今回の件は、アンナさんと両親の再会という、ある意味爽やかなハッピーエンドで収まったかのように見えるけれど、
「改めて思い返しても、ひどすぎる話です」
俺はメディと一緒に住んでいる下宿、その食卓で、夕食後のお茶を一緒に飲みながら、アンナさんの父上の失踪について聞く。
「アンナ様のお父様があのような目にあったのは、ただの掌返しだったと」
「……本当に、そうだよね」
結論から言うと、アンナさんが聖騎士団長になった時、彼女のお父さんが姿を消したのは、本人の意思じゃなかった。
アンナさんのお母さんの家族に、剣聖となった娘を、養子として寄越せと言ってきたからである。
――アンナさんが心配していた事
それは勿論、剣聖じゃなかった事が露見した時の、彼女の父親と母親がどうなるか。その為に、アンナさんの父母の所在を
「それをアンナ様のお父様が断ったら、なんとそのまま誘拐した」
「それからずっと、軟禁されていたんだっけ」
「監禁に近いひどい待遇です。そして、アンナ様を養子に寄越すなら、
「――役立たず」
アンナさんの母親が、そう言われてしまうのは。
……俺はその事に、怒りと同時に、恐ろしさを覚える。
「貴族の闇、か」
「いえ、これは貴族に限った話ではないと思います」
メディは静かに目を細める。
「人間を道具としてしか扱えない人達は、どこにでもいます」
その眼差しは、まるで見てきたかのような振る舞いで。
「……どっちにしろ、絶対、許せない話だよね」
流石に俺ですらも
「クラァヤミィが凄かったんだっけ」
「はい、【暗闇】スキルの潜伏は、調査はもちろんの事、攻撃にも使える万能スキルでして」
「お題が【○○】になったら、使ってみたいなぁ……」
という風に、より抜きのメンバーで向かったとか。かなりの大立ち回りになって――その結果、アンナさんのお父さんは、右腕を失ったらしい。
けど、自分の愛する人と、娘のために剣を振るう姿は、かっこよかったとか。
……と、俺が聞いた風にしか言えないのは、
「ごめんね、俺、役立たずで」
「そ、それはしょうがないですご主人様」
そう、【○聖】スキル+スライム乗っ取りで、無茶をやってから20日経過。あの日からこれまでの俺のスキルは、
――全部、Eランクだったのである
それも、スメルフの【嗅覚】スキルどころじゃない、【ぬるぽ】は勿論、【腹痛】とか【不眠】とか【目のかすみ】とか、使い用のない完全デバフなものばかり。
ごくたま~に、【豆電球】みたいな、ちょっとした光で照らせるみたいな奴も出てくるけど、基本的にどうにもならない、
と言っても、スキルの説明欄には、
[流石に無茶しすぎ、30日くらい休みましょう]
って、セイラ様のお言葉らしきものがあったから、耐え忍ぶしか無い訳で。
だから俺は、毎日のようにEランクのスキルを、一時間のインターバルごとに使ってる感じだ。
とはいえ、だったら、使わなければいいんじゃ? って気もするが、
――さっき言った【豆電球】のような
「……Eランクでも、もしかしたら、ってスキルもあるんだよね」
「そうですね、だからご主人様は、楽しそうなのですね?」
「楽しそう?」
「はい、どんなスキルでも、どう使おうか、考えて実行されているご主人様は、楽しそうです」
「……そっか」
――からっぽな心の俺だけど
よく考えたら今の
(いや、言葉が埋まっているだけで、実際はそんな単純な話じゃないかもしれないけど)
それでも、
「そう見えるなら、嬉しいな」
それは確かな事実だった。
今の俺は、"役立たず"である事に対する、余裕がある。
そんな俺の言葉に、メディが微笑んでくれたその時、
「……あれ? ベランダに、ドラゴンタクシー?」
「ああ、あれは、ソーディアンナ様!」
俺達は慌てて椅子から立ち上がり、最早玄関、ベランダの扉を開ける。それと同時にアンナさんと、
「あ、フィアも乗ってたんだ!」
「そうよ、ありがたく思いなさい、お兄ちゃん!」
と、チビドラと一緒にふんぞり返るフィアがまず降りて、それに続いてアンナさんも降りてきた。ドラゴンタクシーが飛び去った後、俺はアンナさんに話しかける。
「どうしたんですか、こんな時間に?」
「なに、平和の守護者での仕事が終わったからね、遊びに来たのさ」
アンナさんの手には皮で作られた手提げの袋があって――
「お母様が作ってくれたドラゴンプリンだ、一緒に食べようじゃないか」
「わぁ、ありがとうございます! 新しいお茶を煎れますね!」
アンナさんから手提げ袋を受け取って、部屋へと戻っていくメディ、それに続くアンナさんとフィア、
それを眺めた後、俺も行こうとした時に、
「――なんや盛り上がってるねぇ」
「え? ……セ、セイントセイカ様!? なんで!?」
「ごめんよぉ、
「そんな奇跡をお気軽に……」
と、突然の登場に驚いてたら、
――空から何か、ドラゴンじゃないものが降ってきた
「わぁっ!?」
「きゃぁっ!?」
俺とセイカ様が声をあげた途端、部屋に入った三人もベランダに戻ってきて、
「な、何事ですか、ってセイカ様!?」
「それに、スメルフ!?」
メディに続いて、フィアが驚いたとおり、ベランダに着地した物の正体は――巨大な狼状態のスメルフだった。俺は驚きながら思わず聞く。
「ど、どうしたんだスメルフ、何か事件!?」
「いや、甘い匂い、が、したから」
「え?」
「プリンは、俺の分も、あるか?」
「……スメルフって、甘党だったっけ?」
「ロマンシアが、よく、作ってくれて、好みに、なった」
その返答に、皆あっけにとられていたが、
「とりあえず、食べたいならその
というアンナさんの言葉に従って、人型になるスメルフ。結局そのまま俺達は、ベランダから部屋へと戻る。
――入学初日からこれまでに
俺の周りには、怒濤の日々が流れていっていた。だからこそ、このEランクスキルしか与えられない日々は、逆に尊いものになっていた。
だから、この平穏の中で、
俺はけして、知るよしも無かった。
「それじゃお茶の支度します」
「メディ、俺も手伝うよ」
これから起こる惨劇を、帝国を揺るがす大事件を、
そう、
――大和国女王サクラセイリュウ帝国劇場殺人未遂事件
その容疑者が、
皇帝エンペリラ様になるなんて。
【くるぶし】スキル Eランク Lv3
スキル解説[暫くEランクスキルだけ]
アルズハート
[【笑顔】【賞賛】【真実】【未来】【○○】【○○】【○○】]