話は少し
ケント達がキャニスターへ向けて出発した頃、ギルベルトは弟子達の成長を確かめ、また実戦経験を積ませるためにE地区周辺地域のモンスター狩りをしていた。
E地区は首都エルドベアの北西に位置する。丁度ルーブ村の北、アイリスのいた修道院からは東になる。この辺りには少しだけ強いモンスターが現れる。
魔王の居城はこの世界の北に存在するため、北に行くほど生息するモンスターは強くなっていくのだ。
そんな場所にEランクの人間が住んでいて、何故無事でいられるかというと、地区の周囲に築かれた強固な城壁が守っているからだ。別にEランクの人間を手厚く保護しているわけではない。Eランクが好き勝手に出て来れないように管理するためなのだった。
「よう、今日も狩りに行くぜ」
ギルベルトが守衛に声を掛け、弟子達を連れて出ていく。守衛は敬礼をして黒騎士を見送った。
周辺のモンスターや魔王教団の信徒を退治している彼の事は、Eランクの監視を任務とする現場の兵士達も尊敬していたのだった。
「行ってらっしゃいませ、ギルベルト様。お気を付けて!」
E地区は、黒騎士によって変わりつつあった。
今日の彼等の獲物は
「今夜は熊鍋だ!」
「えぇ……角熊ってオークより強いんですよ?」
張り切るギルベルトに弱音を吐くのはE地区で最初に彼の弟子になった男、クラレオだ。
「お前等なら大丈夫だ、自信を持て」
親指を立て、笑顔で答えるギルベルト。
ため息をつき、クラレオと同じく弟子のルンバーノが剣を手に森を進む。いざとなったらギルベルトが助けてくれるのだが、そうと分かっていてもAランクが戦うような強力なモンスターと対峙するのは恐ろしい。
ビクビクしながら進む弟子の背中を見ながら、ギルベルトは才能値というシステムについて考えていた。
(才能値は皆一桁だが、それぞれ得意な事が違う。クラレオは剣術が得意だがルンバーノは攻撃魔法が得意だ。……当たり前の事ではあるが、才能値なんて画一的な数字じゃそいつの強さを測る事なんか出来ない。なぜこの世界ではこの数字が絶対視されているんだ?)
手に持った測才鏡を眺めながら物思いにふけっていると、クラレオが声を上げた。
「いました!」
目当ての角熊が木々の間からこちらを威嚇している。
「落ち着いて、練習した通りにやるんだ」
ギルベルトの指示に従い、クラレオ達前衛組は剣を構え、ルンバーノ達後衛組は意識を集中させた。まず遠距離から魔法で攻撃し、怯んだところを剣で一斉に斬り付ける。
「ガアアアッ!」
戦士達の連携攻撃になす術なく倒れる角熊。止めを刺したクラレオは、
「よーし、よくやった! 血抜きをして臭みを取るぞ!」
「まずそれですか。さてはただ食べたかっただけですね?」
嬉しそうに言うギルベルトにルンバーノがからかうような言葉をかけると、仲間達から笑い声が上がった。もちろんそんな理由ではないと全員が理解しているが、初めて黒騎士抜きの戦闘に勝利した喜びと緊張から解き放たれた安堵が彼等に冗談を言う余裕を与えていたのだった。
ギルベルトの指導によって、E地区の戦士達は順調に成長を続けていた。
――――――
魔獣 角熊
才能値 3500