七大スライム、{
当然それは大問題になった。
「聖騎士団団長のスキルが、聖属性じゃないしSランクでも無いBランク!?」
「嘘を吐いていたというのか!」
「う、嘘だろ、こ、こんな事が、こ、こんな事が許されていいのか!」
と、聖騎士団の一部の者達や、元々アンナさんを快く思ってない人達に、糾弾される訳だけど、
「ですけど、スライムを倒したんですよねぇ?」
「スキルのランクがどうとか関係無いんじゃ……」
「つうかあの戦い方かっこよすぎ!」
それ以上の人達が、アンナさんの支持に回る。もともと
けれどそれでもアンナさんは、"私が今まで
エンペリラ様はアンナさんの希望を受け入れた。
だけどその代わりに、
アンナさんに、ある役目を負わせた。
――あの戦いから15日後
場所は、"元"聖騎士団本部にある講演堂。アリーナーのように舞台と席が広がる建物で、その席には、貴族は勿論、庶民も種族も生まれも育ちも関係無く、沢山の人達が座っている。
俺はそれを――舞台袖から眺めている。
そして舞台の中央には、
「皆、集まってくれてありがとう」
ソーディアンナさんが、あの
今のソーディアンナさんのいでたちは、軽装に剣を背負うだけでなく、その腰にポーチやら投げクナイなど、剣士というよりレンジャーめいた格好になっていた。
「そして、改めて謝罪する。今まで君達を欺いてた事、偽りの剣聖であった事を」
そう言って、深々と頭を下げる。……聴衆はそれに、沈黙を返す。
アンナさんは頭をあげて、再び語り出す。
「経緯から考えれば、私は罪人であり、この帝国から追放されても仕方ないはずだ。けれどエンペリラ様は、それを許さなかった。……皇帝陛下はこう言われた、"破壊の後に何も創造しないのならそれは悪逆以外の何物でも無い"と」
そう、アンナさんは、聖騎士団の不正を暴き過ぎてしまった。
事実上、聖騎士団は機能不全になっている。
その後の事は、死んで託すつもりだったかもしれないが、アンナさんは生き残った。
「私は、責任を取らなければならない、聖騎士団に代わる、民達を守る為の防衛機構を、そう、貴族や庶民、スキルのランクや種族、そんなのにとらわれない――あらゆる壁を乗り越えた者達が集う、新しい防衛組織」
そして、アンナさんは、
「ここに集まってくれた人達は、既にその私の理想を、私の夢見る未来を知って、尚、集まってくれた人達と聞いている、だからこそ、改めて問いたい」
弱音を晒した。
「本当に、いいのか?」
不安を、零す。
「どれだけ理想を掲げても、人が集まれば違いが起こる、その違いを、本当に争いにせず、乗り越えられるのか? 聖騎士団という組織は確かに腐敗はしていたが、今日まで、その強固な伝統、システムで、帝国を守ってきたのもまた事実だ、それを踏まえて尚君達は」
「――アンナ」
……その時、
一番、前の席に居た人が、〔絵師は見る人ドロウマナコ〕先輩が、
「組織だって、人と同じく、間違う事を知るべき、アンナのように」
「……マナコ」
「大切なのは、間違いを犯さない事じゃなくて、その間違いを一人だけに押しつけるんじゃなくて、皆で助け合う事であるべき」
そのマナコ先輩の言葉は、
「そうよ! ソーディアンナ先輩!」
「てめぇがまた間違ったら、今度は俺達が止めるからよ!」
「一人で抱え込まないでください、ソーディアンナさん!」
次々と伝播して、彼女の賛同、応援へと代わる。
その周囲の歓声を受けて、一瞬呆然とした後、
涙ぐみながら、笑顔を浮かべた。
「全く君達はバカだよ、大馬鹿だ! こんな、罪深い私を支えようとするなんて! 呆れるほどの夢想家達だ!」
そして、
「ならば――私と共に、夢をみてくれ」
その手を広げ、
「今までこの国を守りし、
言い放った。
「
――からっぽなその手で掴むのは
アンナさんが告げた、新たな防衛組織の名前に、会場は割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。アンナさんは、それを目を細めて眺めた後、もう一度深く頭を下げた後、舞台袖へ――俺の方へ向かっていった。
「さってと、熱狂の後は、冷静に
と、前席に座っていたマナコ先輩が舞台にあがる、そして、自分の描いてたスケッチ帳を、【眼聖】スキルで舞台のスクリーンに投影しはじめた。パワポみたいに便利だな。
と、それはともかく、
「お疲れ様でした、アンナさん」
俺は、アンナさんを出迎える。彼女はにっこり笑った後、……不安そうな顔をした。
「……やっぱり不安ですか?」
「ああ、壇上で語ったとおりだ、本当にうまくいくのかどうか、例え腐敗があろうとも、聖騎士団の形であった方がよかったんじゃないか」
「だけど、Sランクの人とか、身分の高い人達だけしか、国を守れる仕事に就けないというのも問題があったと思います」
「そうだね、うん、がんばるよ」
そしてアンナさんは、こう言った。
「こう見えて、努力は得意なんだ」
「知ってますよ」
そこで俺達は笑い合う。
「そういえば――今更なんだけど、フィアの姿を見ないね」
「ああ、それは」
「君の従者の、メディもだっけ? この15日間、一度も会ってないような」
忙しかったアンナさんが、気になっていても聞けなかっただろう事を、俺に聞いたタイミングで、
「お姉様!」
フィアの声が、俺の後ろからして、
「おや、噂をすれば影――」
そしてそっちの方を見れば、
「……え?」
そこに、
居たのは、
「……お母様」
ドレス姿で――アンナさんとよく似た顔立ちの、大人の女性と、そして、
「お父様――」
いでたち関係無く、貴族らしい雰囲気を纏った、優しげな表情をした男性に、
「あっ、ああ、あああ」
――アンナさんは
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
泣きながら、二人へ駆け寄った。そして、一番近い距離にいた、アンナさんの父親に抱きついた。
「い、一体、どこへ、今までどうして――」
そして、抱きついてからアンナさんは気づく、
「お父様」
アンナさんの父親の、右腕は、
「腕が」
肘から下が欠損しているのが、袖がひらりと舞っている事から解った。呆然とするアンナさんに、彼女の母親がささやく。
「私の為に、失ってしまったの」
「えっ」
その事実に驚くアンナさんは
「な、何が、一体、どうして!」
そう問いかけるけど、アンナさんの父親は、
何故こうなったかを語る前に、
「……剣は握れなくなったけど、大丈夫」
左手で――何も握らない、そのからっぽな手で、
「君を抱ける手が、まだ残っているから」
アンナさんを、抱きしめ返した。
……アンナさんは、腕の中で、
「ああっ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
子供のように泣きじゃくった。そんなアンナさんを、母親も泣きながら抱きしめる。三人、抱きしめ合う。
フィアも、そして頭の上のドラゴンも、よ゛がっだぁ゛~、と涙を流す。
――俺は、涙こそ零れなかったけど
心の底からその光景を、祝福していた。
確かにその時、俺のからっぽの心は、暖かい物で満たされていた。