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8-14 追究への前奏曲

サイバンチョ

「アル君、このプログラムのどれが関係あるん?」

「教えるんよ!」


アル

(このフライヤーに書かれている演目。)

(関係があるのは――)


→ 時そば

  まんじゅうこわい

  中入り

  死に神


 くらえ!


サイバンチョ

「時そば・・・・?」

「おそばが大和のパスタなんは知ってるけど・・・・」


アル

(セイカ様は、落語を観たことがないんだな。)

(・・・・それなら。)


アル

「メディ、今、15000エンもってる?」


メディ

「はい。」

「全て1000エン札で、しっかりと。」


アル

「裁判長、今から俺が、転売ヤー役をやります。」


メディ

「――私がエンリ様を演じます。」


サイバンチョ

「え、あ、うん。」


アル

「――そしてもうひとつ。」

「エンリ様が、謎の男に声をかけられたのは、21時10分。」


アル

「つまり、午後9時。」

「そのことを踏まえてください。」


サイバンチョ

「わ、わかったんよ。」


アル

「ではいきます。」

「・・・・チケットあるよ~、チケット~、16000エンだよ~。」


メディ

「すみません、1枚ください。」


アル

「はいよ~。」


メディ

「ごめんなさい。全部1000エン札で細かいので」

「一緒に数えてくれますか?」


アル

「は~い。」


メディ

「1、2、3、4、5、6、7、8――」

「今、何時ですか?」


アル

「へぇ、9時で。」


メディ

「10、11、12、13、14、15、16っと。」

「ありがとうございます、それじゃ。」


サイバンチョ

「――あれ?」

「い、15000エンで、16000エンのチケット買えとる。」


サイバンチョ

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


サイバンチョ

「ああっ!」


 バンッ!


アル

「そう! 1000エン札の8枚目を出す時に」

「"9"時という時間を聞く事で、その部分をごまかす!」


アル

「時そばで16モンの蕎麦を15モンで買うテクニック!」

「この方法で、エンリ様は再入場のためのチケットを手に入れた!」


アル

「あなたはそれを見てたから、エンリ様の小遣いが」

「15000エンなのも、転売価格が16000エンなのも知っていた!」


アル

「違いますか、ビャッコさん!」


ビャッコ

「――ニ、ニン、ニンニン」


ビャッコ

「ニンニンドーニイッチニーーー!?」


アル

(やった! 手応え有りだ!)


メディ

「たたみかけましょう、ご主人様!」


アル

「うん!」


 バンッ!


アル

「・・・・ビャッコさん、ありがとうございます。」


ビャッコ

「え?」


アル

「正直、ここまでの俺の裁判は、ほとんどが"ハッタリ"でした。」

「だけどそれ以上にあなたは、"ウッカリ"者です。」


ビャッコ

「ウ、ウッカリ!?」


アル

「今の、15000エンと16000エンの部分もそうですが。」

「致命的だったのは、"中入り"が"ダンス"だったのを知っていた発言。」


メディ

「そこから全ては崩れ始めました。」

「ビャッコ様、あなたは確かに、くノ一としては天才かもしれませんが。」


アル

「嘘を吐くのは、不得意のようですね。」


ビャッコ

「ニンニン!?」


メディ

「どうか、全てを白状してくださいませ!」


アル

「これ以上、ウッカリをしない為に!」


ビャッコ

「せ、拙者が、この天才くノ一シノビビャッコが、ウッカリ者!?」

「許せん、許せんでござる!?」


ゲンブ

「ビャッコよ、落ち着け」


ビャッコ

「落ち着いてられるかでござる~!」

「よりにもよって拙者がウッカリニンゾウなどと!」


ビャッコ

「むしろ拙者こそ、ハッタリニンゾウでござる!」


アル

(よし、何を言ってるかわからない!)

(こっちの安い挑発にのってくれている!)


メディ

「嘘は暴かれた時、また新たな嘘を呼ぶ!」

「そしてその矛盾を指摘すれば!」


アル

「必ず、真実にたどり着く!」


 バンッ!


アル

「さぁ、ビャッコさんが犯人じゃないというなら、証言をしてください!」


アル

「あなたが犯人じゃ無いという証拠を!」


ビャッコ

「せ、拙者は、けして、犯人ではなく・・・・!」

「あの時、あの時部屋から、追い出され、そ、そのあと・・・・」


ビャッコ

「せ、拙者、拙者はぁぁぁぁぁぁ!」


 落ち着け


アル

「ッ!?」


メディ

「ッ!?」


サイバンチョ

「ッ!?」


アル

(・・・・う、嘘だろ、落ち着けって、声が響いた途端。)


ビャッコ

「わかりました。」


アル

(ビャッコさんが、落ち着いてるぅッ!?)


ビャッコ

「取り乱して、すみませんでござる。」

「拙者が犯人でないこと、証言したいでござる。」


アル

「ちょ、ちょっと待ってください!」


ビャッコ

「どうかされましたか? で、ござる?」


アル

「い、いや、急に落ち着いたので、ビックリして・・・・。」


ゲンブ

「それの何が不服か?」


アル

「い、いや、ほら! 先ほど、"落ち着け"という声が」

「俺達にも聞こえました! 多分、傍聴席から。」


メディ

「ご主人様、それが何か?」


アル

「・・・・ほらだって、いただろ。」

「ビャッコさんみたいに、感情が急に変わった人。」


メディ

「・・・・あ。」

「突然、不安に襲われ、気絶されたエンリ様!?」


アル

「そうだ、確かあの時、傍聴席から――」


回想のボウチョウニン

「だったらもっと――迷えばいい。」


アル

(今考えると、どうにも不自然なセリフを言う人がいた!)


 バンッ!


アル

「裁判長! 今、傍聴席に、言葉で心を操るスキルの方がいる可能性があります!」

「この審議自体が操作される可能性があります、先にその方を見つけて退廷を!」


 異議ありっ

 ヒュッ


アル

(げ、ゲンブさんが異議ありをして、コーヒーを受け取って。)


ゲンブ

「ふんっ!」


アル

(それを飲まずに、俺に向かって投げてきたぁ!?)


アル

「あ、危なっ、わ、わぁっ!」


メディ

「ご、ご主人様、ナイスキャッチです!」


ゲンブ

「少年よ、貴殿も、それを飲み落ち着くが良い。」

「――お主の言うとおり、ビャッコはうっかり者の粗忽者。」


ビャッコ

「・・・・そんなことは、無いでござる。」


メディ

「あ・・・・ちょっと今、ビャッコ様のこめかみがひくつきました。」


アル

「やっぱりスキルで、無理矢理心を落ち着かされているっぽい。」


ゲンブ

「確かに、ビャッコがスキルにより、心を操られている可能性はある。」

「だが、それがどうした?」


アル

「え?」


ゲンブ

「裁判で必要なのは、けして、証人のうっかりなのではない。」

「"真実"を追究する為の、自分自身の"覚悟"である。」


アル

「・・・・!」


ゲンブ

「其が、主君を信じるように、貴殿が、友を信じるのであれば――」

「誰が相手であろうと、迷いは無いはず。」


ゲンブ

「寧ろ、この状況こそが、好機ではあるまいか?」

「心が水面のように静かな者からこそ、正しき真実は引き出せる。」


アル

「ゲ、ゲンブさん」


ゲンブ

「そのコーヒーを見よ、黒を見よ。」

「その深淵こそが、何色にも染まらない、正義の象徴。」


ゲンブ

「・・・・貴殿に、その正義を肚の内に納められるか。」

「答えられよ。」


ゲンブ

「――〔何も無しのアルテナッシ〕」


アル

「・・・・」


 ゴクゴクゴクゴクゴク!

 ダンッ!


アル

「・・・・ごちそうさまでした、ゲンブさん。」


ゲンブ

「・・・・うむ。」


ビャッコ

「ゲ、ゲンブ殿、塩を送るどころか、コーヒーブレイクを送るような真似を・・・・。」


ゲンブ

「・・・・貴殿に味方する者、今は問わぬ。」

「今はただ、公正に裁かれよ。」


ゲンブ

「その気なければ、斬る。」


ビャッコ

「――ひいっ。」


 カンッ!


サイバンチョ

「・・・・ほなら、これが最後の証言。」

「そして、尋問になります。」


サイバンチョ

「"シノビビャッコは無罪である"」


サインバンカン

「証人の証言を求めます!」


ビャッコ

「――は、はい。」


アル

(裁判長の言うとおり、これがラストチャンス。)

(友達のために、神様がくれた【逆境裁判】スキルで――)


アル

(全てを明かすんだ、この瞬間に!)


[証言スタート!]

 =シノビビャッコは無罪である=


ビャッコ

「拙者が無実なのは、明白でござる。」


ビャッコ

「何度も言ってるでござるが、拙者には動機が無い。」


ビャッコ

「凶器の花の置物の指紋は、エンリ殿のものがひとつ。」


ビャッコ

「動機も無ければ証拠も無い。」

「そんな拙者が、犯人な訳が無いでござる。」


[証言ここ迄]


サイバンチョ

「ふむ。」

「なんの問題も無い、理路整然とした証言やね。」


メディ

「ご、ご主人様、矛盾は見当たりますか?」


アル

「――何も無いよ」


メディ

「そんな・・・・」


アル

「でも、つけいる隙はあると思う。」


メディ

「え?」


アル

「・・・・仮に、この裁判所に、心を操るスキルの持ち主がいたとする。」

「でも、その人に出来ることは、心そのものじゃなくて、感情を操るくらいな気がする。」


メディ

「それは、そうでございますね。」

「もし心まで操れるなら、エンリ様に、嘘の証言をさせればいいのですから。」


アル

(それに、そのスキルも完璧じゃないっぽい。)

(ビャッコさんのこめかみは、ずっとひくついている。)


バンッ!


アル

(一見完璧なこの証言も、ゆさぶればきっとボロを出す!)

(――覚悟を決めろ、〔何も無しのアルテナッシ〕)


アル

(これが俺の、最後の尋問だ!)






          ツヅク

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