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神への祈り

 宴会場に戻ると、適度に切り分けられた飛竜の肉が香草を燃やした火で炙られていた。血抜きもろくにしていないで仕留めたまま数時間経った肉は、そのままでは臭みが強くなる。蛮族バーバリアンは先祖代々積み重ねてきた経験から、飛竜の肉を美味しく焼く方法を編み出していた。


「良い匂いするネ!」


 ワイルドな焼き肉を不安そうに見ていたコレットも、芳しい匂いに期待を膨らませていた。アイリスも先ほどより落ち着いた様子である。


「凄い筋肉だなあ!」


 ジャレッドは筋トレが終わったらしく、蛮族の肉体を観賞していた。気の良い蛮族の男達が彼に向かってポーズを決めて笑っている。すっかり打ち解けた様子だ。


「お待たせ!」


 そこにケントが帰ってきた。


「お帰りなさいませ、ケント様。何か嬉しい事があったのですか?」


 アイリスが彼の機嫌の良さに気付いて尋ねてきた。


「うん、素敵な出会いがあったよ。アイリスやみんなともきっと仲良くなれると思う」


「むむ? これは仲間の勧誘をしていたな!」


 コレットがケントの肩に飛び付く。


「また魔王を倒そうとか言ったの?」


「ばば、蛮族の仲間が増えるんですか!?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべてからかう妖精に、興奮するゴブリン。


「いや、まだ仲間になるかは分からないよ。彼は蛮族にとって大切な人だから。一緒に来てくれたら嬉しいけどね」


 笑顔で答えるケントの態度から、さぞかしいい人なのだろうと三人は思った。




 肉が焼け、宴の準備が整った頃。ライオネルがマキアを連れて皆の前にある一段高くなった舞台に立った。


「皆の者、よくぞ集まってくれた! 今日はわが娘マキアが初めて一人で飛竜を狩ったと同時に、我々が尊敬できる勇者達がやって来てくれた。さあこの素晴らしい日を共に祝おう!」


 ライオネルに背中を押されて前に出たマキアは照れた様子で挨拶をする。


「えへへ、まあウチにかかったらこんぐらい楽勝やけどな!」


 大人達が笑い、酒の入った杯を手にした。


「ちょっと待ちーや! その前にワシが肉を神様に捧げるんじゃ!」


 そこにアベルが駆け出して来た。先程の格好に、更に狐の姿を模した飾りのついた杖と楕円形の盾を持っている。


 その姿を見た蛮族達は「おおお!」と歓喜の声を上げ、興奮している。彼等もアベルが落ち込んでいたのを知っているので、出て来てくれた事に喜んでいるのだ。


「すげえ! なんだあれ!」


 ジャレッドも興奮している。アベルは戦闘力は低くとも蛮族の男であるため、美しく発達した筋肉に覆われた巨体の持ち主であった。それが祈祷師シャーマンの儀礼装束に身を包んで現れたのだ。


「お兄ちゃん!」


「アベル!」


 妹と父も声をかけた。


「ほら、二人とも座れ! 始めるぞ」


 アベルはぶっきらぼうにそう言うと、二人の変わりに舞台に立ち杖を空に掲げた。


「ナ ナカトウン サ ジョース!(神に捧げる)」


 アベルは高らかに祈りの言葉を唱え、雄壮な踊りを開始した。


 激しく切れのある動きと躍動する筋肉に、筋肉マニアのジャレッドのみならずケントやコレットまでもが見惚れてしまう。アイリスもアベルの魂が美しい輝きを放っているのを見て笑顔になっていた。




 笑顔に溢れ最高に盛り上がる宴の様子を、離れた場所から見ている者がいた。


「へぇ、楽しそうね。美しい家族愛を感じるわぁ」


 宵闇に溶けるような黒い姿のそいつは、人知れず妖艶な笑みを浮かべるのだった。

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