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蛮族との出会い

 強大な翼竜を事もなく仕留めた少女は、ケント達に話しかけてきた。


「アンタ等冒険者さん? よくいるんよねー、翼竜に喧嘩売りたがるヒト達。モンスター退治はウチ等蛮族バーバリアンに任せておけばいいんよ」


 腕を頭の後ろに回して伸びをしながら、軽い口調で話す彼女は蛮族を名乗る。ケント達は想像の遥か上を行く強さを見せつけられ、状況がなかなか受け入れられずに呆然としていた。


「失礼だぞ、マキア!!」


 突然、頭上から雷鳴のような叱責が飛んだ。


「ひゃんっ!」


 ビクッと肩をすくめ、目をつぶるマキアと呼ばれた少女。間を置かず彼女の横に崖の上から飛び降りてきたと思われる筋骨隆々の大男が着地した。


「お、お父ちゃん」


 身長は二メートル以上あるだろうか、小柄な娘とは対照的にこちらはケント達がイメージする蛮族そのものといった容姿である。


「すげえ筋肉だ……」


 思わず呟くジャレッドの言葉に、心の中で同意しつつも相手を怒らせるのではないかとヒヤヒヤするケント。だが男はマキアの頭を掴んで無理矢理下げさせ、自らも頭を下げた。


「上から見ていました。娘を救おうとして頂き、ありがとうございます」


 彼の丁寧な態度に、逆に恐縮してしまう一行だった。


「私は蛮族の戦士をまとめる立場にあります、ライオネルと申します。こちらは娘のマキアです」


「僕はケントといいます。彼女はアイリス、この子は妖精のコレット、彼はゴブリンのジャレッドです」


 お互いに自己紹介をした後、ライオネルは改めてケント達を称賛した。


「見知らぬ他人を救おうとするその優しさ、それに翼竜にも十分通用するほどの武勇。実に素晴らしい! 貴方がたを是非客人として迎えたい、こちらへはどういった用件でいらっしゃったのですか?」


 ケントは事の経緯を話した。かつてダイダロスが神の加護を得た勇者の聖域で、管理者から依り代を探してくるように言われたという内容である。


「ダイダロスは知っとる! ケントは勇者の後輩なんね」


 無邪気に相槌を打つマキアだが、ライオネルは顎に手を当て何やら考えている。


「依り代か。心当たりはあるが……一度我が家へお越し頂けますか? お話したい事があります」




 待っていてくれた乗合馬車に蛮族の親子と共に乗り、谷底へ向かう事になった。


「蛮族って本当に強いんだね! 才能値いくつ?」


 コレットがマキアに話しかける。蛮族の少女は自慢気に答えた。


「ウチの才能値は30400ね。これでも蛮族の中で三番目に高いんよ?」


 実に高い才能値だ。それもケントやアイリスと違い、数値通りの強さを持っているのだろう。


「そういえば、フォックスバローには二人の勇者が訪れていると聞きました」


 アイリスがコボルトのフロリッツから聞いた話を思い出し、尋ねた。


「カストル殿とアウローラ殿ですね。それぞれ単独でモンスターを退治するためにやって来ました。ここからまた北へ向かうのだそうです」


 ライオネルの態度からすると、あまり親しくはない様子だ。興味が無いと言いたげである。


(彼等は歓迎されていないのかな?)


 礼儀正しい印象のライオネルだが、急に素っ気ない態度を見せた事に違和感を覚えるケントだった。




 谷底の集落へ到着する頃には、すっかり日が暮れていた。住民が暮らす家屋はどれも樹木と一体化しており、自然との調和を考えて作られた事が分かる。人間であるケントやアイリスはエルフの住居を思い浮かべたが、コレットによるとエルフはもっとレンガ等を用いて独立した建造物を作るのだという。


 出迎えてくれた蛮族達は、男はライオネル同様の巨漢揃い。そして女もマキアと違って逞しい肉体を誇る者ばかりだった。小柄な女性はマキアを含めて数名程度である。


「さあ、歓迎の宴を開こう。マキアが仕留めた翼竜を焼いてくれ」


 翼竜の肉を焼いて食うのだという。蛮族の名にふさわしい豪快な食事にジャレッドは興奮気味だ。


「うおお! 食事の前には筋トレだ!」


 腕立て伏せを始めたゴブリンを不思議そうに見つめる蛮族。そして彼が腹筋運動を始める頃、ライオネルがケントを秘かに自分の家へ招き入れた。


「確かめたい事があるのですが、ケント様は非常に高い才能値を持っておられますね?」


 マキアの才能値を聞いた時から、ケントはこうなる事を予想していた。自分の才能値は彼女の三倍以上あるが、圧倒的に戦闘能力で劣っている。疑念を持たれるのは当然である。


「はい、僕は高い才能値を持って生まれました。でも、それに見合った強さを持っていません」


 実際に測才鏡で測ってみせた。


 だが、ライオネルの反応はケントが予想していたものとは大きく違っていた。


「おお、まさしく貴方様こそが我々の待ち望んでいたお方です! どうか私の息子に会ってやって下さい」


――――――


蛮族少女 マキア

才能値 30400


蛮族戦士 ライオネル

才能値 35200

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