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第6話:事件解決とカクテル

「一体どういう事ですか!?」


 エビルの部屋を出た後、翡翠色の瞳フローレンスが問い詰めてきた。今どういう体勢かというと、船内の廊下で、フローレンスに壁に追い込まれている。彼女は手を私の顔の横に置いて、逃げ場を作らないようにしている。


「……気になる?」

「勿論ですっ!」

 お互いに見つめ合う状態が数秒続く。


 ……良いことを思いついた。軽く提案してみる。

「……フローレンス、探偵やってみないか? そうすれば事件がどうなっていたのか分かる」


 名付けて「ホームズをフローレンスにしちゃおう作戦」

 私は王国軍情報部が怖いので、目立ちたくはない。そこでフローレンスに解決させる。もしフローレンスが事件を解決したら、私の名前が出る可能性は低い。それに本人が事件について気になっているのだから、好都合だ。

 ちなみに、彼女本人の反応というと……

「はい?」

 首を傾げていた。

「よし……取り敢えず、今日のディナーまでには解決させよう」

 詳しい説明は後にして、取り敢えず証拠を集めよう。

——

 確固たる証拠を見つけるため、エビルの部屋を掃除した清掃員に話を聞いてみることにした。

「最近無くなったもの?……清掃道具を置いてある部屋から洗剤と消毒液が消えたことかしら」

「そうなんですか?」

「ええ、アンモニアを使った洗剤と、オキシドールだったはずだわ」

——

「金庫のインゴットですか?」

 エビルの荷物を運んだというバトラーにも話を聞いてみる。

「初日に運んで以来、一切触っていません」

「ちなみにエビル氏の部屋で違和感を感じたことはありますか?」

「違和感……そういえば、ある時、エビル氏の部屋から腐卵臭が臭ったことがありますな」

「腐卵臭?」

「ええ文字通り、卵が腐ったような匂いです。エビル氏にお尋ねした所『私は何も知らない』と仰っていました」

「なるほど……ありがとうございます」

——

 数時間の後、私は今回の事件の関係者をエビルの部屋に集めた。

「お集まり頂いたのは、他でもありません。エビル殿の盗難事件について私の助手、フローレンスがこの事件を解決致しします」

「え?」

 フローレンスが目を丸くする。

「は?」

 添乗員が首をかしげる。

「この小娘がか?」

 エビルは訝しげな表情を浮かべる。

「ええ、そうです」


 そう答えた後、フローレンスに耳打ちされた。

「……本当にやるんですね?」

「大丈夫、私がヒントをあげるから。君の頭脳ならきっと解決できる」

「……わかりました」

 少々納得の行かない顔だったが、無事にやってくれそうだ。


「それでは、まずはこの事件のおさらいです。フローレンス、覚えていますか?」

 フローレンスの方を見る。彼女は一度ため息をついてから、事件の概要を説明し始める。


「……まず、今朝エビル氏は部屋の金庫から、銀の延べ棒が消えていることを発見しました。前日の寝る前——つまり深夜にはあったとのことなので、盗まれたのは昨夜の深夜から朝にかけての時間帯でしょう」


「他の貴重品は盗まれていません。トランクに運ばせていました。そこに一本だけ銀が残っていたり、金の延べ棒や宝石、陶器とかもありましたね」


「ここで、この事件のキーを説明します。ずばり、そのキーとは——」


——フローレンスは事前に言われたことを思い出す。

「この後、『この事件のキーとなるのは』と言ってから、この紙に書かれていることを読み上げて下さい」

 教授の言葉通り、その紙こっそり見てから言葉を発する。


「『何も盗まれていない』ということです」


 (? どういうこと?)

 内心、フローレンスは混乱していた。紙にはそれしか書いていない。

「馬鹿な!実際に銀は無くなっているんだぞ!?」


 さすがに言葉足らずだったか。……仕方ない多少フォローしてあげよう。

「落ち着いて下さい、エビル氏。……フローレンス、君がこの金庫を見た時に何か違和感はあったかい?」

 少し考え込んでから、フローレンスは答える。

「……そうですね、ということでしょうか」

「そっ、それはだな……この船の警備システムが信頼できないからだ」

 エビルは少し動揺しながら答える。

「ならば最初から全て持ち歩けばよいのではないのですか?」

 すかさず質問をするフローレンス。

「えーと……そ、それはだな……」

  口ごもるエビル。



「……取り敢えず、そこまでしておこうかフローレンス。——さて皆さん、一度ここで休憩を挟みませんか?きっとエビル氏は大切な銀が無くなったショックで、少々混乱されているのでしょう」

 そうすると見事にエビルはそれに乗っかった。

「あ、ああそうだ、少し休憩させてくれ」


「では、しばし休憩としましょうか。しかし、ただ休憩をするのは面白くない」


 私は船の添乗員にお願いして、天秤を持ってきてもらう。

「私が手品でもしてみせましょう」

「ほう?」

 眉をひそめるウェール氏。もしかしたら、私の意図にいち早く気づいたのかもしれない。

「ミスター・エビル、貴方の金の延べ棒と銀の延べ棒を借りても? 傷つけたりはしませんので」

「……構わん」

 トランクから金の延べ棒と銀の延べ棒を持ち上げる。手にかかる重さに笑いそうになる。

「ありがとうございます。……フローレンス、金と銀の密度は知っているか?」

「はい、金はおよそ19.32 g/cm³、銀はおよそ10.49 g/cm³です」

「……小数点以下まで丁寧に、ありがとう」

 何でこの人正確な数字まで覚えているんだろう。ちょっとフローレンスの知識量が恐ろしくなってきたぞ。

「ではフローレンス、この延べ棒はどちらも体積が25cm³であるとしよう。そうすると重くなる方はどちらだろうか?」


「簡単です。金の方が密度が高いので、金の方が重くなります。金の重さは483グラム——だいたい、その金の延べ棒と同じくらいの重さで、銀の延べ棒は262.25グラムと220.75グラムの差が出ます。」

 え、今の一瞬で暗算したの?私はただ「金の方が重くなる」と言って欲しいだけだったのだけども。

「……そ、そうだ。つまりこの秤に乗せると、金の方に傾くはず。では実際にやってみよう」

 私はそっと、天秤に2つの延べ棒を乗せる。

「……あ!おい!やめろ!」

 何かに気づいたエビルは全力で止めようと立ち上がるが既に遅かった。



 天秤は金の方に傾く——ことはなく、

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