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7-end 罪、裁かれる時

 平和の守護者Peacemakerが設立されてから、10日後。

 今回の件は、アンナさんと両親の再会という、ある意味爽やかなハッピーエンドで収まったかのように見えるけれど、


「改めて思い返しても、ひどすぎる話です」


 俺はメディと一緒に住んでいる下宿、その食卓で、夕食後のお茶を一緒に飲みながら、アンナさんの父上の失踪について聞く。


「アンナ様のお父様があのような目にあったのは、ただの掌返しだったと」

「……本当に、そうだよね」


 結論から言うと、アンナさんが聖騎士団長になった時、彼女のお父さんが姿を消したのは、本人の意思じゃなかった。

 アンナさんのお母さんの家族に、剣聖となった娘を、養子として寄越せと言ってきたからである。

 ――アンナさんが心配していた事

 それは勿論、剣聖じゃなかった事が露見した時の、彼女の父親と母親がどうなるか。その為に、アンナさんの父母の所在をあらゆるネットワークというかオージェで突き止めたのだけど、


「それをアンナ様のお父様が断ったら、なんとそのまま誘拐した」

「それからずっと、軟禁されていたんだっけ」

「監禁に近いひどい待遇です。そして、アンナ様を養子に寄越すなら、役立たずの女アンナの母にも会わせてやると」

「――役立たず」


 アンナさんの母親が、そう言われてしまうのは。

 ……俺はその事に、怒りと同時に、恐ろしさを覚える。


「貴族の闇、か」

「いえ、これは貴族に限った話ではないと思います」


 メディは静かに目を細める。


「人間を道具としてしか扱えない人達は、どこにでもいます」


 その眼差しは、まるで見てきたかのような振る舞いで。


「……どっちにしろ、絶対、許せない話だよね」


 流石に俺ですらも絶ッ許外道な人達から、アンナさんのお父さんとお母さんを助けたのは――フィアとメディ、そしてFクラスのメンバーだ。


「クラァヤミィが凄かったんだっけ」

「はい、【暗闇】スキルの潜伏は、調査はもちろんの事、攻撃にも使える万能スキルでして」

「お題が【○○】になったら、使ってみたいなぁ……」


 という風に、より抜きのメンバーで向かったとか。かなりの大立ち回りになって――その結果、アンナさんのお父さんは、右腕を失ったらしい。

 けど、自分の愛する人と、娘のために剣を振るう姿は、かっこよかったとか。

 ……と、俺が聞いた風にしか言えないのは、


「ごめんね、俺、役立たずで」

「そ、それはしょうがないですご主人様」


 そう、【○聖】スキル+スライム乗っ取りで、無茶をやってから20日経過。あの日からこれまでの俺のスキルは、

 ――全部、Eランクだったのである

 それも、スメルフの【嗅覚】スキルどころじゃない、【ぬるぽ】は勿論、【腹痛】とか【不眠】とか【目のかすみ】とか、使い用のない完全デバフなものばかり。

 ごくたま~に、【豆電球】みたいな、ちょっとした光で照らせるみたいな奴も出てくるけど、基本的にどうにもならない、

 と言っても、スキルの説明欄には、


[流石に無茶しすぎ、30日くらい休みましょう]


 って、セイラ様のお言葉らしきものがあったから、耐え忍ぶしか無い訳で。

 だから俺は、毎日のようにEランクのスキルを、一時間のインターバルごとに使ってる感じだ。

 とはいえ、だったら、使わなければいいんじゃ? って気もするが、

 ――さっき言った【豆電球】のような


「……Eランクでも、もしかしたら、ってスキルもあるんだよね」

「そうですね、だからご主人様は、楽しそうなのですね?」

「楽しそう?」

「はい、どんなスキルでも、どう使おうか、考えて実行されているご主人様は、楽しそうです」

「……そっか」


 ――からっぽな心の俺だけど

 よく考えたら今の俺の心はアルズハート、【笑顔】、【賞賛】、【真実】、そして【未来】と、七つの空白の内、もう四つも埋まっている。これはもうからっぽと言えないかもしれない。


(いや、言葉が埋まっているだけで、実際はそんな単純な話じゃないかもしれないけど)


 それでも、


「そう見えるなら、嬉しいな」


 それは確かな事実だった。

 今の俺は、"役立たず"である事に対する、余裕がある。

 そんな俺の言葉に、メディが微笑んでくれたその時、


「……あれ? ベランダに、ドラゴンタクシー?」

「ああ、あれは、ソーディアンナ様!」


 俺達は慌てて椅子から立ち上がり、最早玄関、ベランダの扉を開ける。それと同時にアンナさんと、


「あ、フィアも乗ってたんだ!」

「そうよ、ありがたく思いなさい、お兄ちゃん!」


 と、チビドラと一緒にふんぞり返るフィアがまず降りて、それに続いてアンナさんも降りてきた。ドラゴンタクシーが飛び去った後、俺はアンナさんに話しかける。


「どうしたんですか、こんな時間に?」

「なに、平和の守護者での仕事が終わったからね、遊びに来たのさ」


 アンナさんの手には皮で作られた手提げの袋があって――


「お母様が作ってくれたドラゴンプリンだ、一緒に食べようじゃないか」

「わぁ、ありがとうございます! 新しいお茶を煎れますね!」


 アンナさんから手提げ袋を受け取って、部屋へと戻っていくメディ、それに続くアンナさんとフィア、

 それを眺めた後、俺も行こうとした時に、


「――なんや盛り上がってるねぇ」

「え? ……セ、セイントセイカ様!? なんで!?」

「ごめんよぉ、奇跡使ってテレポートもうた」

「そんな奇跡をお気軽に……」


 と、突然の登場に驚いてたら、

 ――空から何か、ドラゴンじゃないものが降ってきた


「わぁっ!?」

「きゃぁっ!?」


 俺とセイカ様が声をあげた途端、部屋に入った三人もベランダに戻ってきて、


「な、何事ですか、ってセイカ様!?」

「それに、スメルフ!?」


 メディに続いて、フィアが驚いたとおり、ベランダに着地した物の正体は――巨大な狼状態のスメルフだった。俺は驚きながら思わず聞く。


「ど、どうしたんだスメルフ、何か事件!?」

「いや、甘い匂い、が、したから」

「え?」

「プリンは、俺の分も、あるか?」

「……スメルフって、甘党だったっけ?」

「ロマンシアが、よく、作ってくれて、好みに、なった」


 その返答に、皆あっけにとられていたが、


「とりあえず、食べたいならそのサイズじゃない方がいいかな」


 というアンナさんの言葉に従って、人型になるスメルフ。結局そのまま俺達は、ベランダから部屋へと戻る。

 ――入学初日からこれまでに

 俺の周りには、怒濤の日々が流れていっていた。だからこそ、このEランクスキルしか与えられない日々は、逆に尊いものになっていた。

 だから、この平穏の中で、

 俺はけして、知るよしも無かった。


「それじゃお茶の支度します」

「メディ、俺も手伝うよ」


 これから起こる惨劇を、帝国を揺るがす大事件を、

 そう、

 ――大和国女王サクラセイリュウ帝国劇場殺人未遂事件

 その容疑者が、

 皇帝エンペリラ様になるなんて。






 【くるぶし】スキル Eランク Lv3

 スキル解説[暫くEランクスキルだけ]


 アルズハート

 [【笑顔】【賞賛】【真実】【未来】【○○】【○○】【○○】]

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