帝国歴1041年7月5日10時5分
摂政機関裁判所 エントランス
アル
(ま、まずい!)
(遅刻した・・・・!)
メディ
「ご主人様、急ぎましょう!」
「裁判はもう始まってるはずです!」
アル
「あ、ああ!」 それにしても、」
「現場調査に、こんな時間がかかるなんて!」
アル
(劇場に入るために、ダイスロックっていう)
(相手の心をオープンさせるのに、時間かかった!)
アル
(もう、なんだったんだ!)
(あのマシンガントークのオバチャン!)
アル
「結局、証拠物もみつからなかったし・・・・!」
メディ
「それでも、行ってよかったです。」
メディ
「現場の様子を直接見ておく。」
「裁判には、必要なことでしたから!」
アル
「うん!」
「えっと、第一法廷はここか!」
ビャッコの声
「最早これ以上の審議は無用でござる・・・・!」
メディ
「ご、ご主人様!」
アル
(扉の向こうから、あの忍者の声が聞こえる!)
(エンリ様が、追い詰められている)
アル
(だけど俺は、セイラ様とあのゲームをした俺は知ってる!)
(ここからどうすべきか――そして!)
アル
(何を叫ぶべきか!)
ビャッコの声
「これにて、閉廷――」
アル
(扉を思いっきり、開いて!)
(せーのっ!)
異議あり!
ビャッコ
「なっ!?」
エンリ
「えっ!?」
サイバンチョ
「へっ!?」
アル
(・・・・ああ、俺の声が、この法廷に響き渡る。)
アル
(からっぽな心のはずの俺が!)
(腹の底から大声で!)
エンリ
「――来てくれたんですね」
アル
(・・・・証人席のエンリ様が、俺を見て、涙ぐんでる。)
(返す言葉は、もちろん、決まってる。)
アル
「当たり前だろ、エンリ様。」
「無実を証明するって、約束したんだから。」
ザワザワザワザワ・・・・
アル
(――当たり前だけど、法廷中がざわついてる。)
(でも、ちっとも気後れしない。これもスキルの力?)
サイバンチョ
「アル君!?」
ビャッコ
「ああ! あの時の男!」
アル
(セイカ様も、ビャッコさんも、俺に驚いている。)
(――だけど。)
ゲンブ
「来たか」
アル
(この人は、昨日と同じで、まったく動じない。)
(――気圧されるな。)
アル
(エンリ様の無実を証明するためには、)
(この人が俺の敵、乗り越えなきゃいけない壁なんだから。)
メディ
「――ご主人様。」
アル
「うん」
アル
(ともかく、弁護席へ行こう。)
ボウチョウニン
「え、嘘、アルテナッシが弁護するの?」
ボウチョウニン
「あいつにはなんの資格もないだろ!」
ボウチョウニン
「そもそも、庶民が皇帝の弁護だなんて。」
アル
(・・・・席についても、俺への不安は、みんな隠しきれていない。)
(その気持ちは、よくわかる。)
アル
(――だからこそ!)
――バンッ!
アル
「この裁判、俺が弁護します!」
ビャッコ
「――は?」
ビャッコ
「……な、な、な、何を言ってるで」
「ござるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ビャッコ
「いきなり、バンッ! って机を叩いて!」
「我が物顔で法廷に乗り込んできて! そもそも!」
ビャッコ
「拙者達のセリフが、文字になって浮かんでるのは、」
「一体、いかなる妖術でござるか!」
アル
「それはもう!」
バンッ!
アル
「そういう《スキル》です!」
ビャッコ
「そういう《スキル》でござるか!?」
アル
(――すごい。)
(机を両手でバンッて叩くと、ノリと勢いで押し切れる。)
アル
(今ならハッタリだけで全部どうにかなりそうな気がする!)
(これがゲームを元にした【逆境裁判】スキル!)
サイバンチョ
「あの、アル君。他の人と違って、うちの名前だけ」
「"セイカ"やのうて"サイバンチョ"なのはなんで?」
アル
「そういう《スキル》です!」
サイバンチョ
「そういう《スキル》なんねぇ。」
「――ともかく。」
カンッ!
アル
(裁判長のセイカさんが、ガベル――木槌を叩いた。)
(バンッ! が、机叩きで、カンッ! が、木槌か。)
サイバンチョ
「当法廷は、アルテナッシ氏を弁護人として認めます。」
「これは裁判前に、被告人から要請を受けています。」
ビャッコ
「そ、そんなの、検事側に相談無しで通るはずがないでござる!」
ゲンブ
「
ビャッコ
「え、ゲンブ殿!?」
ゲンブ
「昨夜の内にな。」
アル
「・・・・そのことは、ありがとうございます。」
ゲンブ
「礼を言うべきことでは無し。」
「互いに、主君に命を捧げることこそ、武士の宿命。」
アル
「――武士。」
ゲンブ
「――貴殿のその刀は飾りか?」
「刀こそ、武士の誇りそのものであろう。」
アル
「・・・・この、刀ですか。」
「この刀は、武士の誇りとは、関係ありません。」
ゲンブ
「それでは、何故をそれを帯びる。」
「ただ魔物を殺す為の道具か?」
アル
「・・・・この刀は、俺の最初の友達。」
「隣にいる、メディが俺に預けてくれたものです。」
メディ
「――ご主人様。」
アル
「俺は武士じゃありません。」
「だけどこの刀は、友達の大切さを、俺にずっと教えてくれています。」
アル
「そして今日、俺は、エンリ様を――」
「主君としてでなく、友達として助けるため、ここにいます!」
異議ありっ
アル
(え、ゲ、ゲンブさんが異議を言って――)
シュタッ!
アル
(その手に、どこからか飛んできた、コーヒーを受け取った!?)
ゴクゴクゴク・・・・
アル
(そして――飲んだ!?)
ゲンブ
「・・・・帝国の食い物は、其の腹には合わぬ。」
「しかし、このコーヒーだけは別。」
ゲンブ
「この苦み、この深み。」
「この至極の黒こそが、明鏡止水の呼び水なり。」
ビャッコ
「いやいやゲンブ殿!?」
「どこからコーヒーを取り出したでござるか!?」
ゲンブ
「そういう《スキル》であろう。」
ビャッコ
「そういう《スキル》でござるか!?」
メディ
「そういう《スキル》ですかご主人様!」
アル
「そういう《スキル》っぽい!」
アル
(お、俺の【逆境裁判】スキル、相手にも影響するんだ。)
アル
(だ、だけど、これはまずいかも。)
(セイラ様とプレイした、"逆境裁判"って裁判ゲーム。)
アル
(コーヒーを飲む検事は強敵だった!)
(実質、ラスボスだ!)
ゲンブ
「・・・・アルテナッシ殿。」
アル
「は、はい!」
ゲンブ
「――友を守る為の刀。」
「それが貴殿の覚悟であったな。」
アル
「・・・・!」
「は、はい、その通りです!」
ゲンブ
「ならば、証明してみせよ。」
「しかしそれが出来ぬのであらば。」
ゲンブ
「其が銘刀、"亀鏡"の露となると知れ!」
アル
(お、脅しだぁぁぁ!?)
サイバンチョ
「流石にそれは看過できひんから」
「峰打ちくらいにしてもろて。」
ゲンブ
「心得た。」
アル
(心得られた。)
カンッ!
サイバンチョ
「――それでは、これより」
「七代皇帝エンペリラの法廷を、開廷します。」
アル
(・・・・セイカ様の木槌の音と一緒に、)
(とうとう、裁判が始まった。)
メディ
「確か最初は、検事側の"冒頭弁論"からでしたね。」
アル
「うん。刑事――役人さんが出てくるはず。」
「もしくは、証人や、被告人。」
メディ
「誰が出てくるかで、裁判の展開は決まりますね。」
ゲンブ
「検事側は、冒頭弁論の為に、証人を召喚する。」
ダンッ!
アル
(ゲ、ゲンブさんが、コーヒーをもったまま手で机を叩いた。)
メディ
「片手で叩くと、"ダンッ!"って鳴るのですね」
アル
(一体、誰を呼ぶつもりなんだ――)
ゲンブ
「――それでは」
アル
(知ってる人か、知らない人か)
(――一体。)
ゲンブ
「シノビビャッコ、証言台へ!」
ビャッコ
「かしこまりでござる!」
アル
「ビャッコさんが出るの!?」
メディ
「検事様の助手ではなかったのですか!?」
ツヅク