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十二人の疎通者

 魔王の居城にて。ガープに連れられて戻って来たメリュジーヌを見たグライアスは呆れたような口調で質問した。


「なんだ、またやられたのか。主を怒らせるなと言われただろう……それで、首尾はどうだった?」


 それに答えたのはガープだった。


「ケントやアイリスではなく蛮族の祈祷師がクウコを呼び出した。あいつ――アベルも『疎通者コミュニケーター』だ」


「……あと三人だな」


 グライアスは腕を組み、言う。中身のない黒い鎧は動きと口調で感情を表現するが、今の彼の気持ちは傍から見て察する事が出来ない。


「主が睨みを利かせていたおかげで蛮族を調べる事は出来なかったからな。ケントの監視にかこつけて奴等にちょっかいを出したのは結果的に正解だったよ」


 ガープが状況の説明をしながらメリュジーヌに慰労の言葉をかける。


「うむ、今回は素晴らしい成果を上げたな。だがメリュジーヌももう少し強くならなくてはいかんぞ。そろそろ秩序の主と対立していく事になるからな」


 うなだれていたメリュジーヌは、顔を上げて力強く宣言した。


「強くなるわ! あんな雑魚種族にしてやられるような屈辱はもうたくさんよ」


 その表情からは自分を痛めつけた人間やゴブリンに対する憎しみがうかがえる。


「丁度いい、ダイダロスが力を付けたトレーニング法を再現する算段がついたところだ。最初の体験者になってもらおう。なあ、ジョーカー?」


 ガープに名を呼ばれ、姿を現すモノクロの道化師。


「おやおや、誇り高き竜人がついに努力をしてしまうんだね♪」


 メリュジーヌは少し不安になった。


「四天王勢ぞろいとは珍しいですね。何か面白い話があるのですか?」


 いつも魔王の身の回りの世話をしている侍女が、彼等に気付き話しかけた。


「いつの間にそんな呼び名がついたんだ? 仲間を四人に限定するつもりはないぞ、エリザ」


 グライアスがエリザと呼んだのは、メイド服を着た明るい茶髪の女性だった。手に空の洗濯かごを持っているところから、一仕事終えた帰りである事がわかる。


「うふふ、でも疎通者って呼んだらメリュジーヌさんが仲間外れになっちゃうでしょう?」


 揶揄からかうように流し目でメリュジーヌに視線を送るエリザ。


「五月蠅いわね、私は混沌の主の愛を受けているのよ。声が聞こえるだけ・・・・・・・・の貴女と違って」


 険悪な空気が生まれる。エリザとメリュジーヌは仲が悪いようだ。


「喧嘩をするな、二人とも混沌の主に必要とされている大切な仲間だ」


 やれやれとばかりにため息をつきながら仲裁をするガープ。


(疎通者はあの方をこの世界に呼び出すために必要。この力を持つ十二人は重要な存在だが、同時に秩序の主と対話できてしまう危険もあり真の信頼を得るに至らない)


 二人の様子を見ていたジョーカーは口に出さず、頭の中で現状を整理する。合わせて頭の中で現在掌握している『疎通者』九人をリストアップしていった。


・魔王

・ガープ

・グライアス

・ジョーカー

・エリザ

・ケント

・アイリス

・イジュン

・アベル


(……そして、あと三人は『忌み子』として追放された人間二人と完全に居場所も種族も不明な一人か)


 メリュジーヌに挑発的な笑みを向け立ち去るエリザの背中を見つめて、呟く道化師。


「愛情が深すぎるね♪」


◇◆◇


 ケント達は、アウローラの話をライオネルに伝えた。


「そうでしたか。お互い誤解から不要な距離を取っていたようだ、次にお会いした時は尊敬すべき友人としてお迎えしましょう」


「それでは、僕達は勇者の聖域へ戻ります」


 依り代を手に入れたので早速聖域の管理者に渡しに戻ろうとするケント。彼は早く修行して強くなりたいという気持ちで焦っていた。


「おう、さっさと行こうや!」


 アベルがケントを促す。


「えっ、一緒に来るの?」


 心底意外そうに言うコレット。口に出したのは彼女だけだが、その場にいた全員が同じ気持ちだった。


「行くに決まっとるじゃろ! なんじゃ、ワシは除け者か?」


「いや、でもここのみんなを守らないと……」


 ケントは先程のような悪魔がまた来た時に空狐の力が必要なのではと思っていた。だがアベルは首を振る。


「それは違うぞ、ケント。確かに神の力があれば恐ろしい悪魔にも勝てるかもしれん。じゃが、それは蛮族にただ強い奴に守られとけって言っとるのと変わらん。蛮族の誇りを捨てろと言うとるようなもんじゃ。誇りを捨てた者を神が親切に守ってくれると思っとるんか?」


 彼の言葉に、マキアとライオネルははっと驚いた表情をした後、力強くうなずいた。


「そうや、ウチらが自分の力で戦わないと!」


不貞腐ふてくされていたくせに良い事を言うではないか』


 アベルの杖から空狐の声が聞こえる。これはケント、アイリス、アベルの三人にしか聞こえず、少しバツの悪そうな表情をするアベルの事をマキアは照れているのだと考えた。


「心配は要りません。ケント様に強くなる方法を教わりましたし、次は今回のようにはやられませんよ」


 そう語るライオネルの顔はとても晴れ晴れとしていた。


 アベルも仲間に加え、五人でフォックスバローを離れる事にした、その時。


「大変だ! 鬼族オーガが攻めてきた!」


 北の方角から血相を変えて走って来た蛮族が、新たな脅威を伝えるのだった。


――――――


魔王のメイド エリザ

才能値 150000

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