ケント達がデルフォンへ向かったすぐ後、キャニスターではオークの王ベラトリオが若いオーク達のリーダーであるボブを部屋に呼んでいた。
「お呼びですか、王よ」
ボブの姿をした者は、何故呼ばれたのか分からないといった表情で王と向かい合う。
「うむ、お主に頼みたい事があってな」
ベラトリオは目の前にいる者を仲間と信じて疑っていない。そのため、大事な頼みごとをしてしまうのだった。そしてボブの姿をした者は、神妙な面持ちをしながらも内心歓喜に打ち震えていた。
「早くキャニスターに戻ろう!」
レオノーラが皆を急かす。もちろんケント達も彼女と同じ気持ちであった。
「あの時、私には彼の魂がとてもきれいな色に見えました。それが間違いだったなんて……」
アイリスは偽者を見抜けなかった事に責任を感じていた。気に病んでも仕方のない事だと慰めるケントだが、彼も何故アイリスが見誤ったのかと不思議に思っていたのだった。
「ボブちんは敵の姿見てないの?」
「すみません、突然背後から襲われたものですから……ただ、敵の目的は分かります。勇者の聖域の中心部にある封印を解くための鍵を欲しているのです」
島の中心部には、地下へ潜る事の出来る入り口がある。だがそこは聖なる力で封印されており、何人たりとも侵入できないのだ。
「まさか、その鍵を持っているのは!」
ボブに成りすますのは単に二国間対立を煽る工作のためだけではなかったという事だ。おそらくその鍵はキャニスターにある。つまり持っているのはオークの王ベラトリオに違いない。そこまで考えた時、ケントは駆け出していた。
走ったところで島からは船で出るしかない。大して意味のない行動ではあるが、同じく焦る仲間達は全員走り出したのだった。
船着き場の近くまで戻ると、湖の上にキャニスター側から渡って来る船が見えた。
「あれは! オークの王と偽ボブが乗ってるぞ」
目の良いジャレッドが状況を語る。
「隠れて!」
すぐさまコレットが物陰に隠れるよう指示を出した。だが、身を隠しても彼等が乗って来た船は隠せない。
「む? デルフォンから船が来ておるな。勇者様がコボルトを説得したのか」
ベラトリオはすぐ状況を理解し、偽ボブに教えた。
「恐らくここに魔王の手下が潜伏していると見てコボルトの英雄と共に来たのじゃろう。丁度いい、我等も合流しよう」
偽ボブは一瞬
(どうする? ここで王を始末してしまうか……いや、まだ扉が……そうだ!)
何かを思いついた偽者は、王に気付かれないようこっそりとその準備に取り掛かった。
「どうしよう? 偽ボブが王様と一緒にいるよ」
珍しくいい案の出ないコレットが動揺する。
「……気付かれないように隠れて後を追いましょう」
フロリッツが提案した。変に刺激してベラトリオを人質にでもされたら困る。様子を窺い、隙を見て二人を引き離すのだ。
一行は頷き、機会を窺う事にした。