フォックスバローに棲むモンスターは飛竜だけではない。この地に住む
ライオネルに案内された祭儀場以外にも蛮族の集落はいくつもあって、日々激しい戦いを繰り広げているのだった。当然、その中には劣勢の集落もある。数で勝る鬼族に対抗するため、人間の勇者に協力を依頼する事も度々あった。
「実は、勇者カストルがここに来たのは一年前の事なんね」
宴が終わり、一晩休んだ後の朝。他の勇者の事を気にしていたケントにマキアが教えてくれた。
「最初は一緒に鬼族と戦ってくれる仲間だと思っていたんやけど、ちょーっとウチらとは考え方が違ってて」
蛮族は長い間鬼族と戦い続けてきた。どちらも力自慢で正々堂々とした戦いを好む種族だった事もあり、敵ながら互いを尊敬する部分もあった。
だが、勇者カストルは違った。モンスターは全てこの世から消し去るべき邪悪な存在という考え方だったのだ。
「人間の中でモンスター退治を一手に引き受ける勇者としての立場からすれば、ごく普通の思想なのかもしれません。広い視野で見れば彼の方が正しいのかもしれないとも思います。ですが、彼が怯える幼い鬼族を躊躇なく殺して回る姿を見た時、私には彼を尊敬する事ができなかったのです」
ライオネルが勇者カストルの話をする時に素っ気ない態度を見せた理由を語った。ケントも話を聞く限りでは、確かにカストルに良い印象は持てないと思った。
(でも、一方的に悪く言っていいものではないか。僕達の人間としての常識では将来の脅威となる幼いモンスターは情けを捨てて仕留めるべきとなっている)
ケントは勇者として教わった事を思い出しながら、モンスターとされているゴブリンのジャレッドを見る。彼の事を知る前、モンスターは全て消し去るべきと自分も思っていたような気がした。
「それで、アウローラは?」
コレットがもう一人の勇者について尋ねた。
「あの姉ちゃんは、半年前ぐらいに来たんやけど……」
口籠るマキア。すぐにアベルが言葉をつないだ。
「ワシの事を知ったら、自分から蛮族と距離を取るようになったわ」
その言葉を聞いて
「だが、彼女のおかげで
非常に高い才能値を持つという勇者ケントの事はライオネルの耳にも入っていた。彼の戦いぶりを見た時、もしやと思ったのだという。
「それで、どうやったら強くなれるんじゃ?」
「ウチももっと強うなれるん?」
話が一区切りついたところで、兄妹に詰め寄られるケント。
「あはは、そうだね。僕も教わっただけなんだけど、一緒にやろうか」
ジャレッドも加わり、ライオネルも興味深そうにしているので五人で剣の素振りから改めて行う。コレットとアイリスは二人で魔法の練習を始めた。
「ギルベルトさんっていうすごく強い人に教わったんだ」
「ほう、それは是非とも一度お会いしたいですね」
そうやってこの日は一日、訓練と理屈の勉強に費やしたのだった。ケント達の目的である依り代については日を改めて取りに行く事になった。
◇◆◇
フォックスバローの中心部、蛮族の間で聖なる土地とされている場所。そこに、勇者アウローラがいた。
「くっ……お前は一体」
地面に膝をつき肩で息をする彼女は、全身に無数の裂傷を負っていた。
「ウフフ、ちょっと退屈しちゃってねぇ。でも弱すぎてつまらないわ。仲間もいないみたいだし」
冷たい目で勇者を見下ろす半人半竜の悪魔。
「やっぱり、蛮族と遊んだ方が楽しいわね。ケントは殺せないし」
彼女は動けないアウローラに目もくれず、その場から立ち去るのだった。
――――――
勇者 アウローラ
才能値 24000