか!」
と、大声で言ってたけど、直ぐに、
「……子供の頃は、何故それがいけないか解らなかったけど、ちょっと大人になった今は、その理由も解るひひん」
そう言って、
「だからこそ――オージ様が私を選んでくれた事に、従者として全力で報いなければならないひひん」
オージェをみつめた。彼はにこっと笑った後、また俺の方を見て、
「そんな僕等だから
「――皆が」
「ああ、だから、〔何も無しのアルテナッシ〕」
オージは言った。
「君も
……その言葉を聞いて、俺は、
また、皆を見渡す。
――そして俺は
「俺達って、友達なのかな」
そんな事を、つい呟いてしまって、
――まだ二ヶ月も経ってないのに
ただ同じクラスになっただけなのに、
だけど、
「当たり前じゃ無いか」
「そうだひひん!」
あっさりと、オージェとウマァガールは肯定した。
その事で――からっぽな心が、じんわりと暖かくなった気がしたタイミングで、ギャンブライジが「バーベキューしようぜ!」と声をあげた。メディとフィアがこっちを見て手招きをする、
「今行くよ!」
俺は声をあげて、砂浜の上を駆けていった。
この時の俺は、きっと、
誰かの真似じゃなく、心から、笑っていた。
――この後ヒーロー着地で乱入してきた金ビキニの王様に、笑顔も一瞬で消えたけど