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勇者の聖域

 コボルトの英雄がゴブリンの王のように魔王軍と繋がっているという事は無かった。そしてどうやら何者かが二国を争うように仕向けているようだ。


「魔王の手下が潜伏していそうな場所に、心当たりはありませんか?」


 ケントはフロリッツとレオノーラ、二人を交互に見ながら尋ねた。


「うーん、我が国の領土内は敵の侵入を監視しているのでどこかに潜んでいるとは考えにくいですね」


「オークも大体野山でキノコや山菜を採ってるからねぇ、変なのが隠れられる場所はないと思うね」


 二人とも心当たりは無いようだ。


「隠れるのにうってつけの場所があるじゃん」


 ケントの方に腰掛けて彼等の話を聞いていたコレットが、口を挟んだ。どうして気付かないのかと言わんばかりの態度である。彼女の言動に注意を払っていたケントは、その言葉から何処を指しているのかが分った。


「もしかして……」


「そう、勇者の聖域ヨ!」


 今度はコレットがケントの発言を遮って続けた。


「あそこは今、誰も入れないんでしょ? あそこに隠れて悪さし放題じゃない」


「ですが、両国の監視がある中で気付かれずに行き来できますかね?」


 フロリッツの疑問は尤もだ。だが、ケントにはそれを可能とする方法に心当たりがあった。


「僕達が以前魔王を崇拝する教団のアジトに侵入した時、転移の魔法陣で離れた場所に移動しました。コレットが言う通りにあそこに潜伏しているかは分かりませんが、見つからずに移動する手段はあります」


 転移が出来るなら島に潜伏する必要も無さそうだが、調べる価値はあるだろうという事でフロリッツを加えた六人で勇者の聖域に渡る事になった。


「コボルトとオーク、双方の代表者が共に行けば問題はないでしょう」


 フロリッツの言葉に、レオノーラも同意した。




 早速船を用意して島に渡る一行。両国の緊張が高まっている現状では少しでも早く真相を究明する必要があるという意見で一致したので、すぐに行動に移ったのだ。


「ダイダロスが強くなった場所ってどんなところかな~?」


 いつものように観光気分のコレット。ケントも強くなるための何かがあるかも知れないと期待している。アイリスはフロリッツが苦手なようで、ケントを挟むように船の反対側に座っていた。


(僕はそれが普通だから気にならなかったけど、初対面の相手が自分の事をよく知っているのはやっぱり居心地の悪いものなんだな)


 アイリスは記録を抹消されたぐらいなので人に知られている事を想定していなかったため、過剰反応を起こしてしまった。本人も理解はしているが、完全に割り切るにはまだ時間が必要なようだ。


「あれは?」


 船首付近から前を見ていたジャレッドが、島の船着き場付近にある謎のオブジェを指差した。


 それは簡易的なベッドのようなものだが、両側に上に伸びる二本の骨組みがあり、その頂点には棒状のものが渡してある。さらにその棒の両端には円盤状の何かが付いていた。


「よく分からないが、あの棒は外せる。両側の円盤は重りのようで、同じ形の大きさの違う円盤が幾つか横に設置してある。多分どこかに置いて封印か何かを解除する為の道具だと思う。ちゃんと整備はしているので必要な場所が分かったらすぐ使えるだろう」


 彼等はその用途を知らないが、ベンチプレスである。この世界には本来存在するはずのない道具だ。


 重りと聞いて、黒騎士から筋トレの概念を教わったケントと、ケントから教わったジャレッドは、持ち上げて筋力を鍛える道具なのではないかと予想した。


「もしかして、ダイダロスが受けた加護って……」


 二人は顔を見合わせ、頷き合う。同じ想像をした事を確認したのだ。


「変わった道具が沢山あるネ!」


 上陸後、コレットは見慣れないオブジェの数々にはしゃぎ回った。彼女も黒騎士の教えを受けているはずだが、筋トレに興味は無かったようだ。




「おや? あそこの建物の中に誰かいますよ」


 アイリスが何者かの魂の輝きを見つけた。その口ぶりからすると邪悪な者では無さそうだが、誰も入れないはずの島に何者かがいるというのは大いに不自然な状況であった。


「こんな所に一体誰が?」


 一行は慎重に周囲をうかがいながらその建物のドアを開けた。部屋の中には更に檻が設置され、中に一人のオークが閉じ込められていた。


「ボブ!」


 レオノーラが叫ぶ。そこにいたのは、オークの国で出会った若いオークのリーダー格の男だった。


「キャニスターにいたはずのアンタが、どうしてこんな所に捕まってるんだい?」


 だがボブは意外な反応を示した。


「レオノーラか、そちらの方々は?」


「え?」


「初めまして、私はオークのボブと言います。助けに来て下さったんですね? ありがとうございます」


 ボブはケント達に向かって自己紹介を始めた。


「まさか……ボブちんがここに閉じ込められたのっていつ頃?」


 コレットが変な呼び方をするが、誰もそんな事を気にしている場合ではなかった。


「一ヶ月ほど前です。食料を作り出せる魔法が使えるおかげで餓死は免れました」


 その言葉を聞いた瞬間、レオノーラは天を仰いだ。


「ああ、なんて事!」


――――――


オークリーダー ボブ

才能値 9500

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