帝国歴1041年7月5日
摂政機関裁判所 第一法廷
[証言スタート!]
=被告人エンリの主張=
エンリ
「・・・・確かに、僕が振られたのは本当です。」
「けど、だからって、セイリュウさんを殴ってません。」
エンリ
「振られたショックで、VIPルームから出て行きました。」
「中入りのタイミングです。」
エンリ
「そのまま、劇場の外に出て、ベンチに座ってました」
「辛くて、悲しくて。」
エンリ
「けど、暫くすると、男の人が話しかけてきて」
「「セイリュウ様が待っている」って、言われたんです。」
エンリ
「それで、VIPルームに戻ったんです。」
「けど、そしたら、セ、セイリュウさんが、頭から血を流してて。」
エンリ
「血染めになった花の置物を拾ったタイミングで」
「ビャッコさんが部屋に入ってきて・・・・」
エンリ
「・・・・そのまま僕は、捕まって、拘束されて」
「入れ替わり、入ってきたゲンブさんに連れて行かれました。」
[証言ここ迄]
ゲンブ
「検事側は、双方の意見を、ファイルにまとめている。」
「時系列も予測の範囲で併記した。証拠物として提出する。」
裁判記録にセーブした。
[ビャッコの証言]
20:00 落語会開始
21:20頃 殺人未遂事件発生
ビャッコはVIPルーム扉そばに待機
一度も扉は開けられなかった
ゲンブは劇場入り口外にて警備。
裁判記録にセーブした。
[エンリの証言]
20:00 落語会開始
20:40頃 中入りの時に退出、劇場外へ
21:10頃 謎の男に、部屋に戻るように言われる
21:20頃 部屋に戻ると、既にセイリュウは殴られていた
メディ
「ご主人様、これって。」
アル
「うん。」
「どう考えても、《矛盾》している。」
メディ
「こういう場合、どちらかが嘘を吐いている。」
メディ
「当然、私達弁護側からなら」
「ビャッコ様が嘘を吐いているということになりますね。」
アル
「・・・・そうなんだけど。」
メディ
「ご主人様、どうされました?」
アル
「いや、ビャッコさんの証言と照らし合わせると」
「エンリ様の証言にも、おかしな部分があるんだ。」
メディ
「エ、エンリ様の方に、ですか?」
アル
「うん、・・・・この矛盾を指摘したら」
「もしかしたら、エンリ様を不利にするかもしれない。」
アル
(でも、聞かない訳にもいかないよな)
サイバンチョ
「それでは、アル君、もとい弁護人。」
「尋問をお願いするねぇ。」
メディ
「尋問?」
アル
「矛盾した発言に、証拠物をつきしめすんだよ。」
「この携帯げーm、じゃ、じゃなくて、この《アレ》でRボタンで選んでね。」
アル
「それに、Lボタンで、気になった証言を」
「"よくきく"ことも出来るんだ。」
アル
「"よくきく"ことで、証言に変化があるかもしれない。」
メディ
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
メディ
「あ、相変わらず、その《アレ》のシステムはわかりませんが」
「ともかく、やっちゃいましょう!」
アル
(普通に弁護していたら、証言の中の矛盾。)
(それを、聞き逃す可能性もあるかもしれない。)
アル
(だけどスキルのおかげで、俺は証言を振り返ることができる!)
(時間を操作してるようなもの、そりゃ、SSSランクもうなずける。)
アル
(この【逆境裁判】スキルのおかげで、なんとか戦えそう。)
(証言の中の、矛盾を"つきしめす"ことができるのだから。)
アル
(さぁ、ここからが本番だ!)
(【逆境裁判】スキルで――)
アル
(この事件の、矛盾を暴いてやる!)
[尋問スタート!]
=被告人エンリの主張=
エンリ
「そのまま、劇場の外に出て、ベンチに座ってました」
「辛くて、悲しくて。」
つきしめす→[ビャッコの証言]
異議あり!
アル
「エンリ様は、一度、劇場の外へ出たのですね?」
「それは、どこから出ましたか?」
エンリ
「え?」
「ふ、普通に、劇場の入り口ですが。」
アル
「しかし、ビャッコさんの証言でハッキリしてます。」
「入り口の外には、ゲンブさんがいたと!」
エンリ
「あっ!」
アル
「ゲンブさん!」
「あなたは、エンリ様の姿を見ましたか!」
シュタッ!
ゴクゴクゴク・・・・
ゲンブ
「・・・・この黒もまた闇。」
「果たして、どれだけの影を孕んでいるか。」
アル
(・・・・また、どこからか飛んできたコーヒーを飲んでる)
ゲンブ
「劇場入り口は、落語会が始まったあとも」
「十か二十くらいは、人の行き来があった。」
ゲンブ
「しかし、エンリ殿の姿は見ておらぬ。」
アル
「エンリ様、お聞きの通り、この発言は矛盾しています。」
「どういうことか、説明していただけますか?」
エンリ
「・・・・ご、ごめんなさい、言い忘れてました。」
「【皇帝】スキルを使ったんです。」
アル
「【皇帝】スキル?」
「――もしかして。」
エンリ
「はい。」
「・・・・傍聴人の方々にも、見てもらったほうがいいですね。」
エンリ
「――〈
アル
(皇帝、エンペリラ様の姿が)
(みるみる内に、どこの誰だかわからない、少年になった!)
ザワザワザワザワ・・・・
ボウチョウニン
「え、今、証言席にいるのって皇帝陛下!?」
ボウチョウニン
「変装スキル!?」
ボウチョウニン
「いや、どちらかといえば、認識をズラす類いか。」
エンリ
「・・・・スキル解除。」
アル
(あ、元に戻った。)
エンリ
「傍聴席の言葉通り、このスキルは、認識をズラすものです。」
「ですから、ゲンブさんにも覚えがなかったものだと思います。」
メディ
「確かに、今朝の姿ですら、思い出すのに時間がかかりましたものね。」
アル
「でも、なんでわざわざ?」
エンリ
「騒ぎを起こしたくなかったからです。」
「・・・・皇帝がひとり、黄昏れていたら、パニックになりますから。」
アル
(なるほど、そういう理由か。)
ゲンブ
「――即ちそれは、弁護側の指摘が」
「なんの意味もなかった、ということであるな。」
アル
「え・・・・」
ゲンブ
「【皇帝】のそのスキルは、完全に他人になりきる。」
「すなわち、其がその姿を見たことは、何の証拠にもならぬ。」
ゲンブ
「貴殿は今の指摘で、其から、エンリ殿が入り口を通ったという」
「その発言を引き出したかったかもしれぬが――」
ダンッ!
ゲンブ
「結果は、無為!」
「検事側にとって、被告人エンペリラ殿は変わらずに!」
ゲンブ
「嘘を吐き、罪から逃れようとする!」
「其ら大和にとっての、大敵に相違なし!」
アル
「ぐはぁぁぁぁ!?」
メディ
「ご、ご主人様!? 何故そのような」
「ダメージを受けたかのようなリアクションを!?」
アル
(ゲ、ゲームみたいに、後ろの壁までふっとんでしまった。)
(ともかく、こ、これって、やばい!)
ザワザワザワザワ・・・・
ボウチョウニン
「エンリ様とビャッコ、どっちが嘘を吐いてるんだ?」
ボウチョウニン
「でも、そもそも、エンリ様には殺人動機があるんだよな。」
ボウチョウニン
「ビャッコは大和の姫の忠臣、殺す理由がないし・・・・」
アル
(ま、まずい。前世だったら、絶対的な証拠がない限り)
(有罪になることはない、と思う。)
アル
(けど、ここは異世界! 魔女裁判とかみたいに)
("疑わしきは罰する"が、通ってしまうかもしれない!)
ビャッコ
「ニーンニンニンニンニン!」
アル
(ひ、控え席の、ビャッコさん?)
ビャッコ
「これでわかったでござるか?」
「帝国の統治者である皇帝が、どれだけの大嘘つきか!」
ビャッコ
「ダンス中に、部屋から出て行った?」
「謎の男に言われて、部屋に戻った?」
ビャッコ
「挙げ句の果てに、部屋に戻ったら」
「既にセイリュウ様が、殴られ血を流していた!?」
ビャッコ
「そんなもの、全て嘘っぱちでござろう!」
「ニーンニンニンニンニン!」
異議あり!
ビャッコ
「ニニン?」
アル
「・・・・調子に乗りましたね、ビャッコさん。」
「今の言葉を引き出せたのなら――」
アル
「俺のこの時間も、無為じゃなかったことになる!」
ビャッコ
「――なっ」
「何を言ってるでござるか!?」
アル
「気づかないんですか?」
「今言ったことの、《矛盾》を。」
ビャッコ
「む、《矛盾》?」
ゲンブ
「・・・・そういうことか。」
メディ
「ご主人様!!」
アル
(ゲンブさんも、メディも、気づいたみたいだ。)
(なら、わかっていない本人に!)
アル
(証拠物を、つきしめしてやる!)
くらえ!
ビャッコ
「な、なんでござるか、それは!」
「落語会のチラシ!?」
アル
「これには、プログラムが書かれています。」
「時そば まんじゅうこわい 中入り 死に神 と。」
ビャッコ
「そ、それがどうしたでござるか。」
アル
「ビャッコさん、あなたは、扉のそばにずっといたと言ってましたね。」
「つまり、舞台は見ていない。」
アル
「それなら何故、中入りが、ダンスだったと知ってるんですか?」
ビャッコ
「――あっ。」
アル
「昨日、落語家のアカネさん本人が言ってました。」
「あの双子の出演は、急遽、決まったものだと。」
バンッ!
アル
「それならば、中入りがダンスだったのを知ってたのはおかしい!」
「これは明らかに矛盾しています!」
ビャッコ
「・・・・ニ」
「ニニンがシーン!?」
メディ
「ああ!? ビャッコ様まで、ダメージを受けたみたいに!?」
アル
「裁判長! 弁護側は、今の発言に、証言を求めます!」
サイバンチョ
「わかったんよ」
「ほな、ビャッコさん、証言席に。」
ビャッコ
「は、はいでござる・・・・。」
アル
(・・・・この態度、やっぱりおかしい。)
(もしかしてと思ってたけど、セイリュウさんを殺そうとした真犯人。)
アル
(この人、シノビビャッコがそうなのか!)
ツヅク