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8-13 何も無しのアルテナッシの覚悟

 帝国歴1041年7月5日

 摂政機関裁判所 第一法廷


 カンッ!


サイバンチョ

「・・・・エンリ君が倒れたことで、一時中断してた審理を再開します。」

「ゲンブさん、それで、被告人は?」


ゲンブ

「この法廷の控え室で、安静にされておられる。」

「まだ、目覚めてはおらぬがな。」


アル

(メ、メンタルがやば気だったけど、まさか、失神までするなんて。)

(そこまで心が追い詰められてたのか?)


アル

(それとも、ビャッコさんが忍術でも使ったとか・・・・)

(・・・・いや、なんの証拠もないことを言ってもしょうがない。)


 バンッ!


アル

「と、ともかく、エンリ様の回復を待つべきです。」

「そして、劇場へ再入場した方法を、本人から聞くべきです!」


サイバンチョ

「・・・・確かに、それは一見、正しいと思う。」

「せやけど、うちはそれに反対せざるをえないんよ。」


アル

「えっ。」


メディ

「な、なぜでございますか!」


サイバンチョ

「証人の、証言の信憑性よ。」


アル

「し、信憑性?」


サイバンチョ

「エンリ君が倒れるときの言葉、うちは聞いた。」

「あの子、まるっきり、自分自身すら信じられへんようになっていた。」


アル

「――あっ。」


サイバンチョ

「そんなふわふわした人を、証言台に立たせるのはどうかと思う。」


アル

「け、けどあれは、ビャッコさんが変なことを言うから!」


ビャッコ

「変なことではござらん!」

「正当な反論であった!」


アル

「――そんな」


ビャッコ

「裁判長の言うとおり、エンリ殿には最早、信頼に足る人物では無し!」

「セイリュウ様を殺したのは、エンリ殿でござる!」


アル

「いっ」


 異議あり!


アル

「ビャ、ビャッコさんにだって、そのチャンスはあった!」


ビャッコ

「はぁ~ん? それはエンリ殿が劇場に出入りしてた場合の話。」

「それが証明できてないのなら、意味が無し!」


アル

「そ、それは・・・・」


ビャッコ

「それに、繰り返し言っておるが、拙者には動機が無い!」

「この点から考えて、最早、議論の余地もなし!」


ビャッコ

「裁判長! 隣室の眠りこけてるエンリ殿が」

「起き上がるほど高らかに、判決を下すでござる!」


アル

「う、う、うう」


アル

「うおおおおおおおおお!?」


アル

(ダ、ダメなのか・・・・)

(【○○○○】を、【逆境裁判】って、スキルにしたのに。)


アル

(このまま、裁判が終わってしまうのか?)

(どう考えても、犯人は・・・・ビャッコさんなのに・・・・)


アル

(――エンリ様)


 異議ありッ


アル

「ッ!?」


メディ

「ッ!?」


ビャッコ

「ッ!?」


アル

「い、今の異議は――」

「裁判長ぉぉぉ!?」


サイバンチョ

「うちやで~。」


ビャッコ

「な、何をしてるでござるか、裁判長殿!?」

「異議は、べ、弁護士と検事、そして証人の権利でござろう!」


アル

(・・・・冷静に考えると、証人の権利ではないんだよな。)


サイバンチョ

「ええやん、この裁判事態、一日で全てを終わらせようとする」

「三国入り乱れた、無茶苦茶な裁判なんやし。」


アル

「セ、セイカ様。」


サイバンチョ

「さて、アル君。」

「君の依頼人は、自分自身すら信じられへんようなりました。」


アル

「え、あ、はい。」


サイバンチョ

「けれど、君は?」

「君本人は、エンリ君のこと、信じとる?」


アル

「・・・・!」


アル

(そうだ、俺の【逆境裁判】スキル。)

(解説欄にも、書いてあった。)


 【逆境裁判】スキル SSSランク Lv3

 スキル解説[どんな逆境でも依頼人を信じ抜く]


 バンッ!


アル

「・・・・ありがとうございます、裁判長。」

「依頼人が、自分自身すら信じられなくなった時――」


アル

「それでも信じるのが、弁護士の覚悟です!」


メディ

「――ご主人様。」


 異議ありっ

 シュタッ!

 ゴクゴクゴクゴク・・・・


アル

(ゲ、ゲンブさんが・・・・)

(また、コーヒーを飲んだ!)


ゲンブ

「・・・・そこまで友を信じるのであれば、貴殿が、代わりに証明するというのだな。」

「チケット無しのエンリ殿が、再入場した方法を。」


アル

「は、はい!」


ビャッコ

「ゲ、ゲンブ殿!」

「なぜ先ほどから、敵に塩を送るような真似を!」


ゲンブ

「・・・・其の敵は、セイリュウ様の敵である。」

「けして、ビャッコ、貴殿の敵ではないことを心得よ。」


ビャッコ

「ニ、ニニーン・・・・」


アル

(ゲンブさんは、最初から、真実を追究しようとしている。)

(俺も、その思いに応えないと。)


アル

(だけど、実際問題、どうやってだ?)

(謎の男、つまり、ビャッコさんからチケットを渡されたとか。)


アル

(・・・・いや、警備役のビャッコさんは)

(複数のチケットなんか、用意してないはず。)


アル

(そもそも、エンリ様が外に出ること自体が、想定外だったんだもの。)

(それなら、どうやって?)


メディ

「・・・・ご主人様、私、少し考えたのですが。」

「チケットがなくて、再入場出来ないのであれば」


メディ

「チケットを買って、入ればいいのではないでしょうか?」


アル

「え、いや、それは無理だよ。」

「だって、座席は全部埋まってて、チケットなんか売り切れだったはず。」


メディ

「ですが、ご主人様。あの時、劇場入り口には――」

「ダフ屋、つまり、転売ヤーがいました。」


アル

「あっ」

「あぁぁぁぁっ!」


 バンッ!


アル

「裁判長、転売ヤーです!」


サイバンチョ

「えっ。」

「それは死刑でええと思うけど。」


アル

「そ、そうじゃなくて、劇場入り口周辺には、転売ヤーがいたんです!」

「そいつから、チケットを買って入ったに違いありません!」


サイバンチョ

「なんやって!? 転売ヤーから、チケットを買った!?」

「そんな、転売ヤーを利用すること自体、許されへん大罪やのに・・・・」


アル

「そ、そこは、セイリュウ様に会うために仕方なく・・・・」

「ともかく、これなら矛盾しない――」


 異議ありニンニン!


アル

「ッ!?」


メディ

「ッ!?」


サイバンチョ

「ッ!?」


アル

「ビャ――」

「ビャッコさん!?」


ビャッコ

「て、転売ヤーから、チケットを買うこと。」

「それは、エンリ殿には不可能でござる!」


アル

「な、なんでですか!」


ビャッコ

「その時の、転売価格は、8000エンのところ16000エンでござる。」

「そのまま2倍、高額でござるな?」


アル

「え?」

「16000エン、高いけど、皇帝陛下ならそれくらい――」


メディ

「あ、あぁ!?」


アル

「え、ど、どうしたのメディ?」


メディ

「ご、ご主人様、皇帝陛下の月あたりのお小遣いは」

「15000エンです。」


アル

「あっ」

「あぁぁぁぁぁぁ!?」


アル

(そうだ、ダンジョンレースをやる前に、街で出会った時にそう言っていた!)

(16000エンに、1000エン足りない!)


ビャッコ

「わかったでござろう、これで、エンリ殿は劇場に入れない!」

「おっと、拙者が仮に、謎の男だとしても、これもまた不可能でござる!」


ビャッコ

「なぜなら拙者の昨日の所持金は、16000エンジャスト!」

「そうでござるな、ゲンブ殿!」


ゲンブ

「うむ。・・・・市井のものに、つまらぬ詐欺を働いたのを切っ掛けに」

「この街でのビャッコの金の管理は、全て其が行っておる。」


ビャッコ

「と、とととともかく! 拙者が万が一謎の男だとした場合」

「有り金はたいて、自分のチケットを買うのがせいいっぱい!」


ビャッコ

「足りぬ1000エンすら、エンリ殿に渡せぬでござるなぁ!」

「あっはっはっは!」


アル

「そ、そんな、それじゃ本当に無理じゃないか。」


メディ

「ですがご主人様――ビャッコ様のあの笑顔。」

「とても、余裕あるものではありません。」


アル

「・・・・確かに。」


ビャッコ

「あっはっはっはげふんげふんあっはっはっは!」


アル

(なんか、無理して笑っている感じがする。)


アル

「それに、冷静に考えたら、皇帝陛下のお小遣いが15000エン。」

「そして、転売価格が16000エン。」


アル

「いくら忍者だからって、それを知ってるのは変だ。」


メディ

「おそらく、ビャッコ様は、エンリ様がどうやってチケットを手に入れたか」

「その方法を目撃しているはずです。」


アル

「そうだよな、単純に値切ったとか・・・・」

「16000エンを、15000エンに・・・・」


アル

「――ん?」

「・・・・あ。」


アル

「ああああああぁぁぁぁ!?」


メディ

「ご、ご主人様!?」

「何かお気づきに!?」


 バン!


アル

「さ、裁判長、わかった、わかりました!」

「弁護側は、そのための証拠物を提示できます!」


ビャッコ

「な、なんでござるとぉ~!?」


 カンッ!


サイバンチョ

「よろしい、ほな、アル君」

「その証拠物を、提示してください」


アル

(エンリ様がチケットを手に入れた方法を示す証拠物。)

(それは――)


 くらえ!


サイバンチョ

「これは・・・・さっきも出たチラシ!」

「落語会のプログラムが書かれたチラシやん! これが一体?」


アル

「重要なのは、またまた演目です。」


サイバンチョ

「アル君、このプログラムのどれが関係あるん?」

「教えるんよ!」


アル

(このフライヤーに書かれている演目。)

(関係があるのは――)


  時そば

  まんじゅうこわい

  中入り

  死に神


 くらえ!






          ツヅク

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