円卓帝国中央部――皇帝城の門を守るように配備された、この帝国の防衛機構も担う聖騎士団の区画にて。
鍛錬場、執務室、軍事戦略会議室といった、様々な施設の中には、スキルの神でありこの異世界の女神である、
アルテナッシとフィアルダが育った施設にあるものよりも、何倍も大きく、その上で華美に過ぎないレベルで美しく整えられていた。天井は高く、巨大な女神像の背後にはステンドグラス、左右の壁の上部にも、大きな窓が沢山に並び、そこから親子月の明かりが注がれて、精錬たる情景を、この構内に作り出していた。
だからこそ――この光景の中では、
「もくろみ通り、ソーディアンナが死んだ」
「ふふ、最高の結果よねぇ」
「スライム様々よなぁ」
密談の様子が見難く際立つ。聖職者の男、商人風の女、騎士風の男、それぞれ
――身分や種族の壁を越えるという、エンリの理想
それを真っ向から否定して、その為には陰謀も辞さない、聖騎士団に入り込んだ
「最悪でも、腕の一本でも失えばいいと思ったが、命を落としてくれるとは」
「ゴッドフットっていう操り人形を失ったのは痛かったけど」
「それも帳消し、最高の結果だ」
嬉々として彼らは、人の死を喜ぶ。
「だいたい学園生徒、しかも
「あの
「聖騎士団長にしろ皇帝にしろ、経験を積んだ者が就くべきだろうに」
それは確かに正論である。14歳の少年が一国を預かり、17歳の少女が国の防衛の象徴となる。アルテナッシの元居た世界の常識から照らし合わせば、本来、許されるような事ではない。
だがそれでも、
「まぁこれで、次こそ、我等にとって都合のいい者を
「そしたら庶民からもっと搾り取れるようになるわねぇ」
「最大にして最底辺の試験とやらも、無くさねばな」
そうするしかないくらい、"どうしようも無かった"のだ。
スキルという、16歳にして、今までの生き方をこれからの生き様に直結させる、この世界のシステム。
年齢や立場など関係なく、誰しもが平等に活躍出来る可能性を持つ。それが生み出すパワーバランスの
「さぁ、この国に正義を取り戻そう」
「ええ、私達の幸福こそが、セイントセイラ様の意思」
「壁は越える為ではない、我等の幸せを守るためにあるものよ」
彼等は自分達の行いで、神に恥じ入る様子も無い。
だからこそ礼拝堂を、密談場所に選んでいた。
もしも神様が見ていたとしても、自分達に天罰が下る事はないと、これまでもそうだったからと、それこそが自分達の正しさの証左だと。
実際、この世界の神様は、アルテナッシの心の中にいるけれど、
例えどれだけ人が悪逆をしようと、結局それも人や時代の価値基準で変わるのだからと、神様からはけして何も言わないというスタンスで、
だから、もし、この者達に、
――罰を下すモノがいるとしたら
「……ん?」
まず、聖職者の男が気づいた。
「なんだこれは、口笛か?」
穏やかに、静かに、この夜を彩るのに相応しい素朴な旋律が、礼拝堂を満たしていく。商人の女と騎士の男は、この"第三者の存在"を思わせる事態に焦り始める。
「な、なに、なになに!? 誰かいるの!?」
「一体どこから――」
その時――三人の足下の間を割って入るように、
カッ! っと、
「わぁ!?」
何かが、大理石の床に付き去った。
「これは!?」
「赤いバラ!」
「……を柄に括り付けたダガー!?」
三人が言ったとおりの代物が、この固い床に突き刺さっていた。硬質の床を貫く刃、本来なら有り得ない事象、だが、
――もしも剣の達人であるならば
口笛が止まった状況で、
「ああおい、窓を見ろ!」
「え、なになに!?」
「な、なんだぁ!?」
三人が見上げた先にあったのは、親子月を背景にして浮かび上がる、
――マントをたなびかせるシルエット
「誰だ貴様ぁ!?」
聖職者が叫んだ途端、その陰は、マントをはためかせながら、窓から三人の元へ飛び降りた。
ふわりと、花びらのように音もなく降り立ったその者は――宝石や鎖で装飾を施された軽鎧に包んだ肢体を、ゆっくり起こしながら、マントと首の継ぎ目の間にある、鞘に収まった剣の柄を握り、ゆっくりと引き抜く。
「誰だと問う前に、己に問うべきだろう」
――月の光で濡れる刀身
その切っ先を三人に突きつけながら――その人は、
「自分の行いが果たして、本当に誇れる物なのか」
金髪のポニーテールを揺らすその女性は、
「それでも尚、それが正義だというのなら!」
その瞳を――己の顔を覆うオレンジ色のマスク、そこから覗くその瞳を、
「その正義が生んだ血と涙を! お前達の身からも流させよう!」
燃やすようにして、
「この剣はその為に! 私という剣はこの為に!」
正義に対して睨み付けて、
こう言った。
「――仮面の騎士ソードセイント」
剣を抜いた仮面の女騎士は、
「悪逆よ、剣の涙となりて散れ!」
剣を持って、三人へと駆ける。
――向かってきた彼女に対し
三人は、声を揃ってあげた。
「「「ソーディアンナだこいつぅ!?」」」
その