――裁判から一週間後、7月12日の朝
「「ごちそうさまでした」」
朝食を食べ終えた俺とメディは、相変わらず、この世界には無いはずの習慣、手を合わせての食事への感謝を行っていた。
「やっぱり、メディの作る
「ありがとうございます、喜んでいただけて嬉しく思います」
そう、美味しい。
味わいに不慣れだった俺の舌は、メディの料理のおかげで、食べることの幸せについて目覚め始めていた。目を閉じれば、先週、エンリ様と食べたミソラーメンの味に、また焦がれるくらいには、"食に対しての興味"がうまれてくる。
(WeTubeのショート動画で、料理の動画を見た時は、何も感じなかったけど)
……当たり前だけど、"
ともかく、メディの料理に感謝しながら立ち上がり、皿を洗い場へ持って行く。魔法の力で水道も完備なキッチン、けどいきなり水で流さず、
それを終えて、俺が再び椅子に座ったタイミングで、お茶の準備に取りかかりながらメディが尋ねてくる。
「ところで、スキルの方はいかがですか?」
「今朝確認したけど、まだ準備中みたい」
【逆境裁判】スキルを使い終わって一週間、まだ、新しい
ただ説明欄のところに、こんな風なメッセージが書かれていて――
【××】スキル -ランク Lv3
スキル解説[レベルアップの為の試験を準備中]
「確か前回は、穴埋め問題だったとか」
「うん、……出来れば変な
だけどこれを乗り越えたら、レベルは4になる。今まではなんだかんだで、お題の中に【○餅】とか【ぬ○○】とか、他の文字が混ざっていたけど――今度こそそれが無くなるかもしれない。
(なんとなくだけど、そんな予感はしている)
……けれどもし、失敗したらどうなるんだろう?
心が強くなってないって判断されて、現状維持、もしくは、レベルダウンとかもあるのだろうか。
そんな不安に包まれて、暗い気持ちになっていると、
「大丈夫です、ご主人様」
そう言ってメディは、俺の傍に立って、紅茶を入れて、
そして、ポットを机においてから、俺に対して、
――メディはいつも
「私が必ず、傍にいます」
そう、笑って言ってくれる。
「――ありがとう、メディ」
ああ、この言葉と、この笑顔で、いつも俺は救われる。
――メディが一緒にいる限り
俺の心は、いつだって暖かい火が灯る、そう、
この
思ったその瞬間、
――メディが、目の前から消えた
「……え?」
突然の消失に驚いたが、次の瞬間、
「――ふぁはっはっは」
外から――大きなベランダの入り口の外から、
「ふぁーはっはっはっは!」
休日の朝に全く相応しくない、無駄に威厳があってゴージャスな笑い声が聞こえてきた!?
「こ、この声、まさか!」
俺は慌てて、机の上で湯気立つ紅茶も無視して立ち上がり、慌ててベランダの入り口を開けてベランダへ出て行き、そして、仰ぎ見る。
――黄金に輝く、巨大なドラゴンが翼をはためかせていて
その頭の上に、仁王立ちで立つのは、
「し、
タートリルゾートで出会ったエルフの王様が、性別自在、〔狭間に立つエルフリダ〕様が、今は男の姿で、
――メディを無理矢理捕まえた状態で
「なんでメイド姿なんですか!?」
メディと全く同じ、メイド姿で立っていた。
「え、なになに、あのでっかいリムジンドラゴン!?」
「ああ、あの頭の上にいる薄緑髪とんがり耳ってエルフリダ様!?」
「なんでメイド姿なんだよ!?」
当然だけどものすごく注目の的、ご近所の声が大騒ぎ、けれど俺はそれを気にするより、いきなり、こんな無茶苦茶を働いたエルフリダ様に叫ぶ。
「な、何をしてるんですか、メディを、さ、さらうなんて!」
「さらってはおらん、カバンの【収納】スキル「〈スル
「それをさらうって言うんです!」
エルフリダ様のお付きの
「お、お離しくださいませエルフリダ様!」
メディは当然、嫌がってる! いくらエルフリダ様が王様でも、こんなこと許されていい訳が無い!
「ははは! 離せと言われて離すものかよ俺様が! ははは、あ、痛い、痛い痛い! スネを、スネを蹴るのをやめぬか痛い痛い痛い痛ぁい!」
……ものすごくメディ、しつこくローキックをかましてる。鞭のようなしなりでスネを蹴りまくってる。
「確かに貴方様は尊きお方、しかし、私のご主人様はアルテナッシ様のみです! 力で私を拐かすなど!」
「痛い痛い王の足が折れる! ここまで的確な打撃を、誰に指南されたのだ!」
「ボンバ・リー様――ともかく、お離しくださいませ!」
あ、だんだんとエルフリダ様の体勢が崩れ始めた、これ、本当に抜け出せそう?
そう思っていた俺だけど、エルフリダ様は、額に脂汗をにじませながら、
こう言った。
「メイドの里から追放されたとは、虚偽!」
その言葉は、
「実際は逃げ出したのであろう、〔癒やし手のメディクメディ〕!」
……その、エルフリダ様の言葉は、
「……え?」
俺はもちろん、ご近所さん達、そして、
メディ本人の時を、止めた。
「……な、何を言って」
「ふむ、しらばっくれようてか? それならば、子細を全て俺様からぶちまけても」
「おやめくださいませ!」
……え、メ、メディ、
なんでそんな、震えて、
「わ、解りました、エルフリダ様、このままさらわれます、だからどうか……」
「――そ、そんな、メディ! 何を言って!」
「……お、お許しください、ご主人様、私は」
メディが、俺から顔をそらす、そして、
「なぁに、アルテナッシ、このメイドは一時借りるだけのことよ、……とは言っても」
そこでエルフリダ様は――男から女に性別を変えて、メイド姿のままにメディに顔を寄せて、
「女の心変わりは恐ろしいものだからなぁ! わぁーはっはっは!」
そう堂々と、
黄金の巨大なドラゴンの背にのって、そのまま、飛び去っていった。
「え、なになに、今のどういうこと!?」
「〔何でも有りのアルテナッシ〕の
「なんだこの脳みそパーン展開!?」
周囲が騒ぎ立てる中で、俺は呆然と立ち尽くす。
だけど、そんな俺に、
「――アルテナッシ様」
後ろから、声をかける人がいて、振り返ればそこには、
「ヨ、ヨジゲンカバンさん」
エルフリダ様に仕える青年メイド、メディをエルフリダ様の元へ運んだ【収納】スキルの持ち主、カバンさんが立っていた。
正直、怒りなんか浮かばない。それよりも、疑問ばかりがあふれ出す。
「なんで、こんな事を?」
「――暴君にして名君、やり方は問題はありますが、これもまた民の為」
民の為?
何か目的があって、メディをさらった?
「エルフリダ様は、森の民はもちろん、この大陸に住まう万民の為」
カバンさんは、美しくも低い声で、美しくも凜々しいまなざしと共に、
俺に、告げた。
「天下一メイド会で優勝されるつもりなのです」
「天下一メイド会!?」
言われても全く意味がわからなかった。