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愚かなダンカイル

 森を進むケント達は、アイリスの誘導に従って進んでいた。


「便利な能力だな。どんな風に見えてるのか気になるよ」


 カストルの声に皮肉の響きはなく、純粋に感想を述べているだけであった。なので、アイリスも口元を緩ませ穏やかな口調で応えた。


「私も皆さんがどんな景色を見ているのかいつも気になっていますよ。不便はないとはいえ、目で見るという感覚を体験してみたいものです」


 アイリスの言葉に他意はなく、彼女の口調にはなんら暗いものはなかったのだが、聞いていたケント達は彼女の目に光を与える方法はないかと考え、押し黙ってしまった。


「まて、敵の気配だ!」


 少しの沈黙を破り、カストルが警告の声を上げる。沈黙の時間が短かったために気まずくならずに済んだ事は幸いだったが、戦闘の予感に各人の心拍数が上昇した。


「えっ、私の目には見えませんが……まさか、またあの道化師クラウンが!?」


 以前彼女の目を欺いて見せた大悪魔の事を思い出したケントは、緊張し鳥肌が立つのを感じた。


(まずいな、僕達はまだあいつと戦えるような段階じゃない)


 空狐の力でメリュジーヌには勝てたが、助けに来た幹部の男には通用しなかった。だからきっとあの道化師ジョーカーにも通じないだろうとケントは考えていた。その考えは正しいのだが、今回は彼の心配も杞憂きゆうに終わる事となる。


 勇者達の前に現れたのは、大柄な鬼族の男に率いられた数十人の鬼族達だった。敵の姿を確認したカストルは、馬鹿にしたような笑みを浮かべる。


「鬼族か。どうやってアイリス君の能力を破ったのかは気になるが、頭は良くないようだな」


「ほえ? こんなにいるのにヤバくないん?」


 カストルの態度に、マキアが不思議そうな声を上げる。


「ふん。俺の頭は確かに良くないが、混沌の申し子たる王の指示に間違いはない!」


 大柄な鬼族、ダンカイルは反論した。


「ホントにね~、気付かれないように近づくなら不意討ちしないとダメじゃーん」


 コレットがカストルに同調し、馬鹿にしながらケント達の頭上をヒラヒラと舞う。


(フェアリィ・ダンス! 話しながら敵のまやかしを破っているのか)


 即座に状況を把握し、打ち合わせもなくカストルと連携するコレットに内心舌を巻くケント。


「コレット君は賢いね。頭の良さは体の大きさに反比例するのかな?」


 笑みを浮かべたまま双剣を抜き構えるカストルに反応し、ダンカイルも手にした杖を掲げ突撃の命令を下した。


「ふん、ピーチクパーチクうるさい虫ケラどもめ。叩き潰してくれるわ」


「そのデッカイのはケント達で袋だたきにしてネ。他の雑魚は私とジャレッドだけで十分」


「デカブツがうじゃうじゃいればいいってもんじゃないぜ!」


 コレットの言葉に合わせ、ジャレッドがやる気を見せながら剣を抜く。


「あの数を二人では無茶ですよ!」


 ライオネルが止めようとするが、逆にカストルが剣を持った腕を伸ばして制す。


「いや、あの二人だけじゃなきゃダメなのさ」


「ふーむ、ワシは様子見じゃ」


 アベルは自分の出番が無いことを察して後ろに下がる。アイリスもそれに続いた。


「行くぜ!」


 ジャレッドが一声上げると、カストルが敵将に斬りかかる。その横をコレットとジャレッドの二人がすり抜けて鬼族達へと向かって行った。鬱蒼うっそうと生える樹木の隙間を抜け、素早く敵に接近する二人。


 ここに至って、ケントは彼等の意図を正しく理解した。コレットとジャレッドが進むのは鬼族が通れないほど狭い隙間である。ただでさえ身軽で素早い二人は樹木を利用して鬼族を翻弄し、一方的に攻撃を加える事ができるのだ。


「はあっ!」


 自分も剣を振るいダンカイルに斬りかかったケントは、マキアとライオネルにも目配せしてこの大柄な鬼を仕留めるよう促した。


「これでどう? 『アイヴィー・オブ・アイス』」


 コレットが一本の木に手をつき魔法を発動させると、そこから伸びた氷がツタのように周囲の木々に巻き付いていく。それ自体が殺傷力を帯びるほど冷たい氷が、更に鬼族の動ける範囲を制限した。


「鍛練の成果を見せてやるぜ」


 ジャレッドが木の隙間から流れるように剣を振るい、鬼族の首を正確に斬りつけていく。必死に武器を振り回し、ジャレッドを叩き潰そうとする鬼族だが、密度の高い樹木に当たって小柄なゴブリンまで届かない。


 身体を冷やす冷気と正確な斬撃に襲われ、屈強な鬼族が小さな二人になすすべなく次々とやられていった。


「だから言っただろう?」


 あざけるように笑いながら、ダンカイルの身体に傷をつけるカストル。敵の繰り出す必殺の一撃をかわすと、今度はケントが彼の後ろから飛び出して手首の腱を目掛けて斬りつけた。


 武器を取り落としたダンカイルの胴を、マキアが大剣で横凪ぎに斬る。


「ぐうう、おのれ……」


 苦悶の表情で怨嗟えんさの唸り声を上げる彼に、大上段からライオネルの大剣が振り下ろされた。


「しまった、情報を得る前に止めを刺しちまった」


 カストルの焦った声に、止めを刺したライオネルがバツの悪そうな顔をする。


「申し訳ありません、頭に血が上っていました」


「あー、いやいや、大丈夫です。ちょっと混沌の申し子っていうのが何なのか聞きたかっただけなので」


 謝罪するライオネルに、手を横に振って答えるカストル。そのやり取りが終わるかどうかの頃、敵を全滅させた二人が戻って来た。


「お疲れ様。大活躍だったね」


 労いの言葉をかけるケントに笑顔で力こぶを作るようなポーズをして見せる二人。


 結果的には余裕の勝利だったが、カストルとコレットの機転がなければ多勢に無勢でやられていたかもしれない。そう考えると、ただ剣を振るだけでなく頭を使う事も練習していかなくてはと思うケントだった。


――――――


鬼族 ダンカイル

才能値 30000

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