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ヌマネズミを食う魔物

 ケント達は乗合馬車に乗り、谷底を目指した。フォックスバローでは希少な木材が採れるため、買い付けの商人もよく利用するのだ。が、今回の乗客はケント達四人だけであった。


「おおー、思ったより緩やかな坂なのネ!」


 谷底へ向かうスロープは、遠目から見ると真っ直ぐ下るように見えたが、円状の崖に沿っているので緩やかにカーブして徐々に下りる形になる。


「本当に歩きじゃ何日かかるか分からないな」


 ジャレッドが眼下の景色を眺めながら呟く。馬車はかなりのスピードで進むのでぐんぐん谷底に向かうが、徒歩なら今いる地点まで到達するにも日をまたいでいる事だろう。


「途中に休憩所が幾つもあるのは、馬車だけでなく徒歩で旅する冒険者も多いからなんですね」


 アイリスが時々追い抜いていく徒歩の冒険者を確認しながら感心したように言う。この道を整備した人達の苦労を思い、称えているのだ。


「フォックスバローへの道は伝説の勇者ダイダロスが切り拓いたというけど、当時は本当に崖を下って谷底へ向かったらしいね」


 ダイダロスが蛮族と交流を始め、その後数十年の時をかけて両種族力を合わせてこのスロープを作った。多くの旅人が利用するのに合わせて、旅人向けの店などが増えていったのだった。


「あれはなに?」


 コレットが指差す先に、立て看板が見えた。


『危険! ヌマネズミ生息地』


「ヌマネズミって、雑魚モンスターだろ?」


 不思議そうなジャレッド。


「ヌマネズミ……」


 嫌な記憶を思い出し、顔をしかめるアイリス。


 そして、ケントはかつて自分がルーブ村で村人に語った事を思い出していた。


――ヌマネズミは弱いが、しばしばそれを餌にする強力なモンスターを引き寄せる。油断していると思いがけない伏兵に出会う危険があるのだ。


「これは、本当に危険かも知れない」


 すぐに同じ事を仲間に説明するケント。


「どんなモンスターが来るの?」


 コレットが目を輝かせて聞いてくる。どうやら戦ってみたいようだ。


翼竜ワイバーンだよ」


 翼竜は非常に有名なモンスターだ。大空を自由に飛び、極めて高い身体能力を持つ。一般的な竜族と違い吐息ブレスによる攻撃は出来ないが、硬い鱗に覆われた身体には生半可な刃は通らず魔法の効きも悪い。そして鋭いかぎ爪とクチバシによる攻撃が獲物の命を瞬時に奪うのだ。


「翼竜だってぇ!?」


 ジャレッドがコレットよりも更に目を輝かせる。


「お客さん、無茶はいけませんよ。そうやって翼竜に挑みたがる冒険者はたまにいますが、よく返り討ちに遭うんですよ」


 御者が注意してくれる。やはり有名なモンスターと戦いたがる者は少なくないようだ。


「そうですよ、私達は探し物があって来たのですから」


 アイリスも同調して二人をたしなめた。


 だが、それからしばらくしてそのアイリスが大声を上げた。


「いけない!」


 彼女は周辺の生物の魂を見る事が出来る。その能力は目では見えない障害物の先にいる者も見えるのだ。


 アイリスは岩壁の陰にいる者達の魂を察知した。翼竜と、襲われている一人の少女の魂を。


「お客さん、それはバーバリ……」


 御者が止める言葉を最後まで聞かず、馬車から飛び出す四人。


 走って壁の向こうへ行くと、まさに巨大な翼竜が軽装の少女にかぎ爪を伸ばしているところだった。


「ふんっ!」


 金属がぶつかる音が響く。少女が手にした、その身には不釣り合いな程大きな両手剣ツーハンドソードが翼竜の攻撃を弾く。


「大丈夫ですか!」


 声を掛け、剣を抜いて翼竜に対峙するケントとジャレッド。コレットは意識を集中し、アイリスが少女のそばに駆け寄った。


「え? ちょっ……」


 困惑した様子の少女をよそに、ケントとジャレッドが翼竜の翼を斬り付ける。悲鳴を上げる翼竜に、コレットの放つ風の刃が襲い掛かった。


(いける!)


 ケントは確かな手ごたえを感じた。強力なモンスターにも自分の剣は通用する、そう思った時――


 ズバァァン!!


 豪快な音と共に、翼竜の首が飛ぶ。


「ちょっとー、ウチの獲物横取りせんでくれる?」


 地面に落ちるモンスターに背を向け、少女が大剣についた血を拭った。


――――――


竜族 ワイバーン

才能値 18000

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