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事件の終了と新たな出会い

 アルベドの町に帰ると、ケント達は人々から不審な目で見られた。かの有名な勇者が連れているのは面倒な性格で知られる妖精、町を襲って来たモンスターであるゴブリンに、不吉な黒い目隠しをした修道女である。事情を聞きたいが、下手な事を言って機嫌を損ねられても困るといった様子だった。


「俺も町に入って大丈夫なんですか?」


 ゴブリンのジャレッドが不安そうにしている。


「大丈夫大丈夫、ケントが事情を説明するから」


 平然としているコレット。だが、アイリスは居心地が悪そうだ。


「どうしたの?」


 やはり町にはあまり良い印象がないのかと、ケントは気にして尋ねた。


「いえ、ちょっと気になる事がありまして」


 ケントはアイリスを気遣っているが、その彼女は町に蔓延はびこる不安の芽を気にしていた。


「……盗賊でしょうか? あまり良くない人達が町にいるようです」


 こっそりとケントに耳打ちする。


(確かに。モンスター退治でお世話になったけど、あくまで盗賊は悪党だからなぁ)


 ケントが盗賊を懲らしめないのには、貴重な情報源というだけではない理由がある。Aランクが対応するのはモンスター被害であって、人間同士の犯罪対処はBランクの冒険者や町の警備兵等の役目だからである。


 モンスターの関わる可能性がある行方不明事件などは調査するが、基本的に勇者が犯罪捜査を行うのは越権行為となり、冒険者達の食い扶持を減らしてしまい恨まれる原因になる。下手をすると冒険者ギルドを敵に回しかねないのだ。


 そういった人間社会の機微も世俗から離れた修道院で育ったアイリスにはわからない部分だった。


(今度、社会の仕組みとかも教えないと)




 今回は特に依頼を受けていないので、情報をくれた白馬亭に報告した。行方不明者の事、ゴブリンの内紛、アイリスの助力……話を聞いたタリアは、要点をまとめて役所に提出するレポートを作ってくれた。さらにケントの仲間達についての情報もギルドの情報網を通じて国内に広め、旅先でトラブルになる危険性を減らすように取計とりはからってくれた。


「恐ろしいゴブリンの王を退治して、こんな大事件を解決してくれた勇者様の一行には出来る限りの恩返しをしなくてはいけませんから」


 タリアは役所への説明もやるので今日は宿でゆっくり休んで欲しいと言ってきた。ケント達もありがたく厚意に甘える事にしたのだった。


「アイリスって、身の回りの事も自分で出来るの?」


 コレットが聞く。魂が見えるというが、それだけで普通の生活が送れるだろうか?


「大丈夫ですよ。空気の流れや魔力の波動などを肌で感じて、魂のない物の位置や形なんかも分かります。さすがに文字は読めませんが」


 それを聞いてケントも安心した。連れてきたはいいが、妙齢の女性の身の回りの世話は小さいコレットには出来ないし男の自分がするわけにもいかない。内心一番不安に感じていた事だった。


 夜、ケントがいつものように剣の練習を始めると声を掛けられた。


「そうやって繰り返し剣を振ると強くなれるんですか?」


 ジャレッドである。強くなる方法を学びに来たのだった。


「うん、繰り返しやると身体が自然に動くようになっていくんだ。ギルベルトさんから教わった事を教えてあげるね」


 二人は剣を手に語り合いながら動きの鍛練を続ける。


「二人なら、頭で思い浮かべるだけじゃなく実際に攻撃と防御の立場をお互いに練習出来るんじゃないかな?」


「ですが、勢い余って斬ってしまうかも知れませんよ?」


 二人で協力すれば、より高度な練習が出来る。その方法について意見を出しあった。とりあえず二人での役割練習は木の棒で行う事にした。


 その頃、アイリスもコレットに魔法の成長について教わっていた。


「魔法の威力が上がるというのは、どうすれば良いのでしょう?」


「それはねー……」


 四人の鍛練は夜遅くまで続いたのだった。




 次の日、この町からモンスターの危険は減ったという事で次の町へ旅立つ準備を始めた。


「一度ブルート港へ行ってみよう」


 ブルート港は南の島々から人や物が集まる場所だ。何かがあるかもしれない。


 しばらく買い物をしていると、何やら西の門が騒がしいのに気付いた。


「何かあったのかな?」


 四人で現場に向かい、人だかりの中に入るとそこには見慣れない生き物がいた。


 二本足で立ち、身長は2メートル弱。厚い脂肪に覆われた肉体の肌は緑色。胸の膨らみから雌だと分かるが、首から上は豚を思わせる造形をしている。


 オークの女性である。オークはゴブリンと同じく、モンスターに分類されているが独自の文化を持ち社会的な生活を行っている種族だ。


 そもそもモンスターという分類自体、あまりにも大雑把であり、人間にとって種族として友好的ではないという程度の意味しかない。このオークも個体としては敵意を見せていないため、兵士が対応に苦慮しているのである。


「なんていいオンナだ!」


 思わず大きな声を出すジャレッド。目が輝き、口元はだらしなく歪んでいる。しかも息が荒い。


(そう言えばオークの女性が好きって言ってたね……)


 同行する三人は彼の様子に困惑し、曖昧な笑みを浮かべて顔を見合わせたのだった。

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