帝国歴1041年7月5日
摂政機関裁判所 被告人第一控え室
メディ
「やりました、ご主人様、大勝利です!」
「私・・・・隣で感動しっぱなしでした!」
メディ
「これが、【逆境裁判】スキル・・・・!」
「まさに、逆境を跳ね返しましたね・・・・!」
アル
「あ、ありがとう・・・・」
メディ
「・・・・ご主人様、どうされました?」
アル
「いや、喜んでくれるのは嬉しいんだけどさ。」
「このスキル、本当に、ハッタリと勢いだけだよね。」
メディ
「え、あ、ま、まぁそうですね・・・・。」
アル
「冷静に考えると、最後も、ちゃんとした証拠だった訳じゃない。」
「"サクラの置物"の主張を押し通されてたら、負けていた。」
アル
「ビャッコさんは自滅しただけ。」
「あそこまでのうっかり者じゃなかったら、どうなっていたか。」
アル
(単純に、俺がこのスキルを使いこなせていない。)
(ゲームの主人公は、もっともっとかっこよかったし。)
アル
(今日の俺みたいに、ただ、勢いとハッタリだけじゃない。)
(真実のために、依頼人を信じ抜いて――)
アル
(・・・・また遊びたくなってきたな。)
メディ
「・・・・スキルの力での勝利、それは確かです。」
「その、ご主人様、普段とは明らかに言動や性格も違いましたし。」
アル
(半ば、ゲームのキャラになりきってたもんな。)
メディ
「それでも、この勝利はご主人様がエンリ様を信じたからこそです。」
「そこだけは、スキルとは関係無い、ご主人様の心の強さがもたらしたものです。」
アル
「・・・・そっか。」
「だったら、このスキルの使い方で、あってたんだろうな。」
ゲンブ
「――少年よ。」
アル
「えっ、ああっ!?」
メディ
「ヤギュウゲンブ様!」
アル
「あ、あの!」
「ありがとうございました!」
アル
「今日の裁判、ゲンブさんに何度も助けられました。」
「ゲンブさんがいなかったら――」
ゲンブ
「――刀」
アル
「え・・・・?」
ゲンブ
「貴殿の刀、その従者より授かった物と言っておったな。」
「抜け。」
アル
「こ、この場所でですか!?」
ゲンブ
「うむ。」
アル
(い、いいのかな、法廷の控え室みたいな場所で。)
(・・・・まぁでも、えいっ!)
――スラッ
ゲンブ
「・・・・ふむ。」
「手入れは怠っておらぬようだな。」
メディ
「は、はい。帝国でも、刀を扱う店が一件だけあるもので。」
アル
「そこでメディと一緒に、メンテナンスの仕方を習って――」
ゲンブ
「――銘は霊犀」
アル
(えっ。)
(・・・・な、なんで俺の刀の名前を知ってるんだ?)
アル
(それとも、見るだけで解るものなのか?)
メディ
「ど、どこでその名を。」
「これは私が、メイド長から預かった・・・・。」
メディ
「もしやゲンブ様は、メイド長のことを知って――」
ゲンブ
「・・・・それを語るのは、今日のように、言葉ではなく」
「刃を交わしてになろう。」
アル
「――ゲンブさん。」
ゲンブ
「それでは、其は失礼する。」
「セイリュウ様が、意識を取り戻したらしいのでな。」
メディ
「えっ。」
アル
「えええええ!?」
「ほ、本当ですか!?」
ゲンブ
「うむ。」
「殴られた前後ののことはまったく覚えておらぬらしいが、命に別状は無い。」
ゲンブ
「セイリュウ様に、そのような不意打ちを食らわす。」
「ビャッコのような手練れでなければ、不可能であろうな。」
アル
「そ、そうですか。」
「ともかく、助かったなら、よかったぁ・・・・。」
メディ
「・・・・そういえば、ビャッコ様は、どうなるのですか?」
「理由はハッキリしてませんが、皇帝陛下を咎人にしようとした、その罪は?」
ゲンブ
「・・・・我等が主君、セイリュウ様が裁くことになるであろう。」
アル
「え? ・・・・そ、それは。」
ゲンブ
「貴殿、否、帝国の者達はこう言うであろうな。」
「"我等の皇帝を貶めようとしたのなら、皇帝が裁くべきだ"と。」
アル
「まぁ、はい。」
ゲンブ
「理解を望む訳ではないが、申しておく。」
「ビャッコが受ける罰は、過酷なものになろう。」
ゲンブ
「エンリ殿が裁くよりもな。」
メディ
「・・・・国の主に手をあげたのですものね。」
ゲンブ
「――そういうことではない」
アル
「・・・・え?」
ゲンブ
「・・・・語らいが過ぎた。」
「少年よ。」
アル
「は、はい。」
ゲンブ
「先ほどもうした通り、次は、果たし合いを望む。」
「その日まで、けしてその刀を――否」
ゲンブ
「"友"を信じることを、忘れるな。」
アル
「あ・・・・」
「は、はい!」
ゲンブ
「それでは、失礼する。」
メディ
「・・・・行ってしまわれました。」
「最初から最後まで、頼りになる方でしたね。」
アル
「うん・・・・。」
アル
(厳しそうかにみえて、ずっと、優しい人だった。)
(・・・・前世の俺に、家族は母さんしかいなかったけど。)
アル
(おじいちゃんがいたら、あんな感じなのかな。)
ヴァイス
「うおおおおおおおおおおおお!」
「アルテナッシィィィィィィィィィィィィィ!」
アル
「うわ!?」
メディ
「ヴァ、ヴァイス様!?」
ヴァイス
「い、今の私は、庶民の癖に生意気だというダメな気持ちと!」
「それを上回るお前への感謝に、心が暴れているぅぅぅ!」
エンリ
「ヴァ、ヴァイス、ちょっと落ち着いて!」
「ユガタ、【静寂】スキル!」
アル
「エ、エンリ様!」
「あと、ユガタさん!」
メディ
「え、もしかして、ヴァイス様とユガタ様」
「傍聴席におられたのですか?」
エンリ
「そうだったみたいです。」
「ヴァイスも、久しぶりにフルアーマーを脱いで。」
アル
「え、ええ!? フルアーマーを、脱いだ!?」
メディ
「キャストオフなんて、そんなレアな姿が傍聴席に!?」
エンリ
「あまり見せる姿ではありませんからね。」
「それより、改めて今回はありがとうございました!」
エンリ
「それで、お礼に食事をご一緒したいのですが。」
「もちろん僕は、ヘーカの休日を使いますので!」
アル
「え、でも、エンリ様。」
「その、セイリュウ様が――」
メディ
「・・・・セイリュウ様が、命を取り留めた由、お聞きになってはいませんか?」
アル
「行かなくて、いいんですか?」
エンリ
「・・・・・・・・」
「今日は、会えない、とのことです。」
アル
「・・・・そう、ですか。」
エンリ
「いえ、次に会う時は、僕は帝国の皇帝として。」
「そして"セイリュウさん"は、大和の姫として、です。」
エンリ
「今、会ってしまったら、またセイリュウさんを、困らせてしまいそうです。」
アル
「・・・・エンリ様。」
エンリ
「・・・・かわいそうだと思うなら、つきあってください。」
アル
「え?」
エンリ
「だから、ごはんです!」
「振られた友達を慰める、それも、友達の役目でしょう?」
メディ
「あ、はい、そうです!」
エンリ
「それでは早速行きましょう!」
「劇場近くに、大和名物ミソラーメンの特別出店があるんです!」
アル
「あ、はい、でもヴァイスさんとユガタさんは!?」
メディ
「ユガタさんに羽交い締めにされたヴァイスさん!」
「すごく、私達を睨んできています!」
エンリ
「いいから行きましょう!」
「あ、お金は僕が出しますから!」
アル
「あれ、でも、転売ヤーからチケット買ったせいで」
「お小遣いはすっからかんになってるんじゃ?」
エンリ
「あっ」
メディ
「・・・・転売ヤーから購入したせいで、他の経済がまわらなくなる」
「売る方が1番悪いですが、やはり、買う方も悪いですね」
エンリ
「うう、ご、ごめんなさい」
メディ
「今回は、劇場内に戻るためでしたから、しかたありません。」
「お金は私が出させていただきます。」
エンリ
「あ、ありがとうございます!」
メディ
「いえ、これくらい、友達なら当たり前のことです。」
エンリ
「――はい!」
アル
「それじゃ行こう、エンリ様。」
「案内、よろしく!」
エンリ
「はい!」
アル
(――こうして)
(俺の最初で最後の、裁判は終わった。)
アル
(【○○○○】を埋める言葉が、まさかのゲームのタイトル。)
(だけどそれは、この世界の友達を救うスキルに、力になってくれた。)
アル
(何もかもが解決した訳じゃない。)
(エンリ様の恋心は、叶わないまま。)
アル
(ビャッコさんが、何故、こんなことをしでかしたかもハッキリしていない。)
(それでも俺は、エンリ様の――14歳の友達の笑顔を見た時)
アル
(スライムを倒して、《アルズハート》が埋まらなくても)
(心があたたかくなるのを、感じていた。)
オワリ