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第四章 狐の巣穴と呼ばれる地

蛮族の地

「フォックスバローってどんなところ?」


 コレットが尋ねた。ケント達はキャニスターに戻り、北へ向かって出発したところである。


「バーバリアンっていう種族が住んでいる場所だよ。バーバリアンは人間とほとんど同じ姿だけど人間とは別の生き物なんだ。自然と共に生き精霊を信仰しているから、自然と調和したとても美しい建物を作って住んでいるんだって」


 差別的な意味ではなく、この世界には蛮族バーバリアンという種族が存在するのだ。


 文明的には人間やオークに劣るが、身体能力では遥かに優れている。蛮族という名称も自ら名乗っている程で、彼等は蛮族である事に誇りを持っているのだ。


「蛮族か、とんでもなく強いって話だ。怖いけど楽しみだな!」


 ジャレッドは期待に満ちた目で言う。とにかく筋肉とか巨体とかに憧れているらしい。


「とても誇り高い種族だと聞きます。失礼のないようにしましょうね、コレット様」


 コレットに釘を刺すアイリス。コレットの遠慮の無さは長所でもあるが、相手によってはトラブルになりかねない。


「え~っ!? 私は失礼な事なんてしないよ」


 抗議の声を上げるコレットだが、一同は曖昧な微笑みを向けた。




 キャニスターから北へ進み、森を抜けるとそこは切り立った崖だった。近くまで寄って下を見ると、数十メートル下からはなだらかなカーブを描き、すり鉢状の谷底に人工的な構造物が見える。遠くを見回せば、崖沿いにらせん状のスロープが谷底まで続いている。肉眼ではっきりと確認できるところから推測するに、スロープの幅は馬車が数台横並びに走れる程には広いようだ。巨大な円形の谷は直径数百キロメートルはあり、一つの国が丸ごと収まる程度には広かった。


 急な崖の壁はむき出しの岩石だが、下の緩やかな斜面には色とりどりの植物が生えていて、野鳥が綺麗な声で歌いながら飛び交っている。とても強力なモンスターが生息する土地には見えない。


「すごーい! 本当にキレイなところネ!」


 はしゃぐコレット。


「ここがフォックスバロー……生命の気配に満ちあふれています」


 目が見えないアイリスも、魂にあふれる谷の様子に感動している。


 男達は「おお、凄い」という感想は持ったが、それ以上に蛮族やモンスターの事が気になっていた。


「しかし、歩いて降りるとかなり大変だね。底まで行く乗合馬車があるそうだから利用しよう」


 依り代は谷底にあるようなので、馬車に乗って移動する事にした。


「乗り場はあそこだな」


 目の良いジャレッドが、遠くにある小屋を指差した。よく見ると馬車が停まっている。


「馬車って大きいんだね!」


「あれは大人数で乗るための大型の馬車だからね。四頭で引いてるけど、一頭で引く小型の馬車もあるよ」


 そんな会話をしながら、すっかり旅行気分になっているケント達だった。


◇◆◇


 魔王城。


 ジョーカーが玉座に座る者――魔王に対し弁明をしていた。


「ギルベルトを放っておけと言うのか」


 落ち着いた、大人の女性の声。魔王の口から発せられたものである。


「はい、そうです。あの男は強い。あやうくオレも殺されかけましたよ。……でも、だからこそ利用価値がある。アイツの性格なら、間違いなくSランクを集めて我々の邪魔をしようとするでしょう」


「なるほど、あと四人・・・・揃えば余の目的は達成される。ケントも巣穴に向かい、カストルとアウローラに出会うだろう」


 魔王は、左手を上に挙げた。ジョーカーの提案を採用するというサインである。


「メリュジーヌがケントとアイリスに近づいている。主を怒らせないように注意喚起しておけ」


 魔王の左側に立つ者がお辞儀をして姿を消した。


「ジョーカー、ギルベルトの相手は任せるぞ」


 黒い鎧、グライアスが道化師に話しかけた。


「私は次元門の準備をしないといけないからな」


「そうだね、そろそろ作っておいた方が良いね♪」


 悪魔達は、目的達成のための準備に取り掛かっているのだった。

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