目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第24話 ロリとバスケットボールの試合観戦

 メイドさんを交えた、木乃花ちゃんとの同居生活は随分と賑やかなものだった。


 同居生活が始まって二週間が経った頃、俺たちは裕也のバスケットボールの試合の応援に来ていた。


「あわわ、たくさん人がいます」


 かなり大きい体育館に、複数の学校が集まっていた。それぞれの学校に応援する人たちが集まっているので、体育館の人口密度はとんでもないことになっている。


「それにしても暑いな…」


 俺は服の首元を掴んで、中に空気が入るように扇ぐ。少しだけひんやりとして冷たい。

 熱気が体育館をとんでもない暑さにしていて、汗が止まらない。まだ涼しい時期だと言うのに、真夏みたいだ。


「身体を冷やすものなら色々ありますよ」


 木乃花ちゃんは、湿らせたタオルを首に巻いて、小型扇風機を手に持っている。


「あっ、裕也だ」


 俺は体育館の二階から裕也を見つける。裕也はバスケットボールをタンタンと地面につきながら、軽く動き回っている。まだ試合は始まっていないようだ。


「バスケットボールは学校で少ししかしたことないです⋯。ですが、ルールは事前に調べておきました!」


 と、木乃花ちゃんが自信満々な顔で言う。かわいい。


 木乃花ちゃんはメモ帳を取り出すと、ルールを図を使って分かりやすくまとめているページを開いた。


「すご! これを全部一人で?」


「はい! でもそんなに難しくないですよ」


「それを書くこと自体がすごいんだよ。誰にも出来ることじゃないもん」


「そうでしょうか…」


「木乃花ちゃんのそういう、何事にも全力なところがすごく素敵だと俺は思うよ」


「ほ、ほんとですか? ありがとうございます」


 木乃花ちゃんは少しだけ照れている。


「あっ、試合が始まるっぽいよ。高校一年生だけの試合もあるみたいだから、裕也のプレーが見れるはず」


 そう言いつつ、俺は木乃花ちゃんと出会ってから変わったなと思った。昔の自分だったら、面倒くさいという理由でこんな試合を見に来るわけがなかったし、バスケットボールに興味すら持っていないだろう。でも、木乃花ちゃんの子供らしい好奇心が、俺の心を揺さぶったのかもしれない。


「結城さん! 戸越さんがボールを取りました!」


 木乃花ちゃんが目を輝かせながら試合を解説してくれる。

 この世界には楽しいことがたくさんとあると俺に気付かせてくれたのは、他の誰でもない、木乃花ちゃんだ。


「ああ、惜しい…」


 裕也がぎりぎりゴールを外した。

 木乃花ちゃんは些細なことでも一喜一憂している。その純情さが木乃花ちゃんのかわいいところなんだよな、としみじみ思う。


 と、そこで相手もゴールを外した。相手のゴール前に人が少ない今がチャンスだ。裕也もすかさず走り出して、ボールを受け取る。


「がんばれー!!!」


 と、木乃花ちゃんが叫ぶ。木乃花ちゃんの大きな声を聞くのは初めてだったのでビックリしつつも、俺も応援しなきゃという気持ちになる。


「行け!!裕也!!」


 大きな声を出すと気持ちが晴れるような気がした。何というか、気持ちがいい。


 裕也は綺麗にジャンプをし、レイアップシュートを決めた。


「「やったー!!!」」


 木乃花ちゃんと二人で喜ぶ。いや、周りの人たちと一緒に喜んだ。たくさんの人が応援しているんだ。


 その後も順調に試合は進み、裕也たちのチームは見事に勝利した。


「裕也、お疲れ!」


 休憩時間中に裕也に会いに、俺たちは二階から降りて来た。裕也は片手に大きな水筒を持っている。


「おお、来てくれてたんだ。俺が点入れるとこちゃんと見たか?」


「もちろんです! レイアップシュートとスリーポイントシュートを決めてましたよね!」


 俺の代わりに木乃花ちゃんが答える。


「そうそう! どうだった?」


「かっこよかったです! いつか私も出来るようになりたいです!」


 木乃花ちゃんはやけに好奇心旺盛だ。

 運動の出来る木乃花ちゃん。体操服を着て、ジャンプシュートをする。動き回ったことで汗を流していて、それが光にいい感じに反射して輝いて見えるのだろう。うん。悪くない。


「ねぇ、その子だれ?」


 と、他のバスケ部の男子が話しかける。その子、とはつまり木乃花のことである。


「…俺の妹みたいなものだよ」


 ビジネス仲間というのも気まずいし、大金持ちのお嬢様だとも勝手に言えるわけがない。だから、一番丸く収まりそうな答えをしたわけだが…。


「葵お兄ちゃんの妹の木乃花です」


 木乃花ちゃんが俺の発言にわざとらしく乗ってきた。この前、あんなに言いたくないと言っていた「葵お兄ちゃん」を目の前でさらっと言われたことは少し残念だが。


「そうなんだ。初めまして〜」


 と二人で話している横で、裕也が俺を軽蔑するような目で見てくる。


「何だ裕也、その目は」


「えぇ…」


 俺が言わせたわけじゃないからな、という否定をしたいが、バスケ部の奴に妹という嘘の設定がバレかねないのでグッと抑え込む。


 その時。


「危ない!!」


 という声が聞こえたかと思えば、視界の端に黒い影が近付いて来た。


「えっ」


 次の瞬間、バスケットボールが俺の頭に思いっ切りぶつかって、鈍い衝撃によって頭がぐわんと大きく揺れ、目がチカチカとし、意識が朦朧とする。そして、俺はそのまま床に倒れてしまった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?