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魔王軍の大幹部

 煙が晴れると、二人のボブが取っ組み合いをしていた。


「しまった、これではどちらが本物か分からんぞ!」


 ベラトリオを解放しながら、フロリッツが悔しげに声を上げた。二人は外見からは全く見分けがつかない状態だ。


「偽者め、よくも閉じ込めてくれたな!」


「何を言う、お前が偽者だろう!」


 レオノーラに助け起こされたベラトリオも、この様子を見てすぐに事態を飲み込めた。


「儂が連れてきたのはボブの偽者か、まんまと騙されたわい。だがこれは魔王の手下を仕留めるチャンスかも知れんな、見分ける方法は無いか?」


 王の言う通り、こちらは十分な戦力が揃っており敵は一人だ。偽者を見分けられれば、最良の条件で戦える。


「じゃあ、まずボブは大人しくして」


 コレットが言うと、二人は同時に争いを止めた。彼女の言葉に従わなければ偽者とみなされる危険を察したのだ。


「これから見分けるためにテストするから、協力してネ」


 テストすると言われてもボブ達は動じない。本物は心配していないし、偽者は騙せる自信があるからだ。


「ええ」


「分かりました」


 その様子を見ているケントには、どうやって見分ければいいのか分からない。コレットはアイリスに目配せをした。


「ではボブ様には、魔法でケント様の好物を作って頂きます」


(あっ、そうか! 僕の好物は本物のボブしか知らない。このためにさっきはあんなことを言い出したんだ)


 ケントはアイリスの機転とコレットの理解力に感心した。


 だが、それでも偽者は余裕の態度であった。


(ククク、馬鹿め。知っているかなんて関係ないさ、オレの能力は物真似なんかじゃないからな!)


 二人のボブは、同時にフードクリエイションを使い玉ねぎのフリッターを作り出した。


「二人とも同じものを作ったぞ!?」


 ジャレッドが心配そうにアイリスを見た。ケントも予想外の展開に驚く。


 だが、アイリスは微笑んだ。


「やはり、同じものを作りましたね。これで偽者さんの能力は分かりました。コレット様、私達にフェアリィ・ダンスを」


 フェアリィ・ダンスは以前コレットが隠された入り口を見つけるために使った技だ。まやかしを破る効果がある。


「オッケー!」


 コレットがケント達の頭の上をヒラヒラと舞い飛ぶ。ボブの一人が、顔をしかめた。


(しまった!)


「あなたは姿を変えたりなんかしていない。私達の感覚をねじ曲げる魔法を使いましたね?」




 アイリスは魂の色で偽者を見抜けなかった事を悔やみながらも、なぜそのような事が起こったのか考えていた。


 自分の能力を考え、それを破るにはどうすればいいか考え……完全に敵の思考になったとき、幻覚の魔法にたどり着いた。虚像を作り出すのではなく、相手に『それを見ている』と錯覚させるのなら。


――これまでの全ての事象を説明出来る。


 コレットのダンスが終わった時、ボブの横には一人の道化師クラウンが立っていた。白と黒の二色が上半身と下半身を逆に染めている。頭には左右に毛玉のような飾りがついた帽子、これも半分ずつ白黒に染まっている。顔のメイクも白地に黒で裂けた口や涙が描かれていた。


「あーあ、バレちゃった♪」


 全身に鳥肌が立つ感覚。ケントは瞬時に理解した。この道化師は、今まで見てきたどんな生物よりも強い・・・・・・・・・・・・・・・・・


 そう、あの黒騎士ギルベルトよりも。


「ああ、ボブ君。そんなところに突っ立ってないでキミも彼等の方に行きなさい」


 道化師が手を振ると、ボブは空中に浮かびレオノーラの傍らに飛んでいった。


「まさかキミ達、この人数ならオレに勝てると思った? 甘いよ甘い、蜂蜜よりもあんま~い♪ オレがその気になれば一瞬でキミ達は赤い霧に変わるだろうね」


 お道化どけた口調で、ケント達を蔑む道化師。だが、その言葉が真実だということは全員が本能で理解していた。


「さて、自己紹介をしようか。オレは魔王軍第三位、ジョーカー。ジョークのように強い悪魔さ。そうだな……十分肌で感じてるとは思うが、キミ達の大好きなコレで見せてやろう♪」


 そう言って投げて来たのは、『測才鏡そくさいきょう』という名のアイテム。この世界の住民には見慣れた道具だ。その名の通り才能を測る鏡である。この世界の住民はこれで才能値を知るのだ。


 使い方は簡単。鏡に姿を写された人物の才能値が姿の上に浮かび上がるというものである。


「それは、まやかしなんかじゃないよ♪」


 そこに浮かび上がるジョーカーの才能値を見た時、オークの王ベラトリオは絶望の表情を浮かべ地に膝をついて呟いた。


「まさか、こんなことが……」


――――――


大悪魔 ジョーカー

才能値 600000

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