目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

幕間

ExtraSide三人称視点 聖騎士団本部礼拝堂

 円卓帝国中央部――皇帝城の門を守るように配備された、この帝国の防衛機構も担う聖騎士団の区画にて。

 鍛錬場、執務室、軍事戦略会議室といった、様々な施設の中には、スキルの神でありこの異世界の女神である、セイントセイラ大人verを像として祀る礼拝堂が存在する。

 アルテナッシとフィアルダが育った施設にあるものよりも、何倍も大きく、その上で華美に過ぎないレベルで美しく整えられていた。天井は高く、巨大な女神像の背後にはステンドグラス、左右の壁の上部にも、大きな窓が沢山に並び、そこから親子月の明かりが注がれて、精錬たる情景を、この構内に作り出していた。

 だからこそ――この光景の中では、


「もくろみ通り、ソーディアンナが死んだ」

「ふふ、最高の結果よねぇ」

「スライム様々よなぁ」


 密談の様子が見難く際立つ。聖職者の男、商人風の女、騎士風の男、それぞれ職業立場や年齢は違えども、全員、この聖騎士団のメンバーである。

 ――身分や種族の壁を越えるという、エンリの理想

 それを真っ向から否定して、その為には陰謀も辞さない、聖騎士団に入り込んだ古狸要職達。


「最悪でも、腕の一本でも失えばいいと思ったが、命を落としてくれるとは」

「ゴッドフットっていう操り人形を失ったのは痛かったけど」

「それも帳消し、最高の結果だ」


 嬉々として彼らは、人の死を喜ぶ。


「だいたい学園生徒、しかも2年17歳の女が団長を務めていた事が馬鹿げていたのだ」

「あの皇帝ガキの意思が働いたらしいわねぇ」

「聖騎士団長にしろ皇帝にしろ、経験を積んだ者が就くべきだろうに」


 それは確かに正論である。14歳の少年が一国を預かり、17歳の少女が国の防衛の象徴となる。アルテナッシの元居た世界の常識から照らし合わせば、本来、許されるような事ではない。

 だがそれでも、


「まぁこれで、次こそ、我等にとって都合のいい者を団長傀儡に出来る」

「そしたら庶民からもっと搾り取れるようになるわねぇ」

「最大にして最底辺の試験とやらも、無くさねばな」


 そうするしかないくらい、"どうしようも無かった"のだ。

 スキルという、16歳にして、今までの生き方をこれからの生き様に直結させる、この世界のシステム。

 年齢や立場など関係なく、誰しもが平等に活躍出来る可能性を持つ。それが生み出すパワーバランスのいびつさは、貴族という、身分肩書きにあぐらをかく者達にとって不都合の極み。


「さぁ、この国に正義を取り戻そう」

「ええ、私達の幸福こそが、セイントセイラ様の意思」

「壁は越える為ではない、我等の幸せを守るためにあるものよ」


 彼等は自分達の行いで、神に恥じ入る様子も無い。

 だからこそ礼拝堂を、密談場所に選んでいた。

 もしも神様が見ていたとしても、自分達に天罰が下る事はないと、これまでもそうだったからと、それこそが自分達の正しさの証左だと。

 実際、この世界の神様は、アルテナッシの心の中にいるけれど、ちょっと前16年前までは、善悪も裁かずただただスキルを与えるばかりの高次の存在システムで、

 例えどれだけ人が悪逆をしようと、結局それも人や時代の価値基準で変わるのだからと、神様からはけして何も言わないというスタンスで、

 だから、もし、この者達に、

 ――罰を下すモノがいるとしたら


「……ん?」


 まず、聖職者の男が気づいた。


「なんだこれは、口笛か?」


 穏やかに、静かに、この夜を彩るのに相応しい素朴な旋律が、礼拝堂を満たしていく。商人の女と騎士の男は、この"第三者の存在"を思わせる事態に焦り始める。


「な、なに、なになに!? 誰かいるの!?」

「一体どこから――」


 その時――三人の足下の間を割って入るように、

 カッ! っと、


「わぁ!?」


 何かが、大理石の床に付き去った。


「これは!?」

「赤いバラ!」

「……を柄に括り付けたダガー!?」


 三人が言ったとおりの代物が、この固い床に突き刺さっていた。硬質の床を貫く刃、本来なら有り得ない事象、だが、

 ――もしも剣の達人であるならば

 口笛が止まった状況で、


「ああおい、窓を見ろ!」

「え、なになに!?」

「な、なんだぁ!?」


 三人が見上げた先にあったのは、親子月を背景にして浮かび上がる、

 ――マントをたなびかせるシルエット


「誰だ貴様ぁ!?」


 聖職者が叫んだ途端、その陰は、マントをはためかせながら、窓から三人の元へ飛び降りた。

 ふわりと、花びらのように音もなく降り立ったその者は――宝石や鎖で装飾を施された軽鎧に包んだ肢体を、ゆっくり起こしながら、マントと首の継ぎ目の間にある、鞘に収まった剣の柄を握り、ゆっくりと引き抜く。


「誰だと問う前に、己に問うべきだろう」


 ――月の光で濡れる刀身

 その切っ先を三人に突きつけながら――その人は、


「自分の行いが果たして、本当に誇れる物なのか」


 金髪のポニーテールを揺らすその女性は、


「それでも尚、それが正義だというのなら!」


 その瞳を――己の顔を覆うオレンジ色のマスク、そこから覗くその瞳を、


「その正義が生んだ血と涙を! お前達の身からも流させよう!」


 燃やすようにして、


「この剣はその為に! 私という剣はこの為に!」


 正義に対して睨み付けて、

 こう言った。


「――仮面の騎士ソードセイント」


 剣を抜いた仮面の女騎士は、


「悪逆よ、剣の涙となりて散れ!」


 剣を持って、三人へと駆ける。

 ――向かってきた彼女に対し

 三人は、声を揃ってあげた。


「「「ソーディアンナだこいつぅ!?」」」


 その悲鳴ツッコミへと、容赦なく"正義"の剣は振りかざされた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?