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闇の道化師

「さーて、始めようか♪」


 屋根から見下ろす白黒の道化師クラウン、魔王軍幹部ジョーカーはお道化どけた様子で黒騎士の背中に向かって一礼すると、軽やかなステップで宙を舞う。


「なんだこいつは!」


 突然弟子達の後ろに現れた不気味な道化師に、ギルベルトは戦慄した。


(まさか、こんな近くに現れるまでまったく気付かなかったとは!)


「悪魔め!」


 弟子達が一斉に武器を構えた。ギルベルトに向かって。


「くっ、幻術か!」


 瞬時に事態を理解する黒騎士に、ジョーカーは内心舌を巻いた。


(やはり、戦闘経験が桁違い。あいつにはオレの幻術も効いてないし)


「よしお前ら、訓練した通りにあいつを倒すぞ!」


 ジョーカーはギルベルトを真似て弟子達を彼にけしかける。


「訓練通り、か」


 ギルベルトはニヤリと笑った。


「クラレオ、強敵と戦う時はどうするんだっけ?」


 黒騎士は普段の訓練と同じように弟子に話しかける。道化師に見える相手からギルベルトの言葉を投げ掛けられたクラレオは混乱するが、即座にルンバーノが声を上げた。


「障壁を重ねがけだ!」


 相手が誰だろうと、『訓練通り』自分達に防御魔法を掛ける。


(上出来だ)


 これで多少なりとも弟子の生存率は上がる。ギルベルトは一足飛びにジョーカーの目前に迫り、斬りつけた。


「おっと、そう簡単にはやられないぜ」


 ひらりとかわすジョーカー。クラレオ達には道化師が目にも止まらぬ速さで黒騎士に斬りかかったように見えた。


「あの太刀筋、ギルベルトさん!?」


 彼等は訓練で幾度となくギルベルトの斬撃を目にしてきた。対して黒騎士に見える何者かの身のこなしはこれまでに見たことがない。


「そうか、見た目が入れ替わってるんだ!」


 向き直る弟子にギルベルトが警告を発する。


「幻術なら見た目はいくらでも変わる! 目で判断するな!」


 更に剣を振る黒騎士、躱しつづける道化師。


「よっ、ほっ、はっ! 良い腕だ!」


 馬鹿にしたようにギルベルトの剣術を褒めながら避けるジョーカー。まるで攻撃の当たる気配がない。


「ならば、これだ!」


 二人の攻防を見ていたクラレオは、手に持ったナイフに魔法をかける。


『グングニル』


 ギルベルトから習った魔法。投擲武器に確実に敵を捉える効果を与えるものだ。クラレオが投げたナイフは、空中でスピードを上げ素早く動き回る道化師の腕に刺さった。


「へえ、やるじゃないか♪」


 攻撃を受けたジョーカーは、大きく跳んで距離を取り幻術を解いた。


「だが、もう遊びは終わりだ」


 ジョーカーが幻術を解いた途端、クラレオ達を途轍とてつもない圧力が襲う。


「うわあああ!」


 たまらずその場に尻餅をつく弟子達に、ギルベルトは彼等をかばうように立った。


「大したもんだ、ギルベルト。君はこの世界に来てまだ一月ほどだろう。なのに落ちこぼれ扱いされこうやって隔離までされてる連中をここまで鍛えた。オレに傷をつけた人間はそいつが初めてだぞ?」


 拍手をし、ギルベルト達を称賛するジョーカー。だが、弟子達は蛇に睨まれた蛙のように恐怖にすくんで動けない。幻術を使っていた時には何の気配もしなかったのに、今はただ立っているだけで凄まじい圧迫感を与える。


「オレの幻術だってケント君達は破るのにたいそう苦労したもんだがね。まったく君の指導力には恐れ入るよ……だから、褒美に見せてやろう。努力ではどうにもならない絶対的な力の差ってやつをな!」


 道化師の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、地面から黒いもやのようなものが立ち昇り、ギルベルトの背後にいた弟子達を包み込んだ。


「逃げろ!」


 ギルベルトは咄嗟とっさに叫ぶが、既に弟子達は透明な壁に閉じ込められてしまっていた。


「ギルベルトさん!」


 クラレオは壁に体当たりをするが、ビクともしない。


「さあ、ゲームを始めようか。それ・・は時間の経過によって中の人間に様々な責め苦を与える牢獄だ。う~んそうだな、大体十分程で中にいる全員がむごたらしく死ぬだろう。助ける方法はただ一つ、オレを殺す事さ♪」


 瞬間、黒騎士の姿がき消える。


――ギィン!!


 ギルベルトがジョーカーを後ろから・・・・斬り付け、敵がどこからともなく出したナイフと火花を散らす。


「おお、怖い怖い。だがそんなんじゃオレは殺せな~い♪」


 邪悪な笑みを浮かべるジョーカーを、憤怒ふんぬ形相ぎょうそうにらみつけるギルベルト。


 二人の殺気が町の建物を振動させた。

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