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第八話 異議ありギャッキョウサイバン!

8-1 【○○○○】

 帝国歴1041年7月4日7時45分

 アルとメディの下宿の食卓


 文字や料理や文化黒板と同じく、一週間とかの月日の数え方も、前世の世界から流れ込んでた節があるこの異世界。1年が360日、月は30日で固定だったりするし、天体お空が違うせいか、月曜日火曜日といった曜日の概念が無いとかの差異はあるけど、ともかくも俺が、メディと出会い、学園に入学して、もう94日約3ヶ月が経っていた。

 そして、俺が無茶剣聖悪騎したことのペナルティ休養期間、Eランクスキル地獄に至っては、34日目になって、30日をとっくにオーバーしていたのだけど、


「昨日のスキルは、惜しかったですね」


 今日は週の六日目前世じゃ土曜日、昨日の振り返りをしながら、メディの作ってくれたアスパラのクリームスープを、固く焼き上げられたパンで作られたスプーンですすりながら、昨日の授業を思い返す。


「確か、スキルの名前は【ずっこけ】でしたね」

「うん、相変わらずのEランクスキル」


 【ずっこけ】スキルは、[いつどこで転ぶかわからない]なんていう、デバフにも程があるスキルだったんだけど、俺本人すらも制御できない動きは、そのまま、相手の"フェイント"になるんじゃないかと考えた。

 だから昨日、模擬戦の授業でスメルフ相手に、"自分すら騙す不意打ち"をこけながら仕掛けた訳だけど、


「あれは正直、スメルフ様が上手うわてでございましたね」

「ああ、むしろ、抱きとめられちゃったし」


 刀を持って倒れ込んできた俺に、スメルフは避けようとせず寧ろ近づいて、片腕で俺の体を支えて見せた。俺の偶然すらも処理できる野生の勘、


「なかなかうまくいかないね」

「それでも、変わらない前向きさ、確実にご主人様は成長されていると思います」

「――うん、ありがとう」


 そうお礼を述べてから、食事に集中する。スープのかさが減ったら、ふやけたパンスプーンもかじっていく。

 メディが、Eランクスキルを使う俺が、楽しそうと言ってくれたのを切っ掛けに、

 俺はEランクのスキルしか与えられないこの状況を、より強く、楽しむようになっていた。30日を過ぎても焦りは無い。 それに、入学してからの2ヶ月間、入学試験で1位になって、ボルケノンドでスライム退治、、Sクラスとレースして、フィアの本当の気持ちに気づいて、聖女様とジャングルに行って、タートルリゾートで森王尻王様と謁見し、アンナさんを剣聖から英傑にして、と。

 そんな怒濤の日々に比べれば、この一ヶ月は、凪のようなものだった。正直、スキルが役立たずの俺だと、授業についていくのも一苦労。けれどクラスの皆が、知識を教えてくれたり、体力の付け方、戦いの立ち回り方など、色々とアドバイスしてくれる。

 前世と違って俺の心には、余裕がある。

 母さんトラウマの夢を見ることも、少なくなった。

 だから、パンをスプーンにスープを食べるというこの朝食も、


「ごちそうさま、美味しかった」


 食べ終えたら、手を合わせて言えるようになっていた。美味しい振りじゃなくて、ちゃんと美味しい。閉じていた味覚も最近は、開いていってるような気がする。

 メディは笑顔を浮かべて、俺と同じように手を合わせたごちそうさま


「さてと、そろそろスキルのチェックをするね」

「今日で34日目、タイミング的に、そろそろでしょうか?」


 そろそろというのは勿論、お題がEランクに固定されないということ、


「そうだね、流石に一生、Eランクのスキル使いっていうのは勘弁したいし」

「とはいえ、【くるぶし】スキルを、あれだけ見事に使いこなしたご主人様なら、それもまた一つの道では?」

「あれはたまたまうまくいっただけだからなぁ」


 あのスキルで3-B3年B組の人達との合同授業を、なんとか乗り切ったことを思い出しつつ、俺はメニューを開いた後、スキルの項目を目の前のに展開した。

 【○聖】とまでは言わないけど、また空白一字と漢字一字の組み合わせにならないかなぁ、と、

 俺はお題をチェックする。


 【○○○○】スキル -ランク Lv3

 スキル解説[          ]


 ……、

 ん?


「……ご主人様?」


 メディが、俺に話しかけてくる。

 きっと、俺の様子が、明らかにおかしいからだろう。

 だけど俺は、メディへ返事も出来ず、一度目をごしごしと腕でこすってから、

 ――スキル欄を二度見する。


 【○○○○】スキル -ランク Lv3

 スキル解説[          ]


「うわぁぁぁぁ!?」

「ご主人様!?」


 俺は、椅子から転げ落ちた。


「ど、どうされました!? まさか、掟破りの二度目の【ずっこけ】スキルでございますか!?」

「ぜ、全部空白のパターン」

「全部、ということは、【○○】マルマルですか!?」

「違う! 【○○○○】マルマルマルマル!」

【○○○○】マルマルマルマル!?」


 床に尻餅をついた俺の言葉に、メディもびっくら仰天する。さっきまでしみじみと感じていた、俺の心の余裕は吹っ飛んだ。

スキル説明欄[      ]もからっぽで、つまりこれ、どんな文字だろうと入れ放題!


「つまり、四字熟語すらいけるってことじゃ!」

「四字熟語!」


 や、やばいやばい、剣聖とか最強の二字熟語でも、SランクやSSSランクだったりするのに、漢字四つだったらどうなるんだ?

 思い返すのは、【百鬼夜行】スキル、あの時も凄まじい力になった。

 疾風迅雷とか百折不撓とか焼肉定食とか、ともかく、凄いスキルになるのは確実だ!

 ――だけど


「ど、どうしようメディ!」


 こんなのもう、宝くじみたいなものだ。Eランクスキルに満足した日常を、容易く崩壊させる"毒"。メディも俺と同じ考えなのは、その慌てっぷりからよくわかる。


「お、お、落ち着きましょう! メイド長から教わりました! 紅茶の染みは炭酸水で落ちると!」

「うん、今はその教えは要らない!」


 どうしようどうしようとわたわたする俺達で、


「ひ、ひとまず、深呼吸をしましょうご主人様」

「そ、そうだね、すーはー、すーはー」


 って、お互いに息を合わせていた時、

 ――ドンドン!


「わわっ!?」


 玄関の扉が、かなり強くノックされた。……その音の後に、静寂が訪れる。


「お、お客様みたいだね」

「わ、私が、出て参ります」

「いや、俺も行くよ」


 第三者によってどうにか落ち着く俺達、そのまま二人揃って扉の前へ行き、ガチャリと開けると、そこには、


「あれ?」


 男の子がいる、知らない子だ。

 背の低い小柄149cmを、白いシャツに蝶ネクタイ、その上にサスペンダー付きの半ズボンで包んだ、初めて出会う男の子、

 そんな子が、ラッピングされた四角い箱を、小脇に抱えて佇んでいた。


「えっと、誰かな?」


 全くの初対面の相手の笑顔をじっと見て、

 ……あれ?


「初めて……?」

「どこかで、お見受けしたような……?」


 なんだろう、記憶にあるけれど、モヤがかかる。頭の中でその存在だけが蜃気楼みたいだ。

 困惑する俺とメディの前で、その男の子は、


「――スキルを使っているのに、思い当たっていただけるのですね」


 と、言った、

 その瞬間、


「あっ」


 俺はあの日のことを、学園に入学して11日目4月11日のことを思い出す。

 ――壺算


「も、もしかしてあなたは!」


 俺が気づいたことを、隣のメディが、


「皇帝エンペリラ様!?」


 言葉にしてくれた瞬間、


「気づいてくれて嬉しいです!」


 ――〈エンペラーホリディヘーカの休日

 その偽装スキルが解除されない状態で、さっきまで他人だった少年は、この円卓帝国の皇帝として、下宿の玄関の前に降臨されていた。

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