「トーマス様は追放者を集めるおつもりのようだ」
首都エルドベアにて、議員達がトーマスとギルベルトの活動について話していた。
「報告文書に書かれている事、事実であれば世界中がパニックに陥りますよ」
才能値の意味について、トーマスはギルベルトから聞いた話を文章にして部下を通じて議会に提供していたのだ。
「トーマス殿が嘘の報告をするはずがない。ひとまず才能値の件は国民に伏せておき、我々も追放者を保護しようではないか。全てが終わってから発表すればいい」
ザッハークが提案する。トーマスに嫌味をぶつけていた彼の口からこのような言葉が出た事に、少なからず他の議員達は困惑していた。
「そ、そうですな。ザッハーク様がそう仰るなら、私も異論はありません。追放者の情報をまとめましょう」
反対する者もなく、追放された元Aランク(ジョーカーの言葉によればSランクとされるらしい)を保護するために議員達が動く事になった。
その夜、ザッハークの私邸にて。
「議員の取りまとめ、ご苦労様♪」
彼の前に現れたのは、黒と白の衣装に身を包んだ
「これでいいのか? ジョーカー」
ザッハークは道化師を睨み付ける。
「最高の展開さ♪ キミ達の信じる神は、まもなくこの地に降臨するだろう……クックック」
「黒騎士が捕まえたガキは言うことを聞かないんじゃないのか?」
ザッハークの言葉には不信の色がにじむ。
「心配はいらない。言うことを聞かせる必要はないからね♪」
そう言い残して、ジョーカーは溶けるように姿を消した。
(トーマスめ、貴様の思い通りにはさせんぞ)
悪魔を利用せんとする愚かな権力者は、夜空を見上げて心に炎を燃やしていた。
――――――
ところ変わって、勇者の聖域。ジョーカーが去ったすぐ後で、ケント達は封印の先にある修行場にいた。
「ほえ~、すっごい!」
島の地下には、広い
「ここでダイダロスが……何をしていたんだ? ひたすら戦いか?」
ジャレッドは腕を組んで首をかしげる。コボルトとオーク達も同様に不思議そうな態度だったが、ケントとアイリスは迷う事なく闘技場の中心へと歩いていく。
「誰かが、呼んでいる」
「私にも聞こえます、ケント様」
二人は顔を見合せ、頷く。
仲間達が注目するなか、中心に立った二人は何者かに呼び掛けた。
「あなたは、神様ですか?」
『違う』
「違った」
全員の耳に届く厳かな声と勇者のとぼけたやり取りに、思わず力が抜けて膝を落とす一同。
『私は、古代の神にこの地の管理を任された者。お前達が道を誤らぬように、正しく力を得る方法を伝授する役目を与えられた』
「おお、これで勇者様が更に強くなるのですな!」
オークの王ベラトリオが感動して言う。だが、そう上手くはいかない。
『お前達を鍛えるためには、私の身体が必要だ。だが、どうやら長い時の中で何者かに持ち去られているらしい。まずは私の身体を見つけて来てもらおう』
声の主が言うには、魂を宿す
「ここに来てお預けかー」
露骨に面倒くさそうな態度のコレットをなだめるケント。
「まあまあ。フォックスバローはモンスターが多いけどとても綺麗な場所だそうだよ」
「フォックスバローと言えば、カストル様とアウローラ様も戦っている場所ですよ!」
興奮した様子で声を上げるコボルトの英雄フロリッツ。勇者の情報は常に収集しているのでよく知っているのだ。
「……そうですか」
フロリッツの勢いこんだ言葉にアイリスが曖昧な返事をした。
「それじゃあ、ケント達はフォックスバローに行くんだね。アタシ達はそれぞれの国に戻って今後の事を話し合わないかい?」
レオノーラが、ベラトリオ、ボブ、フロリッツに帰国を促した。
「しかし、我等は勇者と共に」
同行の意志を述べようとしたフロリッツの言葉を
「アタシ達は根なし草かい? 守らなければならない民がいるだろう。まだキャニスターとデルフォンの緊張状態は続いたままだ。勇者様の手助けをするにも、まずは自分達の国を平和にしなきゃあね?」
その言葉にフロリッツは黙りこみ、ケント達はその通りだと力強く頷くのだった。