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6-7 問題児たち リゾート編

 ――あれから2週間の時が経った週末

 俺とメディは、再びタートルリゾートへと訪れていた。ただし今度は、


「――取った、ぞ」

「うっわ、はっやっ! すっげ!」「人形態でもその速度を出せるのですか、獣人は!」


 Fクラスの皆と一緒である――今、俺の前では、スメルフが、双子の兄アニィツインと双子の弟オトォツインと一緒に、ビーチフラッグで対決していた。得意げに笑うスメルフに、もういっちょ! っと再戦を申し込むアニィ、それを止めようとするオトォ。

 そんなやりとりを眺めながら、メディが用意してくれたノンアルコールドリンクを飲んでいると、


「けど森王しんおう様、マジヤバいよねー☆」

「ビーチ付きホテルに私達Fクラスをご招待……一体どんな弱みを握ったのかしら……ふへっ……」


 水着姿のチスタロカミラとクラァヤミィが話しかけてきた。俺は慌てて釈明する。


「よ、弱みとかじゃないよ、鮫を倒した事と、楽しませてくれた事へのご褒美をくれるっていうから、それで言ってみただけで」


 と、事の経緯を説明すれば、ギャンブライジがこう言ってきた。


「そこでFクラス32人+1人担任を、一泊二日のリゾート旅行を願うたぁ、うちらの大将は気前がいいなぁ!」

「その大将っていうのやめてってば、俺はリーダーの柄じゃないって」


 そう言ったけどライジは、「Fクラス1の問題児だろうが!」って、背中をバンバン叩いてきた。うう、こういう役回りは、もっと適任が居ると思うんだけど。

 まぁ、とりあえず、皆が楽しんでいてくれるようで何より、貸し切りのビーチ、皆、泳いだり、日光浴したり、バーベキューしたりと楽しんでいる、と、そこで、

 海からざばぁっと――右手に提げた網かごに、沢山の魚や貝を詰め込んだボンバリーがあがってきた。


「大漁」


 これだけの獲物を、モリ無しで素手で採ってきたていうんだから本当凄い。ボンバリーはそれを、ちょうどバーベキューの下拵えをしていたメディへ持って行く。


「ありがとうございます! 早速、調理させていただきますね!」


 ……うん、普段は俺の従者のメディだけど、今日は皆のメイドさん。それにただ働くだけじゃなくて、遊んだり泳いだりのびのび過ごしている。それがなんだか、とっても嬉しい。


(というか、皆が楽しいと、俺は嬉しい)


 ……自分自身が嬉しくなる事が、まだまだ慣れていない俺にとって、この時間、この空間は、とても大切だと感じる。感情も真似事から始まるって言うし、こうやって過ごしていれば、その内、自分自身で心からの喜びを、感じる日が来るかもしれない。

 そんな事を思いながら、ぼーっとメディの事をみつめていると、


(……あれ?)


 なんか、フィアルダヘソ出し水着チビドラゴンと一緒に、こっちをじーっとみつめている。……あ、次にメディを見た。そしてこっち見て、あっち見て、それを何回か繰り返した後、自分の体を見て、


「はぁ~……」


 って、ため息吐いて、なんなんだろう? と、思った時、


「解るのじゃ~!」

「うわぁ!?」


 あ、フィアを後ろから〔狐火見たりノジャイナリィ〕が抱きついた。同じくらいの背丈だから、なんかジャストフィットみたいな感じ。


「ちょ、ちょっといきなり何、ていうかどこまさぐって!?」

「うんうんうんうん解るのじゃ、かつて儂もお主と同じ悩みをもったものよ」

「な、何よ、なんの話よ!?」

「隠さなくていいのじゃ、じゃがのう、祖母も言っておったが、儂らのようなサイズもまたおもむきがあると」

「だから何の話って言ってんのよ!」


 ……本当に何の話だろう。でもなんか、深く聞いたらいけない気はする。

 とりあえず、これ以上フィアを見ていると、なんか怒られそうだから視線を別にやって、


(ん?)


 あそこで、ポツンと立っているのは〔夢見る令嬢ロマンシア〕? どうしたんだろ?

 ――えっ

 え、ちょ、ちょっと、いきなりポロポロ、泣き始めた!?


「え、あ、ロマンシア様?」


 あ、メディが駆け寄っていって――他の生徒達も何人かに集まっていく。


「どうされました? 何か、不調が」

「も、申し訳ありませんわ、その、胸がいっぱいになりまして」

「――胸が」


 メディの心配に、ロマンシアが、


「このような、クラスの皆様と海で過ごすなんていう、夢見てたような事が叶うなんて、思いもしなくて」


 そう、言った。


「――夢見た事」

「……その、わたくし、元々は貴族の令嬢であったのですが、命からがら逃げてきまして」


 ――え

 い、命、からがら!?

 それって、殺されかけたって事?

 突然の彼女の発言に、どよめきはじめる俺達。


わたくしが生まれ、過ごしたのは、陰謀策略が常に巡る、心安まる事の無い日々が続く貴族社会。特にわたくし達女性の間では、如何に相手を貶めるかという、心の消耗戦のような日々が続きまして」


 ちょ、ちょっとそれは、エグ過ぎるな。

 貴族の生活ってきらびやかに見えて、そういう闇の部分もあるのか。


「それでほとほと私も参ってしまって、唯一の心の慰みは物語小説、……その内、自分も書き始めましたの」

「書き始めたって小説を!?☆ ジャンルは!?☆」

「そ、その恋愛小説ラブストーリーを」

「マジで!?☆ エモッ!☆」


 そこでちょっと笑ったロマンシア、


「ええ、おかげさまで、沢山の方々にお読みいただいて――様々な物語を書かせていただきましたわ。男女の物語は勿論、女同士、男同士、い、異種族の方との恋物語何故かここでスメルフちらりも、リクエストに応えて綴りました」


 もの凄いオールジャンル守備範囲――それを聞いて、凄い! とか、読んでみたい! とか、盛り上がるクラスメイト達は多かったけど、

 クラスの何人かは――俺も含めて、ある可能性に気づく。

 その事を、


「――それが、命を落としかけた原因ね」


 水着姿の担任美人、チョークコクバン先生が、言った。


「は? どーゆーこと?」「……もしかして、まさか」


 解ってないアニィ、解ってしまったオトォ、

 ――ロマンシアが命を落としかけた原因は


「私の書く小説は、国の風紀を乱し堕落させるものだと、それゆえに極刑に処すると」


 恋愛小説を、書いた事。


「はぁ!? 小説を書いただけで殺されるだぁ!?」

「絶句」


 ギャンブライジとボンバリーが、信じられないといった顔になった。

 ……前の世でも、ただ小説を、現実には存在しない物語を書いただけで、殺される事はある。それはけして大昔の話じゃなくて、今でも起きている事。

 それがこの異世界でも変わらないのを知って、俺は言葉を失った。


協力者読者の手引きで、死刑執行直前に、国から逃亡する事は出来たものの、夢見るばかりの世間知らずの身、あてもなく大陸を彷徨うばかり」


 聞くだけで、キツい。誰も彼も、さっきの陽気な様子をすっかり無くして、黙り込んでいる。

 ――だけど


「だけど」


 そこでロマンシアは、笑みを浮かべた。


「私は、皆様に巡り会えましたわ」


 涙ぐみながら、感謝を述べるように。


「そ、その、まだ学園に入って日が浅いですけれど、本当に夢のようで、心が踊る日々で、だから、その」


 そこでチラッとロマンシアは視線を――スメルフの方にやった。

 スメルフはそれに気づいたかのように、笑みを返す。

 ロマンシアはちょっと顔を赤らめた後、全員をまた見回して、


「こ、これからも、どうかよしなに!」


 と、頭を下げた。

 その瞬間――


「あったりまえじゃない!」


 フィアの元気な声と同時に、クラスの女子達が一気にロマンシアに飛びかかった。


「儂達はこれからもズッ友じゃ!」

「てかあーしも小説書いて欲しーし☆」

「ふへっ……異形の神に身を捧げる経典を希望……」


 とかそんな感じで、クラスメイトの女子十数人に囲まれて、はわわ~ってなってるロマンシア。あ、小説のリクエスト受けてる、おねショタ書ける? って言われてる。それを眺めてうんうんとうなずく先生チョーコ


(ああ、良かったなぁ)


 と、そう思っている俺に、


「貴族は貴族で色々あるんだよ」


 ハクバオージェが――後ろに、彼の従者、ウマーガァルを引き連れた状態で話しかけた。


「だからやめたんだけどね、貴族」

「……確か、ウマーガァルに乗るのを咎められて、でしたっけ?」


 俺が前に聞いた事を思い出しながら言えば、


「その通りひひん!」


 って、ウマーガァルが興奮気味に肯定した。


「私は子供の頃から、オージ様の馬になりたかったひひん! だけど、女に乗るなんてはしたないだとか、貴族にあるまじき行為とか!」


 と、大声で言ってたけど、直ぐに、


「……子供の頃は、何故それがいけないか解らなかったけど、ちょっと大人になった今は、その理由も解るひひん」


 そう言って、


「だからこそ――オージ様が私を選んでくれた事に、従者として全力で報いなければならないひひん」


 オージェをみつめた。彼はにこっと笑った後、また俺の方を見て、


「そんな僕等だからここFクラスはとても居心地がいいよ、過去、身分、そして心に、皆、何かしらの問題を抱えている者同士の集まりだから」

「――皆が」

「ああ、だから、〔何も無しのアルテナッシ〕」


 オージは言った。


「君も彼女ロマンシアみたいに、僕達に悩みを晒したっていいんだからね」


 ……その言葉を聞いて、俺は、

 また、皆を見渡す。

 ――そして俺は


「俺達って、友達なのかな」


 そんな事を、つい呟いてしまって、

 ――まだ二ヶ月も経ってないのに

 ただ同じクラスになっただけなのに、

 だけど、


「当たり前じゃ無いか」

「そうだひひん!」


 あっさりと、オージェとウマァガールは肯定した。

 その事で――からっぽな心が、じんわりと暖かくなった気がしたタイミングで、ギャンブライジが「バーベキューしようぜ!」と声をあげた。メディとフィアがこっちを見て手招きをする、


「今行くよ!」


 俺は声をあげて、砂浜の上を駆けていった。

 この時の俺は、きっと、

 誰かの真似じゃなく、心から、笑っていた。

 ――この後ヒーロー着地で乱入してきた金ビキニの王様に、笑顔も一瞬で消えたけど

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