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仲間を探して

「やはり、ギルベルト様がケント様を指導するのが一番だと思います」


 ギルベルトの話を聞いたトーマスは、きっぱりとした口調で提案した。



 一晩休み、ギルベルトの体調が回復したのを確認してから二人は情報を交換した。トーマスがずっと様子を見ていた事にギルベルトは少なからず驚いたが、ジョーカーからもたらされた情報を聞いたトーマスの驚きは比較にならないほどだった。


 彼等の国家運営全てに関わる、才能値という数字が持つ本来の意味。本当に悪魔が崇拝する混沌の主なる存在から力を授かっているのなら、自分もまた悪魔と変わらぬ存在と言える。



「元々ケント様の援軍として召喚したのです。本来あるべき姿というものでしょう。もちろんギルベルト様がよろしければ、ですが」


 魔王がケントを欲しているのなら、尚更彼を守る必要があるというもの。だが、ギルベルトはなにやら思案している様子だ。


「いつかはケントと合流したいと思っているが……ちょっと気になる事があってな。Aランクってあと二人いるんだろう? 今どこにいるんだ?」


 ギルベルトは混沌の主と心を通わせる十二人の他のメンバーが気になっていた。


「Aランクの二人は、それぞれに北へ向かっています。今頃は蛮族の地フォックスバローでモンスター退治をしているでしょう」


 二人の名は、カストルとアウローラ。彼等も勇者として以前からモンスター退治の旅をしている。


「そいつらは、最初から強かったのか?」


 ギルベルトの問いが意味するところを理解したトーマスは、彼が必要としているであろう情報を思い出しながら話し始めた。


「ええ、お二人ともとても強かったですよ。……ギルベルト様が探しておられる方は、Aランクとしての記録を抹消されています。アイリス様という、とても高い才能値を持ちながらヌマネズミにも勝てなかった女性が」


「それだ!」


 言葉を遮って声を上げ立ち上がったギルベルトだが、トーマスは落ち着くようにとジェスチャーで示す。まだ続きがあると言いたげな様子に気付いて椅子に座り直した。


「まだ他にもいるのか?」


「私の知る限りではあと一人、ブルーノ港から南の島に隔離された方が。アイリス様はケント様と共に歩く姿を目撃されていますので、まずはブルーノ港へ向かいましょう」


 アイリスは既にケントと同行している。ギルベルトはトーマスが自分と共にその人物を探しに行くような口振りなので、怪訝けげんそうな表情をした。


「議員がここを離れていいのか?」


 トーマスは平然とした顔で答える。


「私のやるべき仕事は既に終えています。後は部下に任せれば大丈夫。そんなことより、私も混沌の主を許せないのです」


 つまり、稽古をつけて欲しいという事だ。


 ギルベルトは予想外の弟子志願者にニヤリと笑う。


「強くなりたいのか? 良いぜ、俺の全てを教えてやる」


 トーマスのような地位の高い人間がギルベルトの教えを受ければ、自ずと世界に影響を及ぼす。予定とはかなり違うが、彼の当初の目的が達成されようとしていた。




「ところでその黒い鎧ですが、あんなにボロボロだったのに今は新品同然になっているのはどうしてですか?」


 準備を整え、出発という時になってトーマスはギルベルトの鎧が一晩で修復されていることに気付いた。


 ちなみにトーマスは長袖のシャツに軽鎧ライトメイルという出で立ちで、長めの金髪を後ろにまとめている。議員を務めるような年齢のわりに若く見える整った顔立ちのため、まるで駆け出しの冒険者といった風情だ。腰に差した小剣ショートソードがいっそう拍車をかける。


「ああ、これは自己修復機能付きなんだ。便利だろう?」


 便利だが不可解である。異世界の技術では普通の事なのだろうと無理やり納得するトーマス。


「そういえば、探しにいく奴の名前はわかっているのか?」


 出発の段階になって、まだ相手の名前を知らない事に気付いたギルベルトが尋ねる。


「ええ、彼の名はイジュン。両親の期待が大きすぎた反動で島流しにあった可哀想な少年です」


――――――


国家運営会議の有力議員 トーマス

才能値 3400

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