ケントはライオネルに案内され、彼の息子に会いに行った。
「我々蛮族は、人間同様生まれた時に才能値を測ります。そしてその強さも確認するのです。何故なら、蛮族の言い伝えによると才能値はその者の強さを表すだけではないからです。才能値は戦う才能と神と対話する才能の合計値。才能値に見合った強さを持たずに生まれて来た者は、すなわち神の言葉を聞く者・
蛮族には戦士と祈祷師、二つの職業があるという。ただし祈祷師は言い伝えに残るのみで少なくともライオネルが知る範囲の過去には存在しなかった。
「その息子さんが祈祷師なんですね。そして僕もそうだと」
ケントは蛮族戦士の言わんとするところを理解していた。同時に、これまで抱いてきた劣等感が一気に無くなってしまうかもしれないという希望が心に湧いてきたのだった。
「そうです。ですが、息子のアベルは自信を無くしてしまっているのです。周りに誰も同じ境遇の者がいないため、疎外感に苛まれていて最近は部屋に閉じこもりがちでして」
ここまで話を聞いただけで、ケントはアベルと是非友人になりたいと強く思っていた。
話が終わり、いくつかある扉の一つに向かって立ち止まるライオネル。他の扉に比べて見るからに豪華な造りになっており、特に大切にされるという話が本当だとわかる。
「こちらです。アベル、お前に会わせたい方がいるんだ!」
ライオネルが扉に向かって話しかけた。
「ワシは誰にも会いたくないんじゃ!」
扉の向こうから若い男の声が聞こえた。どうやら機嫌が悪いらしい。
「アベルはマキアの双子の兄なのですが、妹が今日初めて飛竜を狩りに行くと聞いて部屋に籠ってしまったのです」
その話を聞いて我が事のように胸が締め付けられる気分になったケント。アベルはどれほど辛い思いをしているのかと。
先ほどマキアの強さを目の当たりにした時の気持ちと、自分がヌマネズミも倒せず落ち込んでいた時の気持ちを思い浮かべて見るが、まだ彼の気持ちを追体験するには至らないと理解した。
「なーに? まだ出てこないの?」
いつの間にか、マキアがすぐ後ろにやって来ていた。
「お兄ちゃん、神様に祈りを捧げてよ。ウチや他のみんなは飛竜を狩れても、お兄ちゃんみたいに神様とお話する事は出来ないんよ?」
優しい声で語りかけるマキア。彼女は兄の事を自慢に思っていた。伝承の存在である偉大な祈祷師は蛮族の戦士にとっては憧れの存在なのだ。
だが、同時に兄がずっと劣等感に悩まされている姿も見てきた。どうにか励ましたいが、強い自分にはそれが出来ない。彼女もまた、悩みを抱えて生きてきたのだった。
ケントはギルベルトに話しかけられた時の事を思い出していた。そして、扉に向かって努めて明るい声で話しかけた。
「やあアベル、僕はケントっていうんだ。君は強くないんだってね? 実は僕も同じでさ、旅に出て初めて戦ったヌマネズミに勝てなかったんだ」
「ヌマネズミに勝てなかった!?」
アベルが食いついてきた。彼もケントやアイリス同様、ヌマネズミに戦いを挑んで負けた経験があるのだ。
「うん、あの時は落ち込んだなあ。これでも才能値98000もあるんだよ?」
「きゅ、98000!?」
今度はマキアが驚愕の声を上げる。
「お待ち下さい、ヌマネズミに勝てなかったのですか? ならばどうやって飛竜に剣で傷をつけるほどに強くなれたのです?」
ライオネルはまた別の疑問を持っていた。
「ええ、ある人に強くなる方法を教わったんです。それで旅を続けるうちに少しずつですが力を付けてこれました」
ケントが黒騎士に剣を教わった話をすると、ライオネルもマキアも心底驚いた表情を見せた。
「それは本当の話なのか!?」
同時に扉が勢いよく開き、中から若い男が姿を見せる。アベルにとって、とても抗う事の出来ない魅力的な会話だったのだ。
「初めまして、アベル」
にっこりと笑って、ケントはアベルに手を差しのべた。アベルは上半身裸で腰ミノを着けており、頭には羽飾り、顔には独特の化粧をしていた。祈祷師が神に祈りを捧げる儀式をする際の格好だ。
その姿を見た時、マキアはいじけていた兄が実は彼女のために祈祷をしてくれるつもりだったと知って思わず涙をこぼした。父ライオネルは口元を手で押さえ、震えている。
「本当に強くなれるのか?」
改めて聞き直すアベルに、力強く頷いて見せるケント。アベルはその手を握りしめた。
「よく出て来てくれたな、アベル」
「お兄ちゃん! その格好……」
父と妹に話しかけられたアベルはハッと我に返り、すぐにまた扉の中に入ってしまった。
「えええ!? なんでえ?」
「うるさい、帰れ!」
そんなアベルの様子にケントは吹き出してしまった。
「プッ。大丈夫ですよ、とりあえず戻りましょう。アベル、また後でね!」
ケントに促され、親子はアベルをそのままにしてまた宴会場に戻るのだった。
――――――
蛮族祈祷師 アベル
才能値 30500