「せっかくだ、試し斬りと行こう」
リューファスは名刀タリアエルバを振り上げ、一気に踏み込む。剣筋が閃光のように走り、最前列の魔獣が二体、音もなく地面に倒れた。
想像以上の切れ味に、思わず会心の笑みを浮かべる。
「行くよディー!」
「ええ、ダム。任せて」
双子の槍術士は息の合った動きで前進し、茨の棘を纏った槍を魔獣の肉体に突き立てる。茨は瞬く間に生き物のように絡みつき、敵の動きを封じていく。
ディーは僅かに後方に下がり、姉のダムを援護するように茨の壁を築いた。
そこへ、甲高い声を上げた大鴉が空から奇襲をかけてくる。
ダムとディーの双子姉妹は、烈風と鉤爪、
悲鳴が上がる中、兎人の娘マルシャは矢を番えた弓を引き絞り、大鴉を狙う。
「――兎人の矢を受けよ、
放たれた矢は音を立てて空を切り裂き、羽根に突き刺さると炸裂する。
大きな羽根が何枚も千切れて、消し飛んだ。放たれた音波が咆哮を打ち消し、体勢を崩す。
しかし、なお大鴉は羽ばたき、受けた攻撃を振り払うように空中へ舞い上がろうとした。
「『虚弾射手』っ!」
そこにメッツァが構成した魔弾が次々に着弾する。
周囲にいた雑魚を貫きながら、的確に大鴉の飛行を阻害。
呼応して、ダムとディーの双子姉妹がなんとか持ち直し、茨で大鴉を縛り上げた。
隙を見逃さず、リューファスが一気に駆け上がる。
「援護、感謝するぞっ!」
リューファスの剣が閃光のように輝き、大鴉の胴体に直撃。その一撃で、両断された大鴉は霧の中へと消え去った。
だが、まだ戦いは終わっていないと、一息つくこともなく、そのまま軍勢に突撃していく。
兎人の娘マルシャは、次なる矢を番えながらつぶやいた。
「ヒュドラの鱗で蘇りし剣。軍勢を草のように薙ぎ払う、か」
それは名刀タリアエルバに纏わる古いおとぎ話。兎人族のとある英雄譚。
「まるで、兄さんみたい」
マルシャはリューファスの活躍に、まだ会えぬ探し人の姿を重ね合わせていた。
一方、メッツァは戦局を俯瞰する。
昨日の戦いよりも、かなり彼は余裕があった。一つは、仲間を識別登録する術式を虚数演算宝珠に組み込めたこと。
もう一つの理由は、マフェットから与えられた『魔獣の魔布』を羽織ることで、防護に必要な恒常術式が効率化されたことだった。
『魔獣の魔布』は軽く丈夫なだけではなく、魔力を有する生きた布として活用することが出来た。
(――これはいい。空気の操作や揚力制御がしやすい。比較的、少ない推力で機動力に変えられる)
はたから見れば、メッツァは重力を無視して飛び上がり、滑空しているように見えた。
魔術の射線を通すうえで、高さの概念が得られることは、敵から狙われやすくなるデメリットを差し引いても、明らかに有益だった。
時折、飛んでくる矢弾や魔術を、確率改変や風壁を混合させた『矢避け』によって逸らし、高度差を生かして爆撃と援護射撃を展開する。
「『爆炎の槍』を連鎖展開、『爆域飽尽』」
空気中の元素を組み合わせ、エチレンとプロピレンを合成。この混合ガスはほぼ無色無臭、かつ、高い燃焼熱と爆発範囲を持つ。
味方を巻き込まない位置を焼き尽くすには、術の配置に気を配らねばならない。とは言っても、霧が立ち込めるほど、空気が淀んだ空間には、比較的自由に展開しやすかった。
敵に気づかれることもなく広げ、そこに虚数空間内で合成した爆薬と、燃え滾る金属核を上乗せして撃ちだし点火する。
「連鎖展開完了――爆域、起動」
メッツァの冷静な声が戦場に響いた刹那、魔獣たちの中で閃光と爆発が連鎖的に広がる。
空気中にばら撒かれたエチレンガスと魔力が一体化し、火柱が敵陣を呑み込んだ。咆哮と悲鳴が混ざり合い、黒煙が霧と交じり合って視界をさらに不明瞭にする。
先日やり合った騎士団の
旧時代的な対魔装甲でも、一丸となって運用されると、突破に貫通性や規模を要求される。
今まで戦った相手の中で、一番、数は多いが、同時に烏合の衆でしかないのだろう。
わずかな戦闘経験の中で、メッツァは確かに成長していた。
そこに、アラクネのマフェットが、空白となった敵地の中央に優雅な足取りで歩み出る。
装飾の多いドレスをはためかせて、堂々と舞台に躍り出るように注目を集める。
背中の蜘蛛の足が鋭くしなり、鎌のように振り下ろされるたび、敵は無残に切り裂かれていく。
「これが
冷ややかに微笑む。
その動きには無駄がなく、敵を翻弄しながら着実に数を減らしていった。
そこに一太刀浴びせてきたのは、
灰色の甲冑を纏うが、隙間から邪気から漏れ出している。顔をフードで覆い隠しており、表情を読むことは出来ないが、強烈な威圧感が伝わってくる。
「あらぁ、ダンスのお誘いならもっと情緒を持ってしてくださる? 『
それぞれの手に曲刀を握りこむと、連続して斬撃を放ってくるのを、蜘蛛足を使って弾いていくマフェット。
呪力が練りこまれた刃は、猛毒となり得るだろうが、傷すら負わなければ脅威ではない。太刀捌きの甘さを突いて受け流す。
鋼と蜘蛛足が幾度となくぶつかり合い、火花が散った。