先ほども言った通り、両親を亡くした母はそのまま長老派閥の親たちに引き取られました。
そして魔法使いが通う学校に通う事になったらしいのですが、その学校では入校したさい、一人一本杖を貰うそうなのです。
その杖はその後の人生で使って行く最初の一本目なのですが。壊れない限りそれを使い続けるルールなのです。
……因みに私も持っています……まあ使い方が乱暴だったのかすぐに壊れて実費で買い足しましたが。
そしてその杖が問題でした。
後で判明したことですが、母は魔法の才能だけ言えばトップクラスだったと言われています。
しかし、貰った杖との相性が良くなかったのか、常に成績は下から数えた方が良い……つまり落ちこぼれだったそうです。
そして、元々人付き合いが下手な母の事もあって、魔法の練習でも一人で行っていたそうです。
……逆にそれによってあの悲劇が起きてしまったと考えると……少しかわいそうな気もしますね。
さて、ここからが本題です。
母はいつものようにルーネンハイムの薬草や魔法の本を探していたそうです。
そこにちょうど、ルーネンハイムに到着し、薬草や治療薬を買い足し、魔法使いのパーティーメンバーを探していたファスコ様が通りかかったそうなのです。
母もファスコ様に誘われたそうなのですが、当時のファスコ様はトラヴィス様と二人だけでほとんど実績もないパーティーだったらしく、そんなパーティーに参加しても死ぬ危険があるだけだと判断し、断ったそうです。
ですが……ファスコ様が持っていた英雄の剣と母の杖が偶然にも反応してしまったらしいのです。
どうやら母の持っていた杖というのは英雄の杖であり、英雄の剣が接触して初めて力を得るそうなのです。
……まあこの時の母はまだ知らなかったようですが。
そして夕方になると母はいつも通り人気のない森の中で魔法の練習を始めたのですが……先ほども言った通り、ファスコ様との接触で本来の実力を出せるようになったことを知らない母はいつも通りに練習で魔法を全力で行使しました。
……その結果、特大の火の魔法が上空に飛んでいき、結界を破壊してしまったのです。
母は愕然としてしまったそうです。
今まで呪文を唱えても魔法が使えなったのにいきなり魔法を撃てたのですから。
自分には才能がない……魔法使いはやめようとまで思っていた矢先に特大の魔法ですから。当時の母にはかなりの自信になった事でしょう。
ですが……母は知りませんでした。撃った魔法によって結界が破壊され、そしてそれがルーネンハイムにどのような影響を及ぼすのか。
約十分後、母は上空には撃つことなく、簡単な魔法を行使できるようになったことで笑顔になりながら家路に急ぎました。
しかし、ルーネンハイムの大通りに近づいた時、異変を感じ取ったそうです。
いつもなら酒場から大勢の笑い声が響いてくるはずが、聞こえてくるのは男女の悲鳴だけ。しかも燃えている家々も見えている。
母は家の角に身を潜めて観察したそうです。
焼けた木の匂いが鼻を突き、遠くからは子供の泣き声、そして冒険者らしき男性の悲鳴。その瞬間、母は悟ったらしいです。自分が何をしてしまったのか。
自分が結界を破った事により魔王の軍勢が襲撃を開始したことを。
母は怖くなったと言います。すぐそばで魔法使いや冒険者の悲鳴が響いたり亡骸を見るたび、自分しでかしたことの大きさに気づき、最終的には逃げ出してしまったと。
そして先ほどの自分が練習をしていた場所に戻って来ると、隠れられる場所を探していたそうです。
しかしそこに……ファスコ様が現れたようなのです。
どうやらファスコ様は一度中央市場に来たにも関わらず何もせずに帰った母を見て何かを感じたそうなのです。
そして母から事の顛末を聞いたファスコ様は母にとある提案をしました。
『お前のやったことを黙っててやる。というか、現状お前がやったことを知ってる人間は俺たちだけだろ?見てた人間は居ない、なら黙っててやるから俺たちと共にまずはルーネンハイムの魔族を片付けるのを手伝え、、そして一緒にもう討伐に参加しろ』
誰が見ても脅迫でした。
しかし、母には選択肢はありませんでした。
それに方々から悲鳴と亡骸を見るに、他の冒険者のほとんどやられてしまったはずなのに、この二人は負傷すらしていない……もしかしてこの二人は只の冒険者ではないのではないか?
そう思った母はファスコ様の提案に乗り、まずはルーネンハイムの魔族を討伐し始めました。
今まで杖を持っているのに実力の半分も出せなった母ですが、何故か急に魔法を撃てるようになった母は自身を持ってファスコ様と共に無事魔族を撃退出来たそうです。
そして……約束通り、ルーネンハイムの悲劇の原因となった事を黙ることを条件に魔王討伐に参加することになったのです。
これが私が母から聞いたルーネンハイムで起きた全てです。
最後に母はこう言っていました。
『私はルーネンハイムで取り返しのつかないことをしてしまった。偶々ファスコについて行って英雄と崇められたけど、私はそんな存在では無いの。この事実だけは私が墓場まで持っていこうとしたんだけど、娘だけには本当の事を話します。これを知ってどうするかはあなた次第よ』
……これが私の知る母についての全てです。
「……」
「……」
言葉にできなかった。
まさか、ルーネンハイムの悲劇と呼ばれたあの襲撃の原因である結界の崩壊が……まさか杖の英雄であるフィオラ本人によって起こされたとは。
しかも聞いた話によると、その後、ルーネンハイムはウィートンのようにほぼ壊滅状態になり魔王城に進軍できる冒険者もルーネンハイムを守るための魔法使いも居なくなってしまったと聞いている。
つまりあの時、本来ならルーネンハイムは魔王軍によって占領されており、魔法使いがいない状態で王国は戦う必要があった可能性があったかもしないということだ。
だがファスコ国王は戦力状況を気にすることなく、フィオラをパーティーメンバーにし、魔王城に進軍した。幸か不幸か、その進軍で魔王城が陥落、魔王の首を取った事により戦争は終結。
ルーネンハイムは魔王軍の占領状態になることは無く、終戦を迎えられたのだ。
確かに何も知らないルーネンハイムの民からすれば、絶望的な状況で強行とも言える進軍をし見事魔王の首を打ち取ったファスコ一行は英雄と呼ぶにふさわしいだろう。
だが……フィオラからすれば、、自分のせいでルーネンハイムを危険にさらし、誰にも知られないままそのまま運よく英雄となってしまった……英雄と呼ばれることに違和感、罪悪感を抱くのは当然だ。
「はは……そんなことが……彼女が姿を隠すのも当然だ。自分が悲劇を招いたのに運よく英雄になってしまったんだからね。周りから英雄と呼ばれて罪悪感が凄かったんだろうね」
「はい、母もそう言ってました。調子者の母だったそうですから英雄と呼ばれて気持ちよくなっていたそうですが、次第に罪悪感でおかしくなり……最終的に姿を消したそうです。どこで私を生んだとか父親については教えてくれませんでしたが……最後にこの事実を娘である私に託して……消えました。今はもうどこにいるかさえ分かりません」
「そうか」
「……ミラフェスさん?」
「え?ああ、安心してくれ。さすがに事実の内容的にね……編纂するかはもう少し考えてみるよ。ただ君の名前は絶対に出さないことは約束する。話してくれて……本当にありがとう」
「はい、お役に立てて良かったです」
「……じゃあ私がこれで失礼するよ」
そう言うと私はフィーの部屋を後にした。
正直に言おう、私はこの話を記録に加える気は今の所ない。
あくまで今回の調査の旅はディオの依頼による調査であり、教会の調査ではない。
教会の調査ならフィーの名前を伏せて編纂するが、今回の調査でディオが知りたいのはファスコ国王のまだ知られていない魔法討伐の核心部分……どうやって魔王を討伐したのかなのだ。
つまりルーネンハイムの悲劇の原因など必要ないのだ。
……だが、もしこの先、必要にはなるかもしれないので、一応今日の取材の文章は残しておこう。
さて……次はついにシャナディアの森である。
まだ話が聞けると分かっているわけでは無いが、それでも聞ければ確実に誰も知らない事実が判明するだろう。
そのために今日は早く寝よう。
私ははやる気持ちを抑えつつ早めに就寝した。