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対立の終了

「良いねー、その絶望に満ちた顔。でも心配はいらないよ♪ 今日はアイリス君の勝ちって事で、大人しく退散しよう」


 ジョーカーはそう言ってあっさりと身をひるがえす。


「待て! 一体何が目的だったんだ!」


 恐怖に全身の毛を逆立てながらも、フロリッツが悪魔の意図を問いただした。ジョーカーは、首だけ振り向いて答える。


「ただの退屈しのぎさ♪ まあ、あわよくば聖域の中を拝ませて貰おうと思ったんだけどね。どうやら別の用事が出来ちゃったみたい。いやー、仲間の尻ぬぐいもしなきゃいけないなんて、道化師クラウンはツラいよ♪」


 そして、ケント達の反応を待たずに姿を消した。




「あれで第三位かー、魔王倒すの大変だネ」


 ジョーカーが消えるなり口を開いたコレットの言葉に、オーク達とフロリッツが一斉に驚いた顔を向けた。


「あの数字を見せられて、まだ倒す気でいるのかい!?」


「そりゃー今戦ったら絶対勝てないけど、いつか勝てるようになるでしょ。ねー、ケント!」


 話を振られたケントは少し考える。


(才能値が全てではないのはよくわかったしな……)


「うん、そうだね。ダイダロスが強くなったように、僕達も強くなればいい」


 ケントはギルベルトと言いたいところだったが、オーク達にも通じやすいダイダロスの名前を出した。


「その通りです、ケント様。私達ももっと強くなりましょう!」


 アイリスも同意する。


「俺ももっと頑張らないとな! うおおお!」


 腕立て伏せを始めるジャレッド。


 そんな一行を見たフロリッツは、その場にひざまずいた。


「さすが勇者様一行。感服いたしました」


 そしてレオノーラが真剣な表情でジャレッドに尋ねる。


「ねえ、ジャレッド。アンタこの前もそれやってたけど、強くなるためにやってるの? それを繰り返してるから、ゴブリンなのにあんなに強くなったのかい?」


「ああ、こうやって腕がだるくなるまでやってから休んで回復すると前より腕力がつくのさ! 勇者様に教えて貰ったんだ」


 腕立て伏せをしながら答えるジャレッドの言葉に、今度はベラトリオが反応した。


「強くなれる? まさか、ダイダロスはそれ・・でアリオクを上回ったのか」


 その言葉に、ケントが力強く頷いた。


「ええ、間違いありません。ダイダロスは神の加護で強くなったのではなく、ここで修行をして強くなったのだと思います!」


 一同は、封印の扉を見た。


「儂はボブにここの管理を引き継ぐつもりでここに来た。きっと勇者様はコボルトとの対立を解消してくださると思ってな。まあトラブルの元凶も判明したし、もう対立する必要はないじゃろう?」


 ベラトリオはフロリッツに顔を向ける。


「ええ、対立どころか我々二種族は緊密に協力していかなくてはいけない事が解りました。二度とあのような者を入り込ませないためにも!」


 そんな二人の様子を見て安堵したように頷くレオノーラとボブ。


「じゃあ、ちゃっちゃと封印を解いてネ! みんなで修行タイムよ!」


 張り切ってクルクルと飛び回るコレットの姿に、一同から笑みがこぼれた。


「ホッホッホ、良いでしょう。ボブ、こちらへ」


「はっ!」


 そうして、勇者の聖域にかけられた封印が解かれるのだった。


◇◆◇


「あの黒騎士、思った以上にやるみたいだね♪」


 魔王の居城に戻ったジョーカーが、楽し気に言った。


「笑い事ではないぞ、ジョーカー。黒騎士などと……私のアイデンティティの危機だ!」


 その言葉の主は、豪華な装飾を施された漆黒の鎧であった。鎧を着込んでいるのではない。鎧が喋っているのだ・・・・・・・・・


「アッハッハ! そりゃ大問題だ♪」


 全く緊迫感のない二人の会話。だが、状況は魔王軍にとって思わしくない方向に動いていた。


「なら、オレの代わりに君がやるかい? グライアス」


 グライアスと呼ばれた生きた鎧リビングメイルは、首を振る。


「それが出来たらわざわざお前を呼ばぬさ。私はこれでも魔王軍第二位だからな、この城を離れる訳にはいかない」


 道化師はため息を一つ。


「やれやれ、直接戦うのはオレの性に合わないんだけどね。メリュジーヌの奴め、なーにが『任せて下さい』だよ」


 肩をすくめ、あくまでお道化どけた態度で失敗した仲間の物真似をする。だがその目は殺意に満ちていた。


「……ギルベルトめ、魔王軍を甘く見るなよ?」

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