帝国歴1041年7月5日
摂政機関裁判所 第一法廷
サイバンチョ
「せやねぇ、アル君。」
「それを弁護側は立証できる?」
アル
「ビャッコさんが、ダンスショーを見た場所は――」
観客席
→ VIPルーム
舞台袖
くらえ!
アル
「ここ以外には有り得ない!」
サイバンチョ
「な、何を言うてるん、アル君、そこは!」
「まさに、セイリュウちゃんが殴り殺されようとした場所やないの!」
ビャッコ
「そ、そうでござる!」
「拙者は、VIPルームの扉のそばにいたと、何度言えば!」
アル
「・・・・それは、"エンリ様が嘘を言っていた"場合ですよね。」
ビャッコ
「――なっ。」
バンッ!
アル
「弁護側は、ここに告発します。」
「この事件の真犯人は、シノビビャッコさん、貴方です!」
ビャコ
「――ニ、ニニニ」
「ニニンガシシンデンシンソクマルゥ!?」
ザワザワザワザワ・・・・
カンッ!
サイバンチョ
「・・・・つまり、嘘をついていたのは証人の方やと。」
「それなら、どう言った流れでセイリュウちゃんを殺そうとしたん?」
メディ
「ご主人様、大丈夫ですか?」
アル
「うん。」
「順を追って考えていけば、簡単だと思う。」
バンッ!
アル
「落語会が始まる20時、二人にお茶を出した後」
「ビャッコさんは、部屋の外に出て、扉の横に待機します。」
アル
「20時40分、中入りのダンスショーのタイミングで、エンリ様が出て行く。」
「この時、ビャッコさんはエンリ様に見つからないようにしてたはずです。」
サイバンチョ
「それは、どうやって?」
アル
「【忍者】スキルを使ったか。単純に、開けた扉の裏に隠れたか。」
「ともかく、入れ替わりにビャッコさんは、部屋に侵入した。」
アル
「そして、部屋にあった、花の置物で殴った。」
「ダンスショーはこの時、VIPルームから見たのです。」
アル
「あとは、部屋の隅に隠れていて、エンリ様が戻ってくるのを待った。」
「衝立やカーテンなど、隠れる場所があるのは、現場検証でチェック済みです」
メディ
「も、戻ってくるのを?」
アル
「・・・・ビャッコさんは、エンリ様が部屋を出たのを」
「トイレ休憩だと思ってたんじゃないかな。」
アル
「エンリ様のお茶にだけ、利尿剤を仕込んでいたとか。」
ビャッコ
「ぎくぅ!?」
アル
(わ、わかりやすいリアクション。)
(チュートリアルの敵みたい。)
アル
「部屋に帰ってきたタイミングで、扉を開けた振りをする。」
「それで、殺人未遂の現行犯として、エンリ様を目撃出来る。」
メディ
「ですが実際は、エンリ様が、VIPルームから飛び出したのは」
「セイリュウ様に振られた、からでしたよね。」
アル
「そう、それが誤算だった。」
「いつまで経っても、VIPルームにエンリ様が戻ってこない。」
アル
「もしかしたらこの時、お茶が減ってないことに気づいたのかもしれない。」
アル
「トイレじゃないのに、部屋を出て行って戻ってこない。」
「もしかして、劇場の外に出てしまったのでは――」
アル
「だから、ビャッコさんは、変化の術で男の姿になって、劇場の外へ出た。」
「そして、外で黄昏れているエンリ様を見つけた。」
メディ
「なるほど、それなら!」
サイバンチョ
「いや、ちょっと待って、アル君」
アル
「え?」
サイバンチョ
「その時エンリ君は、スキルで認識をズラしてたはずやろ?」
「それがエンリ君なんて分かるわけないんちゃう?」
アル
「えっ。」
メディ
「あっ。」
アル
(ま、まずい、そのこと忘れてた!)
アル
「え、ええとそれは・・・・。」
「・・・・そ、そうだ!」
アル
「エンリ様は言ってました!」
「〈
メディ
「そ、そうです!」
「実際に、平和の守護者リーダーアンナ様も、看破されていました!」
アル
「それに壺算の時、ビャッコさんは一度」
「スキルを使ったエンリ様に会ってます!」
アル
「それならきっと、見破れるはずです!」
ビャッコ
「い、いやいや、いきなり何を言い出すのでござる!」
「そ、そんなの分かる訳がないでござろう!」
ゲンブ
「できるな。」
ビャッコ
「ゲンブ殿!?」
ゲンブ
「変わり身の名人は、見抜く名人でもある。」
「スキルなぞ使わなくとも、容易いことであろう。」
ビャッコ
「い、いやしかし――」
メディ
「――天才くノ一」
ビャッコ
「え?」
メディ
「・・・・さきほど、ビャッコ様はそうおっしゃってられました。」
「ならば、ゲンブ様の言うとおりなのでは?」
ビャッコ
「い、いやそれは~。」
メディ
「それとも――天才くノ一という証言。」
「それが、嘘だったと?」
ビャッコ
「嘘な訳があるかでござる~!?」
「この、大和一、否、世界一の天才くノ一!」
ビャッコ
「ちゃちな正体隠しスキルなぞ、簡単に見破れるでござる!」
ビャッコ
「――あっ。」
メディ
「以上です、裁判長様。」
サイバンチョ
「わ、わかったんよ。」
アル
(メディ凄い!?)
アル
「と、ともかく、男に変化したビャッコさんは、エンリ様に近づいた!」
「そして、セイリュウ様が戻ってきてほしいと言ってると、嘘を吐いた。」
アル
「そしてエンリ様が、VIPルームへ入ったあとに、自分も踏み込んだ。」
「殺害の容疑を、エンリ様に押しつける為に!」
バンッ!
アル
「これが、この事件の真相です!」
ビャッコ
「ニ、ニ、ニ」
「ニニンガシシンガハッパガジュウロクガニンニンヨンヨンニニニニニニニ!」
ビャコ
「ニン! ニン!」
「ドーーーーーーーーーーーーーーー!」
アル
(よし、この慌てよう! やっぱり、ビャッコさんが犯人だ!)
(動機はわからないけど、これならきっと追い詰められる――)
異議ありっ
アル
「!?」
メディ
「!?」
ゲンブ
「・・・・大変、興味深い推理ではある。」
「一応は、筋は通っておる。」
アル
「ゲ、ゲンブさん?」
ゲンブ
「しかし、それは不可能である。」
アル
「え?」
ゲンブ
「わからぬか? セイリュウ様とエンリ殿は、特別な客。」
「一般客と違い、チケットがいらぬ。」
アル
「――えっ。」
「そ、そうなのですか?」
ビャッコ
「そ、そうでござる当たり前でござる!」
「二人はまさにVIPなのでござるよ!」
ゲンブ
「しかし、【皇帝】スキルで一般客となり、劇場から出て」
「再び、一般客のまま、劇場に再入場するにはチケットが必須。」
ゲンブ
「――即ち」
シュタッ!
ゴクゴクゴクゴクゴク!
ぶはぁっ!
ゲンブ
「チケット無しのエンリ殿が、劇場へ再び戻るのは不可能!」
「劇場の出入りが無ければ、今の推理も成り立たぬ!」
ゲンブ
「これこそ、エンリ殿こそが嘘を吐く者たる証拠なり!」
アル
「ぎゃっ」
「ぎゃああああああああ!?」
アル
(ど、どこからか飛んできた熱々のコーヒーを!)
(一気飲みしたあと、思いっきり、矛盾をつっこんできたぁ!)
ゲンブ
「・・・・それとも弁護側は、この矛盾を説明できるのであろうか?」
アル
「そ、それは――」
アル
(だ、ダメだ、何も思いつかない。)
(チケットをもっていない陛下が、劇場に再入場する手段。)
アル
(そんなの、誰が知ってるんだ。)
メディ
「ご、ご主人様、しっかりしてください!」
アル
「え?」
メディ
「エンリ様が、再入場した方法。」
「それを知ってるのは、もちろん、エンリ様本人です!」
アル
「あっ!」
「ああぁぁぁぁ!?」
アル
(そ、そうだ、ものすごく単純じゃないか!)
アル
「ひ、控え席のエンリ様!」
「一体、どうやって劇場に――」
エンリ
「僕、僕、僕が・・・・本当は・・・・」
「自分にまで・・・・嘘を吐いて・・・・」
アル
「・・・・え?」
エンリ
「部屋で、ふたりっきりになったあと、プレゼントの箱、あけて・・・・」
「断られたから・・・・それで、殴った・・・・?」
エンリ
「――サ」
「・・・・サクラ、さん。」
バタン!
アル
(・・・・・・・・)
(エ、エンリ様が――)
アル
(ぶっ倒れたぁ~!?)
ツヅク