目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第五章 鬼と勇者と混沌の申し子

鬼族の侵攻

 鬼族オーガは強力な種族だが、蛮族バーバリアン程ではない。だが、数が多い事と死ぬまで攻撃を止めないしぶとさで蛮族を長年苦しめてきた。


「鬼族は約二百もの軍勢で一斉に南下してきました。恐らくこの時のために力を蓄えていたのでしょう」


 ライオネルがケント達に説明する。


「そんな悠長に説明してる場合じゃないヨ! 早く助けに行かないと」


 コレットの言葉に頷くケントと仲間達。


「そうじゃ、クウコの力があれば鬼族が何百人来ようが大丈夫じゃ!」


 杖を振り上げ、アベルが力強く言うと蛮族の戦士達は拳を挙げて咆哮にも似た声を上げ気合いを入れた。


「あれ、お兄ちゃんさっきと言ってる事違ごてない?」


「細けぇ事を言うな、使えるもんを使わん手はないわ!」


 マキアにからかわれ笑顔で反論するアベル。兄妹の微笑ましいやり取りに頬が緩むケントだが、コレットが言うように今はのんびりしている場合ではない。ライオネルに目配せで出発を促した。




 鬼族が地面を踏み鳴らして進む。総勢二百名にも及ぶ鬼の軍勢はこれから始まる戦闘を思い、雄叫びを上げながら足を進めるのだった。鬼の雄叫びと鳴動する大地に迫りくる危機を察知した蛮族の集落は、伝令を一人ライオネルの下へ向かわせ戦闘の準備を始めた。


「へぇ、かなりの数が迫ってるみたいだけど交戦するつもりなんだ。しゃぁない、最後に付き合ってやるか」


 手にした双剣をクルクルと回しながら軽い足取りで防衛陣地に向かうのは、勇者カストルだ。彼は鬼族と蛮族が頻繁に小競り合いをしている北部の集落で活動していた。そろそろこの地を離れて北のゴールドレイクに向かうつもりだったのだが、出発を前にして鬼族の侵攻が発生したのだった。


「カストル殿、敵は大勢や。無理に付き合わんとゴールドレイクに行きんさい」


 集落の長である蛮族のジルがカストルに退避を促す。ライオネルはカストルを尊敬できないと言ったが、ジルは集落の仲間を何度も救ってくれた彼を大切な仲間だと思っていた。もちろんジルもカストルの容赦ない殺戮には思う所がある。だがそれでも多大な恩を忘れる事はないのだ。


「馬鹿言っちゃいけねぇよ。ここで見捨てたら勇者の名が廃るってもんさ」


 双剣を振り回しながら言う勇者は、細面の端整な顔立ちをした男性である。年齢は四十すぎだが、若々しい肌と快活な表情から二十前後に見える。才能値は20000と蛮族と比べて高くはないが実際に戦場に立つと獅子奮迅の働きを見せた。その強さは『神の奇跡』によるものだと言われている。実際には長年の戦闘経験によって実力が上がっただけなのだが。


 細く吊り上がった目を更に細め笑う表情は、狐を連想させる。黄色がかった茶髪と金色の目が更に狐の印象を強めるが、身に纏う青い軽鎧がその印象を薄めていた。


「行け! 今こそ蛮族を蹴散らし、この谷を我ら鬼族の楽園とするのだ!」


 集団の先頭で仲間を鼓舞する大柄な鬼族は手にした棍棒を指揮棒のように振りかざしている。彼女の名はブレンダ。鬼族の王に使える側近の一人である。


「我が王は混沌の主より言葉を授かりし『混沌の申し子』である。蛮族などに負けるものか」


「ウオオオ!」


 ブレンダの鼓舞に応え雄叫びを上げる鬼族の群れ。その士気の高さを示すように、手にした武器で木々をなぎ倒して進むのだった。


――――――


勇者 カストル

才能値 20000


蛮族|(平均値)

才能値 21000


鬼族|(平均値)

才能値 16000


鬼族 ブレンダ

才能値 25500

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?