帝国歴1041年7月5日10時11分
摂政機関裁判所 第一法廷
アル
(――裁判が始まった、第一法廷。)
(検事席から、証言席に、ビャッコさんが移動した。)
サイバンチョ
「それでは証人。」
「名前と職業を。」
ビャッコ
「承知でござる!」
ビャッコ
「やぁやぁやぁ! 遠からん者は音に聞け!」
「近くば目にも、寄ってみよ!」
ビャッコ
「拙者こそ、大和国の姫であるセイリュウ様の忠臣!」
「【忍者】スキルの天才くノ一――」
ビャッコ
「〔忍ぶ思いはシノビビャッコ〕でござる!」
サイバンチョ
「貴方は当日、警備役としてあの場におった。」
「そして、エンリ様を緊急拘束したんやね?」
ビャッコ
「その通りでござる!」
サイバンチョ
「今更やけど、警備役は他には?」
「例えば・・・・、帝国側の人間とか。」
アル
(あ、それは俺も気になっていた。)
ビャッコ
「そもそも警備なんていらないと言い出したのは、皇帝殿でござるよ。」
「なるべく、ふたりっきりでいたい、と。」
アル
「えっ。」
メディ
「えっ。」
アル
(そ、そこまでシチュエーションにこだわっちゃったのか?)
ゲンブ
「しかし、セイリュウ様もそのことには、なんの異も申さず。」
「寧ろ、即答で了承しておった。」
アル
(互いの合意の上だったか。)
ビャッコ
「けれど! さすがにそれは拙者側からしたら認めがたく。」
「仕方なし、拙者とゲンブ殿のみが、警護にまわったでござる。」
ゲンブ
「其はふたりきりにさせてやりたかったが。」
ビャッコ
「いやいや、結果的に、セイリュウ様はエンリ殿に殺された!」
「それを防げなかったのは拙者の落ち度でござる!」
ビャッコ
「だが、その真相が闇に葬られたかもしれぬと考えれば」
「警備役は必要であった!」
異議あり!
アル
「え、エンリ様は、セイリュウ様を殺してません!」
「そもそも、まだセイリュウ様は、生きています!」
ビャッコ
「はん、助かろうかが助かるまいが、殺意があったのは間違い無し。」
「エンリ殿は大和の大敵でござろう。」
アル
「だからそれは――」
カンッ!
サイバンチョ
「弁護側も証人もおちついて。」
アル
「す、すみません。」
サイバンチョ
「ほな、証人にはとりあえず」
「事件の時のことを証言してもらおっか。」
ビャッコ
「かしこまり! で、ござる!」
アル
(ついに、始まる。)
(一応、エンリ様からも、何が起きたかは昨日の夜に聞いている。)
アル
(その、"エンリ様から聞いたこと"とズレがなければいいんだけど。)
(もし、そこに《違い》があるなら――)
[証言スタート!]
=事件の目撃証言=
ビャッコ
「拙者は昨日、ゲンブ殿と共に、」
「帝国劇場の警備をしていたでござる。」
ビャッコ
「ゲンブ殿は、劇場の外、入り口で待機。」
「拙者は、セイリュウ様から片時も離れぬつもりでござった。」
ビャッコ
「しかし、エンリ殿が、二階のVIPルームへ入る瞬間、」
「「セイリュウさんと二人きりにしてほしい」と言いおった。」
ビャッコ
「拙者はもちろん反対したが、セイリュウ様はそれを許されたでござる。」
「拙者はしぶしぶ、ふたりに茶を出した後、VIPルームの外、扉のそばに立っていた。」
ビャッコ
「――それから、しばらくの時間が過ぎたあと。」
「扉の向こうから、ゴッという鈍い音が!」
ビャッコ
「急ぎ部屋に入ってみれば! そこには、後頭部から血を流し、」
「椅子に座ったまま動かなくなったセイリュウ様!」
ビャッコ
「そして、血まみれの花の置物を手にもった!」
「エンペリラ殿が立っていたでござる!」
ビャッコ
「拙者は慌てて、エンペリラ殿を拘束!」
「外にいたゲンブ殿に連絡した後、会場の皆にそのことを伝えた!」
ビャッコ
「セイリュウ様は、エンペリラ殿によって、」
「撲殺されたのでござる!」
[証言ここまで]
アル
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
サイバンチョ
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
メディ
「ご、ご主人様?」
アル
「――違う。」
「エンリ様から聞いてた話と、全然違う~!?」
カンッ!
サイバンチョ
「えっと、証人。確認なんやけど――」
「証人はずっと、VIPルームの扉のそばにおったん?」
ビャッコ
「そうでござる!」
サイバンチョ
「その間、誰かを見かけたりは?」
ビャッコ
「誰も見てはござらん!」
「VIPルームの扉は、一度たりとも開かなかった!」
サイバンチョ
「となれば、状況的に考えたら、現場は密室。」
「エンリ君が、セイリュウちゃんを殺そうとしたのは確実やね。」
アル
「――い」
異議あり!
サイバンチョ
「どないしたん、アル君?」
アル
「たった今の、ビャッコさんの証言!」
「俺が昨日、エンリ様から聞いた話とは、全く違います!」
サイバンチョ
「違うって、何が?」
アル
「エンリ様は、ずっと部屋にいた訳じゃ無い。」
「セイリュウ様に振られたショックで、一度、部屋を出ています!」
サイバンチョ
「エンリ君が?」
ビャッコ
「振られた?」
アル
「――あっ」
ザワザワザワザワ・・・・
ボウチョウニン
「振られたって、婚約を解消した相手だろ?」
ボウチョウニン
「もしかして、それでもまた告白をしたってこと?」
ボウチョウニン
「それはちょっと、噂通りの"しつこさ"というか・・・・」
アル
(や、やばい、この裁判上で、言わなきゃいけなかったことかもしれないけど。)
(最悪のタイミングで、言ってしまったかもしれない!)
ビャッコ
「ニーンニンニンニン♪」
「一国の姫に、一国の王が、ストーカーのように粘着してた。」
ビャッコ
「そしてそのあげく、振られて玉砕!」
「これはもう、殺人の動機としても十分でござるな!」
メディ
「ご、ご主人様!」
「法廷の雰囲気が、まずいです、アウェイです!」
アル
「え、えっと、その!」
バンッ!
アル
「と、ともかく、今の証人の証言は、看破できません!」
「――尋問を」
異議ありっ
アル
「――えっ」
「ゲ、ゲンブさん?」
ゲンブ
「その尋問は、認められぬ。」
アル
「な、何を言ってるんですか!」
「尋問は、弁護側の当然の権利です!」
アル
「今の発言は、俺が昨日、エンリ様から」
「聞いた話と矛盾しています!」
ゲンブ
「そう、ゆえにだ。」
アル
「え?」
ゲンブ
「確かに貴殿は、エンリ殿の主張を聞いている。」
「其も既に、エンリ殿本人から、事情聴取をしている。」
ゲンブ
「しかし、裁判官も、傍聴人も、それを知らぬのではないか。」
アル
「・・・・あっ!」
ゲンブ
「今の状態で、この者に尋問しても、何も変わらぬ。」
「検事としては、新たな証人を要求する。」
アル
「あ、新たな証人?」
ゲンブ
「知れたこと。」
「容疑者、エンペリラ殿自身だ。」
アル
「――エンペリラ様を。」
ゲンブ
「互いの主張が違うというのなら、並べて比べる必要がある。」
「いかがか、裁判長殿?」
カンッ!
サイバンチョ
「検事側の要請を受諾します。」
ビャッコ
「ちょ、ちょっとゲンブ殿!」
「なぜ敵に塩を送るような真似をするでござるか!」
ゲンブ
「勘違いするな、其とて、エンリ殿の言葉を鵜呑みにはしておらぬ。」
「だからといってそれを語らせぬのは、公平な裁判とは言えぬではないか。」
ビャコ
「ぐ、ぐむむ~」
メディ
「ご主人様、これは。」
アル
「・・・・すくなくとも、ゲンブさんは、勝つためならなんでもするとか」
「そういうタイプじゃないみたいだ。」
メディ
「これが、武士道・・・・」
アル
(でも、こういうまっすぐ来る相手の方が、ゲームの中でも手強かった。)
(――油断するな、〔何も無しのアルテナッシ〕)
カンッ!
サイバンチョ
「それでは、ビャッコさんは、一旦そこから離れて。」
「入れ替わり、被告席のエンリ君、証言台へ。」
エンリ
「――は、はい。」
アル
(・・・・今までずっと黙って、被告席に座ったエンリ様が立ち上がった。)
(本当は、叫びたいのをずっと我慢してたのが、表情からわかる。)
メディ
「・・・・席に、立ちましたね。」
アル
「うん。」
サイバンチョ
「被告人、改めて名前と職業を。」
エンリ
「――〔皇帝であれエンペリラ〕」
「円卓帝国第七代皇帝です。」
サイバンチョ
「ほな被告人、話すことはわかってるね?」
サイバンチョ
「――VIPルームで起きたこと。」
「被告人の視点から、よろしゅうに。」
エンリ
「――はい。」
アル
(エンリ様、不安そうに震えている。)
(大丈夫――必ず守ってみせるから!)
ツヅク