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8-end 主従を越えて

 ――メディがいなくなった俺達の下宿に


「君のメイド従者、メディクメディが!」

「天下一メイド会へ参加する為、森王様にさらわれた!?」


 騒ぎを聞きつけた、アンナさんとフィアがやって来て、


「「天下一メイド会って何!?」」


 と、カバンさんからその言葉を聞いた、俺と全く同じ反応を示した。


「アンナさんとフィアは、ドワモフ族のことを知ってるよね」


 だから俺は、下宿から去って行った、カバンさんがしてくれた説明を、二人にも始めた。


「ドワモフ族、大陸一の鍛冶技術をもつ種族よね」

「〔暴れ知性のアシモチャン〕も、世話になっていると聞いている」


 そう、ドワモフ族、俺の前世の知識からだと、ドワーフとモフモフ獣人が合体したかのような種族だ。

 書物の絵でしか見たことがないけれど、見た目も背丈も子供っぽい、耳も瞳もおっきくて、体全体が青を基調とした毛並みにもっふりと包まれている獣人。体はちっちゃいけど力持ちだし、それでいて、肉球もある手先はとっても器用だとか。


「そのドワモフ族の首長である〔文化は遊びのワクモフサン〕が、スライムに乗っ取られたらしいんです」

「なっ」

「ええ!?」


 ――スライムは心の隙間に入り込む


「そ、それは一大事じゃないか!」

「技術をもったドワモフ族が、殺意なんかもたされたら大変なことになるわよお兄ちゃん!」


 うん、それが普通の考え、

 だけど今回はちょっと違って、


「いやそれが、どうも、何もしてないみたいなんだよ」

「え?」

「……スライムに乗っ取られてから、働き者のドワモフ族全体が、サボり魔ニートになったとか」

「え、え?」

「それで、余りにもサボりたすぎて、身の回りの世話をするメイドを募集する為に天下一メイド会を開くとか」

「えええ~!?」


 うん、フィアも頭の上のチビも、まるで意味がわからんぞ!? みたいな顔をしている。正直、俺もそう思う。


「そ、それは本当に乗っ取られてるのか?」

「殺意に満たされず、怠惰に満たされる、そんなことあるのかな……」


 そこらあたりは、俺も疑問だ。

 ――スライムに乗っ取られた上でその憎悪に侵されない

 そんなの、よほど精神力が高いか、まともじゃないかな気がする。

 多分、何か理由はあると思うんだけど……。


「ともかく今は、ドワモフ族の集落には、メイドしか入ることが出来ないらしいんだ、だから」

「――だから、メイドになる必要がある、と」

「うん、そして、ドワモフ族のリーダーさんは、今、完全に引きこもり状態で、優勝したメイドさんしか、部屋にいれないって言っている」


 ……その言葉に、

 アンナさんは、少し考えた後、


「天下一メイド会で優勝すれば、ドワモフ族の族長、ワクモフサンのメイドとして近づける――そこからスライムをワクモフサンから追い出す、という手はずか」

「はい、カバンさんはそう言ってました」


 ――そしてそれがエルフリダ様の目的であるならば

 メディをわざわざ、スカウトしに来たのも、少しはうなずける。メディなら余裕で優勝出来そうだから。

 ……ただその思惑の中にはきっと、"俺からメディを奪う"という目的も、きっと含まれている。


「……アルテナッシ、お前は、主人としてメディ取り返しにいかなければならんな」

「そ、そうよ、まぁ一応お兄ちゃんは、あいつのご主人様な訳だし」

「ピキャー」


 そう、アンナさんとフィア、それにチビは言ったけど、


「――無理だよ」


 と、俺は言った。


「……さっきも言ったとおり、今のドワモフ族の里、クリスタルケイプ水晶の大洞窟には、天下一メイド会の参加者、つまり、メイドしか入れないんだ」

「――そう、だけど」


 フィアの言葉が続かないように。これは決定事項、どうしようもない壁。

 俺はこのままじゃ、助けに行くことすら出来ない。

 メディのご主人様のままじゃ、そもそも、会いに行くことも出来ない。

 それはつまり、エルフリダ様のあの言葉の意味、

 ――メイドの里から追放されたとは、虚偽!

 ……それを確かめるのも、出来ないことを意味する。


「――本当に、あきらめるつもりか」

「そ、そうよ、お兄ちゃん、そんなの、お兄ちゃんお人好しらしくないっていうか」


 アンナさんもフィアも、俺にそう言ってくる。


「……ご主人様じゃ、無理なんだ」


 だから、俺は、

 ――待つのじゃなくて望む

 力を、スキルを、

 ――友達に会いに行く為の試練を

 そう心から、願った、いや、

 強請ねだった時、

 ――テロピロリン♪

 ……スキルに何かしらの変化があった、通知音がした。

 俺はカッと目を見開いて、ステータス欄を開き、スキルのメニューを展開する。

 浮かぶお題は、


 【○○○】


(……ありがとう、セイラ様)


 スキルはただ与えられるだけじゃ足りない、欲しいと強く願うこと、

 そして試験の内容も確認して、俺は、


「――そうか」


 それを見て、

 俺は、笑いながら言った。


「尻王の尻を取る」


 ――俺の言葉に


「え?」「えっ?」「ピキャッ?」

「それがレベルアップの条件なんだね」

「え?」「えっ?」「ピキャッ?」


 疑問はてなを浮かべる二人と一匹の前で、俺は、


 【○○○】


 俺の望む、スキルを当てはめる。

 ――その瞬間


「うおっ!? ア、アルテナッシ!?」

「お兄ちゃんの体、光に包まれて……!?」


 目映い閃光の中で、俺は考える。

 いつもメディは、こんな俺のそばに、ずっといてくれた。俺はそのことに、ずっと甘えていた。

 ――それだけじゃダメだ

 そばにいることを、どこかで当たり前だと思っていた。こんな簡単に、引き裂かれる関係だなんて、今更知った。そんなこと、エンリ様とセイリュウ様の話からも、わかっていたことのはずなのに。

 だからって、嘆かない。前世の俺みたいに、あきらめない。

 ――これは誰かメディの為じゃない

 俺自身が、したいからすること。

 エルフリダ様に、メディを、

 奪われたくない。


「――待っていてくれ、メディ」


 ――だから俺はご主人様じゃなくて、今


「尻王の尻を取って」


 彼女の友達として、天下一メイド会で優勝、

 否、

 彼女を取り戻す為に、


「――メイド王に、俺はなる!」


 スキルを決めた。


「ア、アルテナッシが!?」

メイド黒髪ロングになったぁ!?」

「ピキャー!?」


 ――湧き上がる二人と一匹の声に

 かっこよく決めたつもりの俺だったけど、直後、凄まじい羞恥心に襲われて、真っ赤な顔で机の下に隠れるのだった。

 だけど今回の試練は、ただメイドになるだけじゃなくて――




 【メイド】スキル Aランク レベル3

 スキル解説[ご奉仕するニャンご主人様♡]

 試練内容[しりとり]

 次のお題→【ド○○】


 アルズハート

 [【笑顔】【賞賛】【真実】【未来】【○○】【○○】【○○】]

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