帝国歴1041年7月4日7時45分
アルとメディの下宿の食卓
文字や料理や
そして、俺が
「昨日のスキルは、惜しかったですね」
今日は
「確か、スキルの名前は【ずっこけ】でしたね」
「うん、相変わらずのEランクスキル」
【ずっこけ】スキルは、[いつどこで転ぶかわからない]なんていう、デバフにも程があるスキルだったんだけど、俺本人すらも制御できない動きは、そのまま、相手の"フェイント"になるんじゃないかと考えた。
だから昨日、模擬戦の授業でスメルフ相手に、"自分すら騙す不意打ち"をこけながら仕掛けた訳だけど、
「あれは正直、スメルフ様が
「ああ、むしろ、抱きとめられちゃったし」
刀を持って倒れ込んできた俺に、スメルフは避けようとせず寧ろ近づいて、片腕で俺の体を支えて見せた。俺の偶然すらも処理できる野生の勘、
「なかなかうまくいかないね」
「それでも、変わらない前向きさ、確実にご主人様は成長されていると思います」
「――うん、ありがとう」
そうお礼を述べてから、食事に集中する。スープのかさが減ったら、ふやけた
メディが、Eランクスキルを使う俺が、楽しそうと言ってくれたのを切っ掛けに、
俺はEランクのスキルしか与えられないこの状況を、より強く、楽しむようになっていた。30日を過ぎても焦りは無い。 それに、入学してからの2ヶ月間、入学試験で1位になって、ボルケノンドでスライム退治、、Sクラスとレースして、フィアの本当の気持ちに気づいて、聖女様とジャングルに行って、タートルリゾートで
そんな怒濤の日々に比べれば、この一ヶ月は、凪のようなものだった。正直、スキルが役立たずの俺だと、授業についていくのも一苦労。けれどクラスの皆が、知識を教えてくれたり、体力の付け方、戦いの立ち回り方など、色々とアドバイスしてくれる。
前世と違って俺の心には、余裕がある。
だから、パンをスプーンにスープを食べるというこの朝食も、
「ごちそうさま、美味しかった」
食べ終えたら、手を合わせて言えるようになっていた。美味しい振りじゃなくて、ちゃんと美味しい。閉じていた味覚も最近は、開いていってるような気がする。
メディは笑顔を浮かべて、俺と同じように
「さてと、そろそろスキルのチェックをするね」
「今日で34日目、タイミング的に、そろそろでしょうか?」
そろそろというのは勿論、お題がEランクに固定されないということ、
「そうだね、流石に一生、Eランクのスキル使いっていうのは勘弁したいし」
「とはいえ、【くるぶし】スキルを、あれだけ見事に使いこなしたご主人様なら、それもまた一つの道では?」
「あれはたまたまうまくいっただけだからなぁ」
あのスキルで
【○聖】とまでは言わないけど、また空白一字と漢字一字の組み合わせにならないかなぁ、と、
俺はお題をチェックする。
【○○○○】スキル -ランク Lv3
スキル解説[ ]
……、
ん?
「……ご主人様?」
メディが、俺に話しかけてくる。
きっと、俺の様子が、明らかにおかしいからだろう。
だけど俺は、メディへ返事も出来ず、一度目をごしごしと腕でこすってから、
――スキル欄を二度見する。
【○○○○】スキル -ランク Lv3
スキル解説[ ]
「うわぁぁぁぁ!?」
「ご主人様!?」
俺は、椅子から転げ落ちた。
「ど、どうされました!? まさか、掟破りの二度目の【ずっこけ】スキルでございますか!?」
「ぜ、全部空白のパターン」
「全部、ということは、
「違う!
「
床に尻餅をついた俺の言葉に、メディもびっくら仰天する。さっきまでしみじみと感じていた、俺の心の余裕は吹っ飛んだ。
「つまり、四字熟語すらいけるってことじゃ!」
「四字熟語!」
や、やばいやばい、剣聖とか最強の二字熟語でも、SランクやSSSランクだったりするのに、漢字四つだったらどうなるんだ?
思い返すのは、【百鬼夜行】スキル、あの時も凄まじい力になった。
疾風迅雷とか百折不撓とか焼肉定食とか、ともかく、凄いスキルになるのは確実だ!
――だけど
「ど、どうしようメディ!」
こんなのもう、宝くじみたいなものだ。Eランクスキルに満足した日常を、容易く崩壊させる"毒"。メディも俺と同じ考えなのは、その慌てっぷりからよくわかる。
「お、お、落ち着きましょう! メイド長から教わりました! 紅茶の染みは炭酸水で落ちると!」
「うん、今はその教えは要らない!」
どうしようどうしようとわたわたする俺達で、
「ひ、ひとまず、深呼吸をしましょうご主人様」
「そ、そうだね、すーはー、すーはー」
って、お互いに息を合わせていた時、
――ドンドン!
「わわっ!?」
玄関の扉が、かなり強くノックされた。……その音の後に、静寂が訪れる。
「お、お客様みたいだね」
「わ、私が、出て参ります」
「いや、俺も行くよ」
第三者によってどうにか落ち着く俺達、そのまま二人揃って扉の前へ行き、ガチャリと開けると、そこには、
「あれ?」
男の子がいる、知らない子だ。
背の低い
そんな子が、ラッピングされた四角い箱を、小脇に抱えて佇んでいた。
「えっと、誰かな?」
全くの初対面の相手の笑顔をじっと見て、
……あれ?
「初めて……?」
「どこかで、お見受けしたような……?」
なんだろう、記憶にあるけれど、モヤがかかる。頭の中でその存在だけが蜃気楼みたいだ。
困惑する俺とメディの前で、その男の子は、
「――スキルを使っているのに、思い当たっていただけるのですね」
と、言った、
その瞬間、
「あっ」
俺はあの日のことを、学園に入学して
――壺算
「も、もしかしてあなたは!」
俺が気づいたことを、隣のメディが、
「皇帝エンペリラ様!?」
言葉にしてくれた瞬間、
「気づいてくれて嬉しいです!」
――〈
その偽装スキルが解除されない状態で、さっきまで他人だった少年は、この円卓帝国の皇帝として、下宿の玄関の前に降臨されていた。