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認識の違い

 レオノーラが無策だったので、まずはコボルトと接触する方法を話し合う事にした。


「すまないね、こいつらを説得する事しか考えてなかった。勇者に頼れば何とかなるなんてアタシの甘えた考えがアンタ達に迷惑をかけてばかりだ」


 申し訳なさそうに謝罪する彼女の手を、アイリスが両手で取り慰めの言葉をかける。


「仲間のために単身他国へ旅をするなんて、簡単に出来る事ではありませんよ。レオノーラ様のその強く優しい心に惹かれたからこそ、ケント様もこうして力になろうとしているのです」


 アイリスの言う通りなのだが、なんとなく気恥ずかしくなるケント。


「コボルトは縄張り意識が強いけど、問答無用で襲ってくるような種族ではないと聞きます。堂々と出向いて行って話し合いをすればいいのでは?」


 戦うために行くのではないのだから、変に策を弄するよりは正面から臨んだ方が良いのではないかと提案した。


「それは尤もな話なのだが、最近コボルトの国に現れた英雄がとても好戦的でな。奴の命令でコボルト達は侵入者を見るなり襲い掛かってくるんじゃ」


 オークの王によると、コボルトは以前と比べ非常に敵意を見せてきているとの事。


「なるほどネ、オーク達がやたら殺気立ってたのは相手が強硬派になったからなんだ!」


 こちらが話し合おうとしても問答無用で襲い掛かって来るとなれば、我慢してばかりはいられないという訳だ。若手オークのリーダーもコレットの言葉に力強く頷いた。




「それは、コボルトの国に何か異変が起こっているんじゃないか?」


 話を聞いていたジャレッドは、思いついたように自分の故郷で起こった出来事を話した。


「……俺達は、勇者様達に救われたんだ」


 彼の話を聞いていたオーク達は、思い当たるフシがあると言わんばかりに頷き合う。


「ゴブリンの王に、コボルトの英雄……イレギュラーな存在が同時に複数の場所で誕生する、か。もしかしたら、偶然じゃないのかも知れないね」


 レオノーラの発言を機に、全員の目つきが変わった。これまでは単なる隣国同士の小競り合いだと思っていたが、何者かの策略によって生み出された対立だとしたら?


「ゴブリンは魔王の手下になるために人間の頭蓋骨を集めていました。今回争っている島は、伝説の勇者が神の加護を得た地……魔王が求めてもおかしくありません」


 本当に偶然なのかもしれないのだが、ケントには不思議と魔王が関わっている予感があった。


「それはそれとして、どうやって相手の縄張りに入るの?」


 一同が魔王の気配に気分を高揚させる中、コレットはあくまで冷静に現実を突きつける。普段からマイペースな彼女は、こういう一種の祭りのような盛り上がりにも乗せられる事はなかった。


「コボルトの英雄に命令されているのなら、ジャレッド様のように嫌々従っている方もいるかも知れません。私ならその方を見つける事が出来ます」


 アイリスの提案。コボルトの領地に忍び込み、魂の色で判別した『裏切り者』に協力を請うというものである。


「それなら、土地勘のあるアタシが役に立てるかもしれないね」


 レオノーラが引き続き案内役を買って出るのだった。


◇◆◇


 一方その頃、コボルトの国デルフォンではコボルトの英雄が整列するコボルトの群れを前に演説していた。


「最近オークどもの動きがおかしい。あれだけ我々の領地を脅かしていた侵攻を止め、外から勇者を迎え入れたそうだ。狡猾なオークの事だ。勇者を騙して味方に引き入れ、我々コボルトを暴力によって勇者の聖域から追い出そうとしているに違いない。このような横暴を許していいのか? 否! 我々は暴力に屈する負け犬ではない! 今こそ、かつて勇者と共に魔王軍と対峙した誇りあるコボルト軍の矜持を見せる時だ!」


 コボルト達は、オークが自分達の領地に攻め込んできているので防衛行動を取っているという認識でいた。勇者の聖域も、かつて勇者と共に歩んだ種族として自分達が誇りをもって管理するべきという考えである。


 そしてそれは、国民を騙すための偽言などではなかった。


――――――

二つの種族の平均才能値


豚鬼 オーク

才能値 3000


犬鬼 コボルト

才能値 2800

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