ギルベルトの渾身の一撃を受けたジョーカーは、猛烈な勢いで吹き飛ばされ地面を転がった。
「はあ、はあ……」
全ての力を使い果たし、ギルベルトはその場に崩れ落ちるように倒れた。
「ギルベルトさん!」
弟子達が彼に駆け寄り、治癒の魔法を掛ける。
「とんでもない敵でしたね。あんな化け物を退けるなんて、さすがです」
称賛の言葉を聞きながら、ギルベルトは疲労で身体を動かすのも
「グググ……ガアアアア!!」
そこへ、大気を震わす恐ろしい叫び声が響いた。
「くそっ、今度こそ逃げろ!」
敵が死んでいない事を悟ったギルベルトは、疲れた身体を無理矢理起こし弟子達に逃走を呼び掛ける。
「ええ、ギルベルトさんも一緒に!」
クラレオはギルベルトに肩を貸して共に逃げようとした。ルンバーノが障壁の魔法をかける。
(こんな事をしていたら……)
弟子達に一刻も早く逃げて貰いたかったが、恐らく言う事を聞かないだろうと判断し急いで立ち上がる黒騎士。
ジョーカーはボロボロの身体で立ち上がり、天に向かって吠えていた。
「まずい、あれはただの暴走じゃない!」
不吉な予感に、焦るギルベルト。だが全力で戦った後では魔法で傷が治っていても上手く足が動かせない。クラレオに助けられよろよろと足を進めるが、背後で空気が揺らぐのを感じ顔だけ振り返った。
瞬間、視界が虹色に染まる。
耳をつんざく轟音、身体を襲う激しい衝撃。
吹き飛ばされ、意識が遠のくギルベルトの目に最後に映ったのは、彼を庇うように覆いかぶさったクラレオの首が胴体から離れていく様子だった。
気が付くと、何もない荒野に倒れていた。
本当に何もない。
人々が暮らしていた建物も。
魔物の侵入を防いでいた強固な城壁も。
土が露出した地面には、雑草すら生えていなかった。
「申し訳ない」
声を掛けられた方向へ顔を向けると、そこにはボロボロの布切れを身に纏った男が立っていた。それがジョーカーだと分かるまで数秒考えたほどに、みすぼらしい姿に変わっていたのだ。
「正気を失って力任せに暴れるなど、
道化師たる己の振る舞いに拘りを持つジョーカーは、膨大な魔力で町を吹き飛ばした事を心の底から恥じていた。
「混沌の力?」
聞きなれない言葉を耳にして、聞き返すギルベルト。
「謝罪代わりに教えてやろう。オレ達は世界の狭間に閉じ込められている『混沌の主』を助け出すために活動している。この世界に住む者は全て『混沌の主』から力を貰っているのさ。その強さを表すのが才能値というわけだ」
先程ジョーカーに集まった魔力は『混沌の主』から送られた力らしい。そして思いがけず才能値の秘密を知った。
「だから他の世界からやってきたお前には『混沌の主』が力を与えないので才能値は低い。そしてこの世界の者は『混沌の力』のおかげで修業なんかしなくても才能値に見合った強さを得る。……気付いたか? 才能値が高いのに強さを得ていない者が存在するな。それこそがオレ達魔族が探し求める者。『混沌の主』と心を通わせ、この世界への道を開く力を持つ者達だ」
ケントの事だ。ギルベルトは知らないが、アイリスも同様である。
「この世界では才能値の高さでランクが決まる。それは魔王様が定めた法で、AからE、そしてSランクが存在する。あのお方と心を通わせる力を持つ十二人がSランクだ。それが全てそろった時、オレ達の悲願が達成するのさ」
十二人と聞いた時、ギルベルトの心の中にある仮説が生まれた。
「そろそろおしゃべりは終わりにしようか。今回の詫びにお前は見逃す。そして今後魔王軍から刺客を送る事もない。精々力を付けて、復讐に来るがいい」
話が終わると、ジョーカーは空中に溶けるように姿を消した。
「そういう事だったのか」
痛む身体をさすりながら、その場に立ち上がるギルベルト。
周りを見回す。
どこを向いても土、土、土……生命の息吹を一切感じない荒野が広がっていた。
「う、うぐ……うわああああああ!!」
その場に膝をつき、両手で顔を覆う黒騎士。覚悟はしていた。町が亡びる事も最悪の事態として想定していた。
だが、一度は救えたと思ったのだ。
途轍もない強敵を前に持てる力の全てを使い、確かに「ジョーカー」は退けた。弟子達も全員無事で、町に被害も無く完全なる防衛を成し遂げたのだ。しかし、想像を遥かに超える存在である『混沌の主』によって全てが覆されたのである。
何も無い荒野に、ギルベルトの