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第七話 美少女仮面だセイントソード!

7-1 美少女仮面騎士セイントソード登場の巻

 ――【○聖】

 それが今の、俺のスキルのお題だ。

 女神様から与えられるスキルにおいて、"聖"という文字が含まれるものは、Sクラス確定の文字通りの神スキル。今週の俺はそれが使い放題。

 ……けれど、そんな滅多にない機会に、俺はそれを使う事無く、


「それでは、献花と別れの言葉を」


 学園の広場――入学式も行われた場所での、

 〔剣聖ソーディアンナ〕さんの、葬式に参列している。

 ――式の進行は、皇帝エンペリラ様

 空は薄曇り、だけど、世界がモノクロームに見えるのは、けして光の加減だけじゃない事を、俺は――俺達は知っている。

 ソーディアンナさんが、死んだ。

 今、彼女は、沢山の花が備えられた、真っ白な棺の中で横たわっているようだ。


「ソーディアンナ――聖騎士団長が死んだなんて」

「スライムと相討ちになったらしいけど」

「嫌よ、信じられない」


 涙ぐみ、死を悼む、生徒達もいれば、


「何故葬式が、聖騎士団本部で行われぬ?」

「遠征用の宿舎にあった遺書覚悟に書かれてた遺言ですってよ、生徒達に見送られたいとかなんだとか」

「全く、死してまで聖騎士を愚弄するか」


 そんな風に、死者への侮蔑を躊躇わない大人や貴族達も居て、


「こんなのアンナさんが気に入らない奴らの謀略だろ」

「お、おい、聞こえるぞ」

「いいじゃない、あっち貴族だってこっち庶民に聞こえるように言ってるんだから」


 それへの怒りを隠そうとせず、言葉にする人達もいる。庶民だとか貴族だとか関係なく、彼女を慕っていたかそうでないかで、本来、粛々と行われるべき弔いの場が、静かに、だけど煮え滾るように、相対殺伐としていた。

 ……そんな中で俺は、メディとフィアと一緒に並び、


「――次の方」


 ヴァイスさんとユガタさん両隣に控えさせた、エンペリラ様の言葉に促されて、真っ白な花がおかれた、真っ白な棺に近づいた。

 そこにいたのは、


「……アンナさん」


 眠るように棺におさまる、ソーディアンナさんの"遺体"。俺もメディも、彼女が死んだという事実が目の前にあるのに、とてもそれが信じられない。

 そんな中でフィアが、


「――お姉様」


 口を開き、そして、


「なんで、……なんで」


 涙をぽろぽろと零し始めた。……頭の上のチビドラゴンが、ピキャー…、と心配そうな声をあげた。


「……フィア様」


 それでも、メディに言葉をかけられると、泣いたままにアンナさんの遺体に花を供える。俺達もそれに続いた。最後に祈りを捧げた後、俺達は前列へと戻る。

 式が進行していく中で――フィアが泣きながら話し始めた。


「私、帝国に来た時、悪い奴に有り金全部騙し取られそうになって……それを助けてくれたのがお姉様だった……」


 それはフィアがアンナさんを、お姉様と慕う切っ掛けの話。


「そのまま帝国を案内してくれて、三日間、同じ安宿で過ごして、……スキルを授かる日に聖騎士団の礼拝堂にいったら、剣士姿のお姉様がいて」


 ぽろぽろと、涙と共にこぼれ落ちる思い出は、


「お姉ちゃんって呼んでた、事、すぐに謝って、それ、で……」


 長く続かず嗚咽になって、チビはそんなフィアを心配そうに見下ろし、メディはフィアの背中を、落ち着くようにさすって。

 ……よく考えたら、前世から考えて、葬式に出たのは初めてで。

 物心ついた時から、母と俺の二人暮らし、親戚との繋がりは勿論、友達も出来なかった俺にとっては、

 親しい人との別れは、現実感が余りに無くて、だけど、


(からっぽの心でも、解る)


 ――悲しい

 辛く、苦しい。アンナさんとはそこまでの時間を、一緒に過ごした訳じゃないのに、何もない心ですら覚える喪失感。俺ですらこうなのだから、彼女の友達や家族の悲しみなんて計り知れない――


(あれ?)


 そういえば、家族は?

 エンペリラ様が葬式を取り仕切っているけど、こういうのって本来、家族がやるものじゃ――仮に皇帝陛下が式を進めるにしても、アンナさんの身内らしき人達が、前の方にいない事は不自然な気がする。

 そんな事を考えていると、


「……献花も終わったようですので、僕から別れの言葉を」


 エンペリラ様が手紙を広げようとした、その時、


「その前によろしいですかな、皇帝陛下!」


 え、な、なんだ? エンペリラ様の前に、誰か出てきた。


「あ、あいつ、聖騎士団の」

「知ってるのフィア」

「え、ええ、……私の騎士団所属が決まった時、真っ先に突っかかってきたおっさん」


 おっさん、うん、確かにおっさん。見た目的に40歳ぐらい。黒い西洋服に身を包んだ紳士然とした男は、自分のヒゲをいじくりながら、皇帝陛下に突っかかる不敬


「まさかとは思いますが、次の聖騎士団の団長を、この場で貴方が決めるつもりでありましょうか!?」

「……弔いの儀式に、そのような事をするつもりはありません」

「はっ! どうだか!」


 そこでおっさんは、グルッっと俺達の方へ振り向いた。


「元々に、聖騎士団のリーダーを、僅か17歳のソーディアンナ嬢に任せてた事態が蛮行であり、越権行為、そうだろう皆!」


 突然の言葉に、この場に居る者達がざわつき始める、そんな中、デカヴァイスさんが一歩踏み出した。


「き、貴様ぁぁぁ!? 死者を送り出す儀式でどういうつもりだぁぁぁ!」

「おやおや、ヴァイス様は私の意見に賛同していただけると思いましたがねぇ?」

「確かに私は、庶民やFクラスに好意的なソーディアンナは疎ましく思っていたが! 彼女は帝国の為に戦った勇士ぃっ! そうでなくても、死者に対しての冒涜を見逃せるかぁぁぁっ!」

「そういうのをねぇ、偽善と言うのですよ?」

「なんだとぉぉぉ!?」


 思わず飛びかかろうとするデカヴァイスさんを、いつも通り、"大声"ごと抑えるユガタさん。ますます周囲は騒然とするけど、


「ともかく、次の団長を誰にするかは、私達聖騎士団で決める事を約束していただきたい! 皆もそう思うだろう!?」


 って、さっきから不敬を止めようとしない。

 な、何を考えてるんだこのおっさん

 ここまで悪役ムーブみたいな事して、賛同を得られたとしても、恨みを買うだけじゃ――


「あの方は――嫌われたがっていますね」

「え?」


 メディの言葉に、フィアが続ける、


スネークウィップ蛇女の時と同じよ、庶民に好かれるのなんて死んでも嫌だって奴」

「そ、そんな」

「勿論、分断工作とか争いの火種蒔きとかあるんでしょうけど、……根本的に、私達庶民と、私達庶民と仲良くなろうとする貴族達と、仲良くしたくないのよ」


 ――愛されるよりも、憎まれたい

 俺のからっぽの心でも、とても理解出来ない考え方。

 そんな、モンスターよりも怪物な人に、


「――任命権は渡せません」


 エンペリラ様は、


「今回の彼女の死は、ある疑念がありますので」


 言った。


「……はは、ははは、はーっはっはっは!」


 ……まるでその言葉を待っていたかのように、


「つまり、ソーディアンナ嬢が死んだのは、我々のスライム討伐命令の所為だと言うのですな!」


 その人は、そのおっさんは、

 "怪物"は目を血走らせて笑う。


「――あなたは」

「ああ、全く、年若き少年皇帝! ただ先帝の威光に頼るお方!」


 そして、怪物が、

 嫌われたいが為に、舞台のように大立ち回りをする、化け物が、


「確たる証拠も無くその言葉を吐いたならば、最早、我々聖騎士団と争うしかありませんなぁ!」


 そう、帝国を争いの火で燃やそうとした、

 ――その時


「……ん?」


 突然それは、聞こえ始めた。


「これって、口笛?」

「え、ええ、どこからか聞こえてきますが」


 俺とメディだけでなく、他の人達もそれにざわつくタイミングで、

 カッ!


「えっ!?」

「あっ!?」

「なっ!?」


 エンペリラ様とおっさんの間に、なんか刺さった!?


「なにあれ!?」

「――赤いバラ」

「を、柄に括り付けたダガー!?」


 ぜ、前列にいた人達が言ったとおりのものが、陛下とおっさんの間に刺さっている!? そして口笛が止まると同時に、


「確たる証拠なら、ここにあるとも!」


 と、声が聞こえた。


「え、おい、学園の建物の上を見ろ!」

「なんだあのマントをたなびかせている剣士みたいな奴!」

「だ、誰かを肩に担いでるわよ!」


 そう、遠目でもそう解るシルエットは、皆の注目を浴びた途端、そのまま飛んだ。

 そして皇帝陛下とおっさんの間に――ふわりと着地してみせて、自分の肩を担いでいた――簀巻きにされた聖職者風の男を――その場に転がした。


「ああ、あいつ、おっさんに続いて私に突っかかってきたおっさん!」

「え、そうなの!?」


 フィアの言葉が弾ける中で、降り立った者は、その男に、

 ――剣の切っ先を顔に突きつけた


「昨夜、この男の口からハッキリと、アンナ嬢殺しの陰謀の全てを聞きだした、そうだな!」

「そ、その通りです許してくださぁい!」


 え、えええ!?

 なんか凄いあっさりと、証言が出てきちゃった!?

 ……と、というか、この剣士は、

 この証拠を持ってきた、仮面を付けた、金色ポニーテールのこの人は、


「だ、誰だ貴様ぁ!?」


 おっさん怪物がたまらず叫んだ瞬間、

 マスク越しでも解る美貌の瞳で、おっさんをにらみ付けながら、

 棺の前で、その名を告げる。


「――仮面の騎士ソードセイント」


 そして怪物へと、


「悪逆よ、剣の涙となりて散れ!」


 剣を向ける彼女に、

 俺達は叫んだ。


「「「ソーディアンナだこの仮面ひとぉ!?」」」


 だけどその事実は――棺の中と矛盾していた。

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