目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

幕間

ExtraSide三人称視点 円卓帝国裁判所第一法廷

 既に語られている通り――円卓帝国の中心部は、皇帝の居城を取り囲む形で、以下のように6つの施設が存在する。


 Sorcery 魔法院

 Peacemaker 平和の守護者

 Institute  研究所

 Regency 摂政機関

 Academy  学園

 Labyrinth  迷宮


 その中の一つ摂政機関Regencyは、未成年14歳である皇帝エンペリラに代わり、国の統治を行う者達が集まる場所。とはいえ、実際はエンペリラ自身がまつりごとに深く関わっている為に、"幼き皇帝の統治の代行"では無く、"統治の手助け"を行う場所になっている。

 そしてこの区域には、司法に関わる施設も建てられていた。

 ゆえに、裁判所もこの中にあり――セイントセイラの女神像が全てを見渡すように配置された法廷の、傍聴席は今、


「い、いやおかしいだろこんな裁判」

「こんなの、許されていい訳がない!」


 殺気染みた声が飛び交う、そしてその声は騒音となり、神聖であるべきこの場所を汚していく、だが、

 ――カァンッ!

 ……高く澄んだ硬質音が、鳴り響く。それは、木槌の音である。

 たった一つの音で裁判所の騒音はおさまり、そして、


「静粛に」


 低く穏やかな声が、この場を完全に支配した。

 木槌を、ガベルを叩いたのは、裁判長。

 しかしその者は、この国帝国の者では無い。

 ――聖都の長たる〔奇跡はここにセイントセイカ〕

 かの女神、セイントセイラの血を引き、300年生まれ変わり続けていると謳われながらも、普段の彼女は誰彼も無くフレンドリー親しみやすい

 けれど、今この場においては、


「この裁判を受け入れたんは、他ならぬ被告自身」


 厳かに、粛々に、左目閉じた右目の視線も熱も無し。

 ただただ司法の勤めを果たそうとする者は、裁判所の中央、証人席に目を向ける。


「せやろ、円卓帝国七代皇帝――」


 そう、今、訴えられているのは、


「エンペリラ君」

「……はい」


 この国の皇帝、エンペリラだった。


「い、いや、どうなってんだよ」

「俺達の皇帝が、聖女様に裁かれる?」

「なんでこんな事に――」


 再びざわつき始める法廷、だが、


「そんなの決まってるでござる!」


 検事席に立つ女性が、くノ一が、


「その皇帝が、拙者達の姫! 大和の統治者!」


 ――シノビビャッコが言い放つのは


「サクラセイリュウ様を殺したからでござるよ!」


 そう、机をドン! っと、叩きながら言ってのけた。それに対して、


「ぼ、僕は殺してなんかいません! それに、サクラ――セイリュウさんはまだ死んでないって!」


 その必死の訴えに答えたのは、シノビビャッコのその隣、


「余談は許さぬ」


 検事としてこの場に立つ、


「――どちらにしろエンリ殿は、我が主を命がふちに追い込んだ者として、その場に立っている」


 和装姿、袴の腰に日本刀を帯びた、白髪総髪の侍である、ヤギュウゲンブだった。

 静かに重く低い声に対して、シノビビャッコは花火のように言葉を放つ。


「そうでござる! セイリュウ様はお主にやられた怪我で生死の境を彷徨っている、ああこのままでは、死ぬのも当然!」

「そ、そんな……」


 ビャッコの言葉に、エンペリラは動揺を示した。そしてうつむき、ただ震える。今のこの姿に皇帝の威厳カリスマは一切無い。

 大切な人が命を落としかけているという事実と、その容疑者として裁かれているという現実に、彼は今、ただの14歳の少年になる。

 シノビビャッコはその皇帝の様子に――かつて壺詐欺でやりこめられた事の仕返しとばかり――嘲笑の声ぷっぷくぷーを隠そうともしない。


「はぁ、本来ならこんな裁判を開く事も無く、大和は帝国へ戦争を仕掛けるはずだったでござるよ? それが、皇帝がどうしても真実を明らかにしたいと、有りもしない真実を!」

「ち、違うんです、僕は本当に」

「それならば、その証拠はあるのでござるか!」

「そ、それは……」


 言葉詰まる様子に、傍聴席がまたざわつく。


「おいおい、エンペリラ様が大和のお姫様を殺したって?」

「確か元婚約者だろ?」

「けど、それが解消した後は、エンペリラ様がそのお姫様に執着してたって話も」


 とうとう帝国の民達も、煮え切らない態度をとるエンペリラに、不安を覚え始めていた。その事で、ますます楽しそうに笑みを歪ませるビャッコ。


「ちょ、みんな、落ち着いて……」


 ――セイカがガベルを叩こうとしたがそれを制するように


「もう、こんな裁判も必要無いでござる!」


 そう言って、


「だいたいお主の弁護士が、まだ着いてないのはどういう事でござるか!」

「げ、現場を見て、できれば証拠物も探してくるって」

「そんなものはないでござる! セイントセイカ殿、じゃなくて、裁判長!」


 ビャッコはゲンブに、そしてこの場に居る者達全員に、

 最早、勝利宣言のように、


「最早これ以上の審議は無用でござる! これにて、閉廷――」


 そう勝手に宣言した時、


「異議あり!」


 声が、響いた。


「なっ!?」

「えっ!?」

「へっ!?」


 シノビビャッコは勿論、エンペリラにセイントセイカも、その響いた声に驚きを隠さない。

 裁判所の扉を、開け放ちざまに現れたのは、


「――来てくれたんですね」

「当たり前だろ、エンリ様」


 メディクメディを、自分の助手として連れてきた、


「無実を証明するって、約束したんだから」


 ――何も無しのアルテナッシ


「アル君!?」


 その登場に裁判長の威厳も忘れ、色めき思わず身を乗り出すセイントセイカ、

 突然の学園の有名人に驚くのは傍聴席だけで無く、


「あぁ! あの時の男壺算知ってた奴!?」


 検事席側にいるビャッコも同様だった。しかし、その隣にいる、


「来たか」


 ゲンブは悠然と構えたままである。彼だけはこの状況で、ただ佇むだけでプレッシャーをかけてくる。

 それでもアルテナッシとメディクメディは、表情も態度も崩さず、検事席の反対側にある、弁護士席へと移動して、そして、

 ――バンッ! っと、

 両手で机を叩いた。

 ただその一動で、裁判所が静まりかえる、視線が全て、目を閉じているアルテナッシへと集中する。

 その視線の中で、彼は、


「この裁判」


 目と共に、口を開き、

 ――言い放つ


「俺が弁護します!」


 ――アルテナッシのこの時のスキルは


 【逆境裁判】スキル SSSランク Lv3

 スキル解説[どんな逆境でも依頼人を信じ抜く]


 何も無い自分を、信じてくれた人の為にあった。




          ツヅク


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?